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同族殺しは愚者である  作者: 三月弥生
第五章 深森教示
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    三者迷走(2)


 ――フォーエンという街はもう無いわ、この世界の何処にもね


 それがフォルティナの知る事実であり、同時に名無達が旅の道標を失った事を示す言葉。しかし、名無は驚きに眼を見開くことも落胆に肩を落とすことは無かった。


「それは街の名称が変わった訳では無く、街その物が無くなったという意味で間違いないか?」


「え、ええ……その通りよ。フォーエンはこの世界の何処にも存在しない、のだけど……」


「なら幾つか聞きたい事があるんだが良いだろうか?」


「……何かしら」


 どちらかと言えば何の動揺も見せない名無の姿にフォルティナの方が戸惑っていた。彼女にしてみれば、何の情報も得られなかった名無から間違いなく批判の声が上がる。その腹いせに名無が暴力に訴える、とは考えてはいないだろうが厳しい言葉を駆けられる事は覚悟していたに違いない。

 だが、結果は落ち着き払った名無の様子に面を喰らった有様である。


「君がフォーエンの事を知っているのはフォーエンの生まれだからか?」


「違うわ、私とは違う土地で生まれた人間でも知っている事よ」


「街としての規模は?」


「住人の数は三十万人程、その内の四割は魔族。言うまでも無く分かってるとは思うけど、フォーエンは貴方達のような関係の二種族が集まって出来た街よ。規模が規模だから表向きは人間が魔族を虐げている様に振る舞い偽装はしていたらしいわ」


「それだけの規模で偽装工作を成功させていたのか……凄まじい練度の統制力だな」


 互いに心根をしるからこそ傲慢に振る舞い、方や虐げられ苦渋にまみれる様を演じ斬るのは並大抵の事では無いだろ。欲望に忠実だからこそ清廉な感性を持つ者の所作に目が利き、僅かでも隙を見せてしまえばどれだけ多くの協力者がいようともその牙城は容易く崩されてしまう。

 人数が多ければ多いほどつけいる隙は大きくなる……もう存在しないという事実が、一瞬の隙を見せてしまう恐ろしさをいやという程に証明している。


「街として存続できた正確な期間は分かるか?」


「其処までは分からない、でも短くはないはずよ」


「そうか……なら此処までにしておこうか」


「随分と早く切り上げるのね?」


「確かに他にも効くべき事はあるが……これ以上は君も辛いだろう」


 名無は自分の質問に対して丁寧に答えてくれたフォルティナの足下を――彼女の身に付けているレラのローブから微かに見える震える膝に眼を向ける。


「普通に話を出来るだけの余裕はあるんだろうが、君は流と戦ったばかりだ。体力も気力もだいぶ消耗しているはずだ、そんな相手に無理をさせるつもりは無いさ――流にも考える時間は必要だろう」


 フォルティナから流、そして頭上を覆い尽くす森の天蓋を見やり再度視線を二人に戻す。


「空が見えないから正確な時間まで分からないが、まだ日が落ちると言うには早い時間だろう。それでも君達二人は休んだ方が良い、君達が回復為るまでの護りは俺が請け負おう」


「それじゃ私は手持ちのハーブで気分を落ち着けられるお茶を入れますね、付け合わせにティニーちゃんが魔法の練習で取ってくれた果物がありますからそれも出しましょう」


「じゃあじゃあ、ティニーはもう一いっかいフォルティナお姉ちゃんとナガレお兄ちゃんのしんさつするね! いたいところとかへんなかんじがするところがあったらいってね!!」


『ではワタシはティニー様のサポートを。マスター、ワタシをティニー様に』


「ああ」


 名無とマクスウェルの二人で周囲の警戒、索敵を行えば盤石……とまでは言わないが万全である事なのは確かである。しかし、ティニーの治療にマクスウェルの力が大いに役立つのは既に実証済み。

 視界が限定的になる森の中であれば索敵に力を入れる必要はあるが、同時に取れる行動を限定される事でもある。その事を考えれば森の外から広範囲高威力の魔法をはなたれでもしなければ、周囲に意識を配るのは名無だけで事足りるだろう。

