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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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「怪盗の助手」兼「探偵の助手」

「で、助手にされちゃったんだね。お兄ちゃん」


「………ああ」


「すごいなぁ。怪盗の助手と探偵の助手を兼ねた人なんてこれまで一人もいないんじゃない?」


「許してくれ……こうするしか、なかったんだ……」


アパートで夕飯を食べながら、彗は訝しげに目を細めながら兄をチクチクと責めていた。


「あーあー、お兄ちゃんはずっと私だけの相棒だと思ってたのになぁ!まさか敵に寝返るなんて!」


「うう……」


宵は申し訳なさそうに目を伏せた。


「今度あの探偵と戦うときは、『まずは助手のお前からだ!!』ってお兄ちゃんにドロップキックすればいいのかな?怪盗Witch Phantomは」


「そ、それだけは!!」


「だって、敵なんだも〜ん?」


彗は日常的に兄に説教されることが多いこともあり、自分が優位に立てたときはこうして執拗に責め立ててくる習性があった。


宵は自分の理があるときはそれを武器になんとか反撃を試みるが、今回は難しい。


なにせ、「怪盗の助手」が怪盗に無断で「探偵の助手」になってしまったのだ。

怪盗すいが怒るのは必然である。


「んー、今夜のカレーは美味しかったけどちょっと辛かったからなぁ。私、マンゴージュースとマシュマロとチョコアイスとシュークリームが欲しいなぁ〜」


「お前、こんな時間にそんな大量に甘いものを食べたら体に悪いだろ!血糖値が大変なことに……」


「なぁに?探偵の助手さん。怪盗の私に文句があるの?」


宵は「うぐ」と言葉に詰まった。


「なんでもありません…….好きに食べてください」


「あれ?でもそんなものうちの冷蔵庫にないなぁ。うーん、誰が買いに行くのがいいと思う?探偵の助手さん」


「俺が行くよ……」


「誰のお金で買うの?探偵の助手さん」


「俺の金で買うよ。彗……」


「あれ?呼び捨て?私は怪盗『Witch Phantom様』でしょ?ちゃんと怪盗の助手らしくやり直してくれる?」


「ぐっ……彗!!お前、流石にいい加減に……!!」


宵は立ち上がり、怒ろうとした。

怪盗の助手としてではなく、兄として妹の態度を。

しかし宵が立ち上がった瞬間に彗はそれを読んでいたように言葉を被せてきた。


「あれぇ!?もしかしてお兄ちゃんは怪盗わたしの助手じゃなくて、本当は探偵の助手だったってことぉ!?これはお腹にドロップキックぶち込むしかないかなぁ?」


宵は、明智江戸川金田一の代わりに自分が彗に蹴り飛ばされる光景を想像し、血の気が引いた。


勝手に探偵の助手になってしまった負い目と、暴力ドロップキックの脅し。

今夜の兄妹喧嘩は妹の圧倒的な勝利で決着がついた。


「う、Witch Phantom様……この助手めが、すぐにご所望の品を、買って参ります……!」


宵は苦しそうな顔で自分の財布を握りしめ、スーパーへ向かうためにアパートから夜の街へと飛び出して行った。


「わっはっは、しばらくは天下だね。こりゃ」


彗は玲香に熱っぽい目で見つめられながら「Witch Phantom様ぁ……♡」と呼ばれるのは身の毛がよだつ思いだったが、兄に情けない顔で「Witch Phantom様」と呼ばせるのは胸がすくような思いだった。


「あー、おかしぃ。ほんっと、真面目人間は扱いやすくて面白いなぁ」


彗はゲラゲラと笑いながら兄を見送った。


「さてと……」


彗はテーブルの上の食器を片付け始めた。

兄が帰ってきたら、買ってきたデザートを一緒に食べるために。


シュークリームは、宵の好物なのだ。


─────────────────


「動画の解析が最終段階だよ。中村助手」


宵が明智江戸川金田一にそう呼び出されて大学に向かうと、何故か宵は明智と犬を探すことになった。


「……明智先生、動画は?」


「む?さっきも言っただろう。最後の解析に時間がかかるのだ。PCパソコンのスペックが低くてね、あと数時間はかかるからその間に別の依頼に取り掛かろう、というわけだ」


宵が訝しげな顔で尋ねると、明智は平然とそう答えた。


宵は早く動画の解析結果が知りたいこともあって苛立ち、持たされている捕獲用の網を握る力が強くなった。


「あ、名探偵!今日は何してるの?」


一人の女子学生が、明智に声をかけた。


「む?ああ、君か。今日は経済学部の樋口先生のペットを探している。ところでこの辺りでミニチュアダックスを見なかったかい?」


「うーん、見てないなぁ」


「そうか……ところでこの前のインコは元気かい?」


「うん、もう脱走されないように気をつけるね!」


「はっはっは、逃げ出してしまったらまた私のところへ来たまえ」


「おおー!名探偵先輩じゃーん!!ちぃーっす!!」


女子学生が去ると、次は男子学生3人組が明智に声をかけた。


「おお、君たちか。相変わらず元気そうだな。ええと、君はビール……だったかな?」


「おお、さすが名探偵!記憶力パネェ!」


男たちはいかにも学生生活を謳歌していそうな連中で、図書館で一人で自習などをしていることが多い宵はあまり関わることがなさそうな人種であった。


「彼らは『黒系の組織』というサークルの連中でね。夜な夜な大学内のあらゆるところで飲み会をして大騒ぎをする連中だ。私が留年する原因となった連中だが……気のいい奴らばかりだよ」


(ああ……なんか言ってたなぁ……)


