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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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49/60

極道夫婦の作戦会議

「夏波ぁ!帰ったでぇ!!」


ガラリと部屋の襖が開かれ、背が低く、頭を金髪に染めてサングラスをかけた男が入ってきた。


「あら虎助トラスケさん。お帰りなさい」


「なんや、『お楽しみ』の最中やったんか?」


「まあね。ほら、退きなさい!」


夏波は足元にある鬼坊の頭を蹴り飛ばし、自身の旦那である虎助をベッドに迎え入れた。


「相変わらず、『ええ趣味』しとんなぁ」


「もう、意地悪言わないで♡」


夏波の顔からは、先ほどまでの弱者を見下ろして冷酷に嘲笑うような表情は消え、まるで彼氏に甘える若き少女のような態度へと変わった。


「で、どうだったの?幹部会は」


「ああ、もう俺らの敵はおらん。95%が『虎助派』や。親父の跡目あとめはほぼ決まったな。それもこれも、全部お前が魔法で敵を消してってくれたおかげや!」


そう言って笑う小柄な男の横で、その妻は不穏な顔を浮かべた。


「……残りの5%は?」


夏波の鋭い目つきを見て男は「……ああ」と声を低くして小さく舌打ちをし、ライターで煙草に火をつけて煙を吸い込み、吐き出しながらから言った。


月竜会ゲツリュウカイ……兄貴んとこや。あいつらだけ最後まで自分らが正統な後継やー言うて、やいのやいの騒いどるわ。とっくに大勢は決したっちゅーのにな」


「……そう」


虎助が組長を務める「月虎会」は、「豪月組」という関西を牛耳る極道組織の下部組織である。


そして豪月組の組長、豪月鳳翔ゴウゲツホウショウは現在病床にあり話ができない状況にある。


彼は病に倒れる前、二人の息子にそれぞれ組織を持たせた。


兄の竜司には月竜会。

弟の虎助には月虎会。


二人の息子が数年間それぞれの組織を運営する様子を見たあと、「自分の後継は竜司だ」と言い、鳳翔は病に倒れた。


「あれだけやねん。兄貴が自分こそが後継やって言い張る理由は……でも、親父の言葉や。絶対に兄貴は折れへんやろな。こんな状況でも」


月竜会と月虎会の勢力差は最初は五分五分であったが、虎助は魔女の妻、夏波の力で敵対組織や月竜会に味方する組織を潰していった。


その結果、関西地域の極道組織では「月虎会に逆らうと鬼の面を付けた恐ろしい男が来る」と噂が立ち、中立であったはずの組織も全てが虎助の味方となった。


その結果、虎助が話す通り月竜会と月虎会の勢力差は5対95ほどとなり、「豪月組」の跡目は虎助──という情勢が完成した。


しかしこのような状況でも竜司は諦めず、「父の意思を継ぐのは自分」と意見を曲げずに、真っ向から弟に反目していた。


「ほんっと、諦めが悪いのね。お義兄にいさん」


「まあでも、明後日にはそれも終わるわ。明日の夜は港に例の大量の密輸武器が届くさかい、明後日の朝に月竜会に乗り込んで兄貴に引導を渡す」


虎助の月虎会は武力による勢力拡大を信条としており、危険な武器を海外から多く購入していた。


「強引なやり方にはなるが……それに騒ぐ連中も、もうおらへんし大丈夫やろ。この兄弟喧嘩、最後は俺の手で終わらせたる」


「あらあら。お義兄さんともそれでお別れね♡」


夏波は馬鹿にしたようにケラケラと笑い、「ま……」とため息をつきながら続ける。


「後継者で揉めるのはどこも変わらないのね。ヤクザも、魔女も」


「ああ、そうか。お前んとこも大変やったって言うてたなぁ。後継者に選ばれんかったお義姉ねえさんが反目したんやったよな?それに夏波が賛同したとか……」


虎助は夏波から何度もその話を聞いていた。そして自分はこの事件で神器を手にした夏波のおかげで今の地位となったため、虎助は春華に感謝する立場であった。


「ま、でも私は納得してたよ。秋奈いもうとが後継者になることは。だって、月光色の魔力の魔女しか子供に魔力が遺伝しないんだもん。仕方ないよ」


「ん?ほな、なんでお義姉さんに手ェ貸したんや?」