 マクスウェルを外しティニーの首元に取り付ける動作に澱みはなく、その姿からは自分一人でも問題ないという長年の経験から培われた自信が覗えた。


「………………」


「はあー……名無だけじゃなくてレラさんやティニーちゃんも凄いや、やっぱり旅をしてると色んな事が出来る様になるんだな」


 休憩に向けての段取りを揉める事なく組み、それぞれが為べき事を理解し、迅速に動く姿にフォルティナは唖然とし流は感心の声を溢す。三人での旅もそれなりの時間を重ねている為、名無達からして見れば勝手知るやり取りでしか無い。しかし、優れた科学力と質の高い教育と生活基盤が確立されている社会で生きてきた流にして車や電車などの交通機関を使わず、自分の足で歩き見聞を広める旅をしたことなど無いのだろう。

 交通手段が異なれば取れる選択肢も変わる、一言で旅と言っても観光といった和やかな物から新たな移住の地を見つける為、敵の手から逃れる為の逃避行など旅をする者の立場と状況によって意味合いも目的も様々である。

 その中でも名無達の旅は充分に過酷な部類に分けられるものだ、だと言うのに自分達よりも他者を優先して行動を起こす姿勢はフォルティナと流にとって色々と衝撃的だったに違いない。


「俺は少し辺りを見てくる、敵対者がいるとは思えないが念の為に守りの魔法を幾つか掛けておく。流達は気を楽にして休んでくれ……レラ、後は頼む」


「分かりました、ナナキさんも気を付けて下さいね」


「ああ、直ぐに戻る」


 置いてけぼりにしている事実に気付く事無く流達に労いの言葉を掛けた名無はレラにこの場を任せ、切り開かれた平地から陽光を遮り静かに暗闇を孕む森の中へと姿を消した。


「すみません、お茶の準備が出来るまでもう少し待って下さいね」


「じゃあ、そのあいだにわるいところがないかみちゃうね」


 周囲警戒に出た名無を見送ったレラは流達の為にハーブティーの用意に入っていた。野宿に用いられる野営道具として持ち歩く為、デザインや使い勝手はやや劣ってしまうもののティーポットにティーカップ。茶漉し等ハーブティーを淹れる為の道具を並べながら湯が沸くのを待つレラ。

 敗者の終点(ルーザー・フィーネ)を出てから先を急ぐ必要性が高くなったとは言え、第一にティニーの体力を考えながら歩を進めなければならない。その為名無とレラ、二人旅だったときよりも休息を取る回数は多くなり必然的にお茶を楽しむ時間にもなっていた。

 火打ち石で火をおこして湯の準備から、ハーブティーに必要なドライハーブの場面にあった効果を持つ茶葉の選択。香りを損なわせないお湯の温度の見極めにティーポッドで適切なの蒸らし時間等々。

 ティニーや名無の体調を少しでも良好にと気遣いから出来上がるお茶は、今では三人の心身を癒やしてくれる欠かすことの出来ない旅のお供である。


 とは言え、魔法を使わずに用意する為に時間が掛かってしまうのは仕方が無い事である。ティニーの助けを借りて魔法で火をおこすのも一つの手ではあるが、ティニーに魔法に頼らない生活の術を身に付けておいて欲しいという名無達の教育方針のような思いから可能な限り既存の道具を使っての生活習慣となっていた。

 勿論時と場合、ティニーの魔法力の向上のために魔法を使うことも忘れてはいないものの今回ティニーには幼くも一人前の医師としてフォルティナと流の治療に当たってもらう事になっている。

 レラがティニーに頼む事なくお茶の準備を進めるのも、ティニーの治療に支障が出ないようにとの思いからくるものでもあった。


『――フォルティナ様、流様。両名の生体スキャン終了、お二人とも外傷はありません。ですがマスターが言ったように肉体的疲労を確認しました、言うまでも無いと思いますがフォルティナ様の方がより顕著に顕れています』