宵は立体駐車場で怪盗Witch Phantomとして彗が明智と対峙したとき、彼が「怪しい団体の飲み会に巻き込まれてテストに寝坊した」といった内容の話をしていたことを思い出した。


「連中は名前の通り黒系の服に身を包んでいる。ほら彼らもグレー、紺、黒の服を着ているだろう」


「男子大学生なんてだいたいそんな服じゃないですか?」


明智は宵の言葉を流し、彼らの紹介を続けた。


「そして彼らは互いのことを独自のコードネーム……酒の名前で呼び合っててね。彼がビール、彼がハイボール、彼がウイスキーだ」


「明らかに何かしらのパクリ設定なのに、飲みサーっていう設定だから酒名のコードネームがものすごくしっくりくる!!」


「そして私もコードネームを付けるように言われてね。私は『芋焼酎いもじょうちゅう』と名乗っている」


「なんでそんな和名にしたんですか!?明らかに一人だけ浮いてません!?」


宵のツッコミに耳を貸すことなく、彼らはウェイウェイと言いながら明智に手を振って去っていった。


「………」


宵が明智を観察していると、彼は意外と多くの人に慕われていることがわかった。


明智は宵が入学する前から、こうして大学の中で「探偵」として活動して多くの人助けをしてきていたのだと知った。


「あ、あの、明智先生。俺、気になることがあるんですけど」


宵は明智を「先生」と呼ぶことには抵抗があったが、そう呼ばないと明智が返事をしない上に、執拗に自分のことも中村「助手」と呼んでくるため、諦めてこの呼称を受け入れていた。


「なんだね?中村助手」


明智は植え込みの中をガサガサと調べながら返事をした。


「なんで、『探偵』を始めたんですか?」


宵は疑問だった。

明智がやっていることは大学のボランティアに近い。

明智の服装から憧れていると察する、フィクションに登場するような探偵と、現実の探偵は違う。


「探偵事務所」を開いたからといって、殺人事件の調査ができるわけではないのに、なぜこんなことを続けているのか。


(まあ、怪盗は現れたんだが……)


宵は自嘲気味に小さな苦笑いを浮かべた。


「ふむ。なぜ『探偵』か……か。もちろんこのスタイルに憧れがあったことは否定しない。私は一種のコスプレイヤーとも言えるだろう」


「ですよね?」


「しかし、私の本当の目的はとある人物を探すことだ。……私の母だ」


明智は地面の方に視線をやり、少しの間目を瞑った。


「…….母は新聞記者で、とある組織の取材をしていたんだ。しかし8年前に姿を消した」


「ッ………!!」


宵は、予想外の答えに言葉に詰まった。


「私が『探偵』を自称してSNSで大々的に活動すれば、怪しい話をリークしてもらえることも多い。私は母にもう一度会うためならなんだってやる。こんな格好でも、ペット探しでも、『名探偵』として実績を積めるならなんでもだ」


インターネットなどを使って自力で人間を探すことがいかに難しいかは、家族の仇である叔母たちを10年間探していた宵にはよく理解できた。


だからこの男は、自分が「探偵」として有名になることで多くの人間から情報を得ようとしたのだ。


「ちなみに母の名前は『江戸川加奈エドガワカナ』という。結婚後も旧姓で仕事をしていたのだ。……きみは、何か知っているか?」


そう言って宵の方に視線を合わせた明智の表情はどこか諦めたように悲しそうで、そして縋るような目だった。


おそらくこの質問を数えきれないほどの人にしてきて、そして全ての答えが同じだったのだろう。


彼の期待に応えてやりたいと宵がいくら思おうとも、宵の答えも明智が過去に尋ねた他の人間たちと同じだった。


「いえ、何も……」


「……そうか」


明智は慣れた様子で小さく頷き、小さなため息をついた。


宵はそんな様子の明智を見て、一つ彼を理解した。


(『江戸川』は母親の旧姓だったのか……)


父の苗字、母の旧姓、自分の名前を組み合わせてこの男は「明智江戸川金田一」と名乗っていたのだ。


家族を失う辛さは、宵にも痛いほどわかる。


どうか明智先生が……この探偵が事件の真相に辿り着けますように、と宵は心の中で小さく祈った。


「ほら、また一歩『名探偵』に近づいたぞ!中村助手!」


「え?」


明智の嬉しそうな声を聞いて宵が顔を上げると、そこには一匹のミニチュアダックス犬が植え込みから飛び出してきたところだった。


「体には茶色い菱形でダイヤ模様、額には黒色のハートマーク、肉球はクラブの形で、尻尾の先はスペード型!!樋口先生に聞いていた特徴通りだ!」


「今更ですが先生、そんな犬いますかね!?」


「何を言っている、目の前にいるだろう!!捕まえるんだ中村助手!!」


明智の言う通り、二人の目の前にはトランプのマーク全てをその体に有してる犬が歩いている。


「ええい!大人しく捕まれ!!」


宵は深く考えることはやめて、ミニチュアダックス犬に飛びかかった。


☽ あとがき ☾


「黒系の組織」は新都大学内では有名な飲みサークル。


活動内容は飲み会だけではなく、休日に遊園地に行って男だけでジェットコースターに乗ったり、夜の峠の山道をドライブしたりして青春をエンジョイしています。


メンバーは工学部の大学院生や、探偵事務所が入っているビルにある喫茶店でアルバイトをしている学生など、多岐に渡ります。


明智はこの組織のせいで留年しましたが、別に体を小さくされたわけでもないので、彼らを恨んではいません。


大切な人を探す日々の中で、こうした何気ない仲間がいることが彼の支えなのです。

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