「あはは、神器が欲しかったからに決まってんじゃん!私は『魔法が使えない魔女』っていう退屈な人生に耐えられなかっただけ」


夏波は楽しそうに笑い、「というかアンタ感謝しなさいよ。私に神器があるから次期組長にまでなれるんだからね」と言って虎助の腹をつんつんと指で突いた。


「わはは。それもそうやなぁ。しかし、月光色の魔力なぁ……努力も実力も関係なしに後継者が決まるんは、なんか残酷ではあるよなぁ」


「まあ、ね……」


夏波は小さくため息をつき、10年前のクリスマスイブの夜に春華が母親に泣きながら「自分はこんなにも努力したのに、魔力が月光色だからお母さんは秋奈を選んだ」と長年の悲しみと怒りを語っていたのを思い出した。


「あ、でも俺はお前の魔力の色が一番いっちゃん好きやで!夏波の赤黒い魔力、なんか血がドロッ……て出るみたいやん?月光なんかより、よっぽど悪そうでカッコええわ!ヤクザにピッタリやでほんま!」


「と、虎助……」


夏波は熱っぽい目線で虎助を見た。

初めて出会ったときから、素直なこの男が好きだった。


魔女の一族の生まれだと話したときも、魔法は一族で管理されていて使えないと話したときも、素直に受け入れてくれて笑ってくれた。


身勝手で攻撃的な性格ゆえに敵を作りやすい夏波にとって、こうして笑顔で自分の全てを優しく受け入れてくれる虎助は愛おしく思えて仕方なかった。


虎助から『出来が良い兄がいるせいで常に日陰に追いやられて育ち、自分は跡目にはなれそうもない』という現状を聞いたとき、夏波はよくできた春華あねと後継者になることが確定している秋奈いもうとに挟まれて育った幼少期の記憶から彼に同情してしまった。


そのとき夏波は「私が絶対に、あなたを組長にしてあげる!」と虎助の手を強く握り、約束したのだ。


「虎助ぇ……♡」


「夏波ぁ……♡」


「…………えっと、あの……」


熱く見つめあっている二人を、どうすればいいか分からず慌てている鬼坊が見ていた。


「あんた、こういうときは気を利かせて出て行きなさいよ!!」


「し、失礼!」


鬼坊は慌てて新月刀を拾い、襖を開けて素早く部屋から出ていった。


─────────────────


「ふあー、やっと着いたねぇ。遠かったぁ〜……」


「お前、ほとんど寝てたじゃないか」


彗が助手席で「んっ……!」と声をあげながら体を伸ばすと、宵は運転で疲れ果てた顔から冷たい視線を送った。


「それでまずは何食べる?たこ焼き?お好み焼き?もんじゃ焼き?」


「完全に観光気分だな……あともんじゃは関西じゃないぞ、彗」


宵はそう言いつつも空腹ではあったので、目指していた現場近くのコインパーキングに車を停め、彗が「ここ入りたい!」とうるさいお好み焼の店に入った。


「さて、作戦会議だ」


「なんで車内でやんなかったの?」


「お前が寝てたからだろ」


二人は遠征先ではあるが、いつも通り夕食時の作戦会議を始めた。

少し焦げたソースの臭いが彗の鼻腔を擽り、彼女は腹の虫が大声で鳴くのを感じた。


注文した品が来るのを楽しみに待ちながら彗が兄の話を聞いていると、店員が来て鉄板でお好み焼きを作り始めてくれた。


店員が去ったのを確認してから、宵は再び話し始めた。


「まず、現場に行って調べてみることにする。魔法が使われた痕跡……は残っているかは分からんが、殺された人の関係者に会えるかもしれん。まずはその辺りに接触して情報収集だな……」


「ふんふん。はふはふ」


彗はヘラで切り分けたお好み焼きを口に頬張りながら聞いていた。



☽ あとがき ☾


夏波と虎助は、夏波が関西に旅行に行った先のバーで虎助にナンパをされる形で出会いました。


虎助は彼女の「美しさ」を。夏波は虎助の「刺激」を求め、二人は互いに恋に落ちました。


しかし話をしていくと二人は「特殊な家系に生まれたが、優秀なきょうだいが将来実権を握ることになる」という、互いに似た境遇に生まれていることに気が付きました。


そこから二人は互いを愛すようになり、最終的には結婚してしまうわけです。


恋は相手の中の「自分にはないもの」から始まるのですが、愛は相手の中の「自分にもあるもの」から始まるのです。


恋愛とは、不思議なものですね。

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