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同族殺しは愚者である  作者: 三月弥生
第三章 偽幸現壊
31/111

00  ■■は希う

挿絵(By みてみん)











































――――ありがとう――――








































 何も見えない。

 見えてるのは人も物も、色も一筋の光さえもない真っ黒な世界だけ。







 ――――ありがとう――――







 何も匂わない。

 鮮やかな花や手が込んだお菓子の甘い匂い、日干しした布団の柔らかい匂い、犬や猫……動物達の独特の匂い、男の人の匂いも女の人の匂いも子供の匂いもお年寄りの匂いも。世界に溢れている色々な匂い全部。







 ――――ありがとう――――







 何も感じない。

 眼が見えない、匂いがしない。舌で感じる事の出来る味も、肌で感じる事が出来る暖かさ、寒さ、熱さ、冷たさ、こそばゆさ、痛み……身体を動かすどころか喉と耳だって今ではもう使い物にならない。

 ……それでも恐いとは思わない。辛いとも思わない、苦しいとさえ思いもしない。

 だって、







 ――――ありがとう――――







 今はもう聞くことの出来ないその言葉が、自分の心を満たしてくれている。

 この言葉を聞くことが出来ただけで充分だ、これ以上は何も望まない。この言葉こそが自分が望んで手に入れた掛け替えのない宝物なのだ。

 言葉として、音として二度と聞くことは出来ないけれど。思い起こせばすぐに思い出せる。




 ――ありがとう――




 ――ありがとう、ありがとう――




 ――ありがとう、ありがとう、ありがとう――










 ――――ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとウ、ありがトウ、ありガトウ、あリガトウ、アリガトウ、アリガトウアリガトウ、アリガトウアリガトウアリガトウ、アリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウアリガトウ――――









 自分の思うように生きて、したいようにしただけで、こんなにも感謝の言葉を贈られたのだ。自分がしたい事をして大勢の人達が満面の笑みを浮かべてくれる。

 これ以上無い幸せを『私』は手に入れ――




 ――■■だ■、■ん■の■■っ■る!――




 ……手に入れたのは間違いない。けれど、何故かあの子の事を思い出した。

 幼なじみではないし姉妹でもない。でも、出会った日からあの子の事は本当の妹のように思っている。だからだろうか……あの子の事を思い出してしまったのは。

 これが未練、という物なのかも知れない。

 自分が望んだ幸せを手にしていながら、まだ気に掛かることがある。我ながら贅沢な最後。それでも、彼女の事を思い出してしまったら急に心配になってきた。




 ……でも、大丈夫。




 あの子は自分と同じ。

 自分と同じように幸せを掴むことが約束されている……何も心配いらない。その時こそ彼女も分かってくれる。

 今日という日を、自分が手にした幸せをくぐもった声で否定されてしまったけれど……。

 貴女が『私』に抱かせたこの未練、どうか貴女が抱く事がありませんように。そして、貴女が同じ瞬間に立ち会った時……きっと『私』の気持ちを理解してくれていると願わせて。




 この暗闇が永遠の安寧であるのだと。




 この場所こそが居るべき場所なのだと。




 この日、この瞬間の為に平穏な日々を謳歌する事こそが多くの人々と『私達』の清く正しい幸せの形なのだと知って欲しい。



























 だって、『私達』は約束された幸せを享受し皆の幸せを紡ぐ■■なのだから。













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