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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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怪盗をスケッチしてまとめた本

「動画の解析……ねぇ……」


明智江戸川金田一は、小さなため息をつきながら宵にスマートフォンを返した。


「なぜ私が、動画の解析に長けていると判断したんだい?中村くん」


「あ、前にあなたが怪盗の動画について色々と解析しているのをSNSで見かけて……それで、すごい技術だと思いまして……」


宵はここはほぼ正直に答えた。

自分が怪盗の助手だとは隠さなければならないが、妙な嘘はこの男には通用しないだろう。


「ふむ。怪盗Witch Phantomか……私の宿命のライバルと言っても過言ではない存在だ」


(過言だろ。彗にドロップキック喰らって泣いてたじゃないか)


宵はそう思いながらも表情は崩さなかった。

この男になんとしても動画の解析を引き受けてもらいたいからだ。


「確かに、私は動画の解析から彼奴きゃつの手品を見破った。しかし──」


(『彼奴きゃつ』!?)


「──全てを見破ったわけではない。私の仮説では説明がつかない部分もあったからな。つまり君の言う通り私は動画の解析に心得はあるが、100%この動画を見破るという保証はできないぞ。それでもいいのかね?」


「は、はい!!」


宵は嬉しかった。探偵が引き受けてくれたこともそうだが、自分の実力を必要以上に過信しないこの男に信頼を感じたからだ。


そして、実際に怪盗は魔法を使っているので100%見破れないことは当然。

つまり探偵の発言は「魔法以外は見破った」と言っているに等しく、宵は今回もそれで十分と考えていた。


(フェイク動画でないことさえわかれば……)


明智江戸川金田一は机の中から一枚の付箋を取り出し、「動画解析」と書いてコルクボードに貼り付けた。


「では、3ヶ月ほど待ってくれたまえ。依頼が立て込んでいるのでね」


「えっ、さ、3ヶ月!?」


宵は声をあげてしまった。

そんなに待つことは出来ない。一刻も早く神器を取り返したいという思いと、もしこれが新月刀であれば、その間にさらなる犠牲者が増えていくと考えられるからだ。


自分の母や祖母が患者を治すために使っていた神器で、これ以上人が死んでほしくない。


「もっと、早くやっていただけませんか!?」


「とはいってもなぁ。私は山本君のシャーペンや、樋口教授の犬を探さないと……依頼に上下はないからな。来た順にこなしているよ」


「ぐっ……!な、なんとかなりませんか!?」


当然と言えば当然の話ではあるが、宵はなんとしても早く取り組んでほしかった。


「うーむ……それではこうしよう。君が私の助手になりたまえ。そうすれば早く依頼も片付くだろう」


「くっ………」


宵は今からこの探偵とシャープペンシルを探し、犬を探す姿を想像した。仕方がないことではあるが、早く神器を探したい焦燥が宵の心を焼く。


「わ、わかりました!助手になります!」


宵がそう言うと探偵は「うむ。よろしく頼むぞ」と微笑んだ。


「では、優先的にやってもらえますか?」


「何を言っている。二人で頑張って早く依頼が終わればその後に取り掛かる、と言ったのだ。順番は守ってもらうぞ」


「ぐう……」


宵は頭を掻いた。

しかし探偵の言い分は正論。横入りは自分の方なのだ。何か妙案はないかと頭を捻った。


「ふむ、何か尋常ではない事情があるのか?」


「うっ……」


流石に名探偵を自称するだけあって鋭い。

宵は「はい……」と小さく頷いた。


「それならば、取引はどうだ。私は最近怪盗Witch Phantomのことを特に調べていてね。彼奴の情報を何か知っているのであれば、君の依頼を優先しようじゃないか。どうだ?怪盗について何か知っていることはあるかい?」


「なっ……!!」


(俺が、怪盗Witch Phantomについて知っていること……だと!?)


宵は探偵の顔を見つめたまま固まってしまった。


(全部、知っている……!!)


宵は、彗の顔が頭に浮かんだ。


住所、連絡先、本名、怪盗が昨日食べた夕飯(宵が作った)、怪盗が今朝作った卵料理(美味しかった)。


宵は怪盗の……妹の全てを知っている。


しかしそれらを探偵に伝えることは当然出来ない。

なぜならそれは情報提供ではなく、「妹が怪盗で私はその助手です」というただの自白だからだ。


(な、何かないか……!?)


宵はたまらず、自分のカバンを漁り始めた。

なにか、怪盗に関する怪しまれない程度のものをこの男に渡したい。


(あっ!?)


カバンに詰め込まれた医学の教科書たちの隙間に、宵は一冊の本を見つけた。


(な、なんでこんなものが!?)


それは、玲香が彗をスタンガンで脅迫しながら撮影した動画を元にして描いたという怪盗Witch Phantomの同人誌。

宵は、妹がこれをカバンに入れていたところを見ていなかった。


(そ、そうだ!!)


宵はそれを掴み、表紙の一部が、怪盗Witch Phantomだけが見えてレイカ姫は見えないようにしながら明智江戸川金田一に見せた。


「こ、これは、妹の友人が怪盗Witch Phantomの姿を直接見て描いたどうj……えっと、資料集!そう!資料集です!!」


嘘は言っていないはずだ。

そう思いながら宵が探偵の顔をチラリと見ると、彼は目を輝かせていた。


「な、なにぃ!?それはつまり、怪盗をスケッチしてまとめた本だということか!?」


「……!?!?あっ、えっ、ええ!!そ、その通りですっっ!!」


宵は「このままいくしかない!」と思い、同人誌をカバンに押し込んでから話を続けた。


「お、俺の依頼を優先的に受けてくれるのであれば、これを差し上げます!!ど、どうです!?やっていただけますよね!?」


ドンッ!!


「わっ!」


明智江戸川金田一は、テーブルを拳で強く殴った。

その衝撃で茶器やカトラリーがカチャカチャと音を立てたが、探偵はそれを気にせず宵の目を強く見つめたままその拳を開き、宵の前に差し出した。


「引き受けよう。私はネット上にある怪盗の画像や映像なら全てチェックしたが──、君がそんな貴重な資料を持っているとは知らなかったよ」


「………っ!?え、ええ、まだ世界に三冊しか無いそうです」


宵は探偵の手をしっかりと握り、固い握手を交わした。


「では、動画の解析は一週間で終えてみせよう。来週からは頼むぞ?中村助手」


「はい!……えっ、助手?」


「ん?君は確かに、さっき私の助手になることは約束していたぞ?だからこの解析が終わったあとは、晴れて私の助手だ」


探偵は宵の手を強く握ったままニヤリと笑った。


「なにせ、猫の手を借りたいほどに忙しいのだ。私のことは『明智先生』とでも呼んでくれたまえ」



☽ あとがき ☾


宵は冷静常識人キャラの皮を被っていますが、意外と目的のためには手段は選ばない男。


そもそも満月鏡を取り返したあとに「じゃあいっそのこと怪盗になって目立ちまくって、あいつらをおびき出そう」という狂った作戦を妹に提案してる男ですから。


今回も明智を半ば騙すことに躊躇はありましたが、神器という大きな目的と天秤にかければ、後悔はありませんでした。


彼は倫理でなく、理論で動くのです。


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