「疲れているのは事実だけど別に隠してたわけじゃ……気に障ったのなら謝るわ」


『お気になさらず、一応の和解が成ったとは言えワタシ達は互いに見知ったばかりです。相手を警戒する、もしくは互いに優先すべき項目に対して配慮する事は間違いではありません。先ほどの問答に関してもマスターの疑問を尊重してのものでした、感謝いたします』


「……どういたしまして」


 ティニーの首元で機械水晶を淡く輝かせフォルティナに言葉を掛けるマクスウェル。

 三人の態度と対応にも戸惑っているフォルティナだったが、更に拍車を掛けるようにマクスウェルからも礼を尽くされてしまってはもう肩の力を抜くしか無かった。

 フォルティナは小さく息をつき地面に腰を下ろす。流も彼女に続くように座るものの当然ながら隣同士ではなく、五メートル程距離を空けて座るのだった。


『流様のバイタルも正常です……ですが、ご自身で何か異常を感じますか?』


「あったらいってね、ティニーがなおしてあげる!」


『異常があるのでれば具体的な症状をお願いします。熱、痛み、感覚、違和感等。何一つでも気に掛かる点があれば遠慮無く』


 外部機器の補助がないとは言え、マクスウェルの生体スキャンの精度は本職の医師と何ら変わらない。異世界における種族特有の症状に対して常の情報収集を怠らず、着々と医療関係の知識を蓄えている。

 しかし、そんなマクスウェルでも流への対応は慎重にならざるおえない。

 名無と同じ輪外者という存在であっても、その成り立ちは完全に異なるからだ。名無とは違い薬物投与によって形成された肉体が元になっている以上、能力を多用した事で何かしろ不具合が発生している可能性が大きいからだ。

 それが彼女の生体スキャンで解析できる物であれば、この場で行える医療的処置をティニーに提案する事が出来る。だが、解析できない何か、本人にしか自覚できない不調が有るので有ればマクスウェルの解析だけでは不十分。

 これらの点を踏まえて、マクスウェルは流に入念な詰問を繰り返す。


「大丈夫、傷は名無に治してもらったしね。熱も平熱だし、五感も変わった感じは無い、身体とか気分的にも違和感は無いよ」


『そうですか、何も異常が無いのであれば何よりです』


 流もマクスウェルの質問にハキハキと答えていく、しっかりとした受け答えに力強い声音からマクスウェルの杞憂ですんだ事が分かる。


「てぃにーもナガレお兄ちゃんにわるいところないとおもう、けがもびょうきもないからあんしんしていいよー!」


「そっか、立派なお医者さんのティニーちゃんのお墨付きなら安心だ。診てくれてありがとうね」


「うん!」


 ティニーから診ても疲れ以外にめぼしい症状はない、何事も無いと分かってはいても医師の診断を受けている最中は不安なものだろう。流も二人から結果を聞けて安心出来たようで、診察の緊張で伸びていた背筋がやんわりと丸みを帯びた。


「――お待たせしました、お茶の用意が出来ましたよ」


 二人の緊張が解れ始めた時、より穏やかな空気に誘うようにレラの声が響く。


「フォルティナさんとナガレさんに合わせて疲れが取れる効果があるハーブティーを淹れました、高ぶった気分も落ちつかせる事も出来る物ですよ」


 どうぞ、と二人にハーブティーが入ったティーカップを手渡すレラ。

 彼女が渡したカップの中には透き通った黄金色のハーブティー、湯気と供に柔らかく優しい香りが二人の鼻腔をくすぐり自然と口元を緩ませる。


『色合い、香り、抽出された成分からジャスミンティと同質の物です。ナガレ様にはなじみ深い物ではありませんか?』


「そうだね、ハーブティーの事をあんまり知らなくても知ってる人は多いくらいだもん。確かにレラさんが言ったみたいにリラックスするには良いお茶だよね」


「じゃすみん、てぃ? それにりらっくすだったかしら……あまり聞かない言葉がでたけど、お茶に詳しいの? 私は初めて見るわ」


「ああ、そんなに詳しいって訳じゃ無いんだ。どう言ったら良いのかな……えっとジャスミンティーっていうのは」


『ジャスミンティーとは、煎茶やウーロン茶の茶葉にジャスミンの花の香りを移したものです。元々は品質の落ちた茶葉を飲むために蕾の状態であるジャスミンの花を使用し開発されれ、ジャスミンティーに含まれるリロナールには鎮静作用や抗不安作用、カリウムには過剰摂取した塩分の調整効果があり高血圧の予防。その他カルシウム、マグネシウム、リンには歯や骨の形成を助ける作用が確認されています。他に同じ効果を期待できる物はカモミール、シナモン、アシュワガンダ、オートムギ、シソ、シベリアニンジン等です』


「……こんな感じらしいお茶なんだけど…………分かった?」


「私が理解できていないことが分かっていて聞くのはどうかどと思うけど、要点だけで言えば品質の悪い茶葉を美味しく飲むために出来たもので身体にも良い。それだけ分かれば充分よ」


「俺もそれくらいしか分からないんだけどね、マクスウェルさん色んな事を知ってるんだね」


『お褒め頂きありがとうございます、他にも注意点などがありますがお聞きになりますか?』


「も、もう大丈夫! それより冷めないうちに飲もうよ。せっかくレラさんが淹れてくれたんだし」


「ええ、そうしましょう」


『ではレラ様が淹れたハーブティーを楽しみながら疲れを癒やして下さい、付け合わせのドライフルーツも同じような効果が得られ得るものもありますので』


 ジャスミンティーについて詳しいことが分からない流達の為に懇切丁寧に解説したマクスウェルだったが、彼女の説明に理解が追いつかない二人。善意から出た行動であるのだが、詳細すぎた事で困惑させてしまったようだ。 

 しかし、マクスウェルは特に動じる事もなく後の解説の是非を流達に委ねた。もしかしなくとも二人の様子から助け船を出し、説明の時間を終わらせたに違いない。

 ハーブティーの茶請けに用意されたドライフルーツの種品目から作り方、栄養素の解説を話題に挙げなかった事からも間違いないだろう。

 そんなマクスウェルの気遣いに気付けたかどうかは分からないが、流とフォルティナは手にしたカップに口を付ける。


「おおっ……味もジャスミンティーだけど今まで飲んだのよりずっと美味しい! 何だろ? 匂いと味がよりハッキリしてるというか……??」


「無理に違いをあげなくて良いわよ、私は初めて飲んだから貴方の言う違いなんてわからないもの。でも、美味しいのは確かね。変わった味だけど全然くじゃない」


「身体に良いんですが苦手な方もいるんです。けど、お二人の口に合って良かったです。お茶請けの方も一緒に食べて下さい、干して甘さが増した果物をナナキさんとナガレさんの故郷だとどらいふるーつって言うんですよね? 沢山作り置きがありますから遠慮しないで下さいね」


「それじゃ遠慮無く!」


「少しは遠慮しなさい、旅の物資は限りがあるのよ」


「気にしないで下さい、お茶もそうですけどどらいふるーつの材料はこの森でも取れますから。さっ、フォルティナさんもどうぞ」


「そう……何から何までありがとうレラさん」


「ティニーもたべたい!」


「はい、ティニーちゃんもいっぱい食べてください。お茶もちゃんとティニーちゃんの分もありますから」


「ありがとー、レラお姉ちゃん!」


 レラの用意したハーブティーとドライフルーツは流とフォルティナの隠しきれず滲んでいた緊張感と警戒心を解き解し、疲れた身体と心を物柔らかな優しさで癒していく。特にフォルティナには効いたのか、まだ流に向ける言葉の節々にキツさはあるものの角が取れた物腰の柔らかさが感じられる。

 だからこそティニーも気を許し二人と茶を傾けている、そんな三人の近い距離感にレラは頬を緩め自身手製の茶と茶請けに舌鼓を打つのだった。



































(……僅かとは言え打ち解けられたか)


 レラに流達を任せ周囲の偵察に出たナナキは流とフォルティナ、二人に気付かれぬよう身を隠し様子を窺っていた。距離としてはマクスウェルの赤外線センサーからギリギリ外れた場所。

 偵察はあの場を離れるための建前、周囲の警戒は流達との一件が無くとも名無とマクスウェルが常に行っている。現状、知覚出来る範囲に敵の姿はなく魔法的な気配も感じない。周辺に対する警戒はそのままに、名無は流達の姿を眼で捉えながら静かに思考に意識を傾ける。


(流達の事は一段落付いたと考えて良い。問題はフォルティナがフォーエンについて何を隠しているのか……か)


 フォーエンは存在しない、そう口にした彼女は気落ちした素振りを見せていたが動揺はしていなかった。しかし、フォーエンを知っているかどうかの問いかけへの反応が実質的にフォルティナの心情だったのは間違いない。


(直接街の有無、状態を見たわけじゃ無い。彼女が嘘をついているかどうか判断するのも難しい所だが、恐らく嘘ではない)


 まだフォーエンが存在し、フォルティナが嘘をついたとする。

 魔族と人間族が手を取り合い多くの人間達の眼を欺く。その秘密を自分が他者に漏らさないという保証は無い上に、流との間を取り持っただけでは明確に味方だと言える材料になっていない事も要因の一つ。

 それ以上に対魔王勢力の拠点だと話していた事からも自分が魔王側の間者である可能性が大きいと考えているのだろう、原因としては《輪外者》の証である銀の瞳。

 銀の瞳は輪外者が自身の能力を発動させている証。しかし、この世界において銀色の眼は魔王によって選ばれ異能を与えられた人間族もとって最高戦力――選定騎士だけが持つ畏怖の象徴。

 そんな眼を持った流と戦い立て続けに自分と遭遇した、本来であれば対話も成立したかどうかの状況だったはず。だと言うのに今こうして曲がりなりにも流と和解を果たしお茶を飲み交わす事が出来ているのはレラとティニーのお陰だろう――そして同時にフォルティナの気が緩む最大の好機でもあ。


(俺が切れる残りの手札は燐火さんの存在、フォルティナが彼女の事を知っているかどうかでどう動くかが決まる)


 燐火がティニーに託した記憶では人間族の街だった。だが、彼女が身を寄せていたと言う事実から当時から魔族と共存していたとしても可笑しくはない。そしてフォルティナも燐火や杏奈達のように魔族を良き隣人として見る事が出来る人物。

 フォルティナは街が滅び、フォーエンの生まれである事を否定した。であるなら、燐火という人物について認知の有無を問いかけても、返ってくる反応は『知らない』ということばだろう。だが、自ら関わりを否定していながらフォーエンの名に過剰なまでの反応を見せた矛盾(しつぱい)がある。


(フォーエンに俺達に知られてはならない何かがあるのか……それともフォーエンの存続そのものを隠したいだけか、後者であれば直ぐに自分の不利を悟って話してくれるかも知れないが)


 前者であれば間違いなく長期戦になる。

 深い森の中ではあっても息苦しさを覚えるような閉鎖感は無い、食料となる果物や動物達もいる。長期戦となればなるほど状況は向こうにとって有利に働く。

 少しでも早く情報を引き出してフォーエンに辿り着く、もしくは別の目的地への手かがりを掴みたい自分には既に分が悪い状況が完成されてしまっている。この状況を打破する為に出来る事は焦りを押し殺す事だけ、そして……


(……流がどんな動きを見せるかも注視しなくては)


 この現状における異物にして不確定要素――風音流。

 最も近く、最も遠い同族の少年もただ黙って状況に身を任せることはしないだろう。元の世界に戻れる方法を探す為に、一番の手がかりとも言える自分やフォルティナに対して必ず探りを入れてくる。

 流に一切の悪意がない言動と行動が自分達にとっても同一の意味合いを持ったものとなるかは分からない。下手をすれば流の行動次第では薄まったフォルティナの警戒心をより頑ななものにしてしまう可能性も充分にあるのだ。

 名無は漏れ出そうになる溜息をぐっと堪え、決して二人に悟られぬよう気配を殺し息を潜め穏やかに茶を傾けるレラ達の様子に注視するのだった。




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