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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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43/60

探偵は仲間になりたそうにこちらを見ている

(気は進まないなぁ……)


宵は大学構内を歩いていた。


一限の授業が終わり、次の授業は三限なので現在は空き時間だ。

宵はこういった空き時間はよく図書館で自習をしていたが、今日は違った。


(あの動画を絶対に解析しないと……)


例の殺戮動画が、宵にはどうしてもAI作成やフェイク動画には見えなかった。


彼は幼少期から「宵くんは男の子だから魔法は使えないんだよ。魔法は『魔女』しか使えないから」と両親から言われ続け、母や祖母、そして妹を羨ましく思っていた。


だからこそ、彼は魔法に対して強い憧れと直感がある。

永遠に手に入らないものだからこそ、宵の魔法に対する直感は人一倍鋭かった。


あの動画はただのフェイク動画ではない。宵の直感はそう言っていた。


しかし動画の解析は特別な技術が必要で、今から簡単に習得できるものでもない。


だから宵は、過去に妹の魔法をほぼ見破った「彼」の元を訪ねようとしていた。


「すいませーん!私たち月輪教がちりんきょうです!あなたも教えの輪を広げませんか?」


「えっ?」


宵は突然、背後から知らない女に声をかけられてチラシを渡された。


チラシには全員が同じような笑顔を浮かべている集合写真が映っており、チラシを渡してきた女も集合写真の者たちと同じような笑顔を浮かべていて、宵は少し不気味に思えた。


「あ、ああ……結構です。忙しいので」


「そうですか、残念です。集会は毎週やっているので、ぜひ一度お越しくださいね!」


女はそう言ったあとに改めて宵に向き直り、言った。


「あなたの心が丸くあらんことを!」


「はぁ?」


女はそう言って立ち去ってしまい、宵は意味がわからなかったが、チラシを見てみると「人の心は欠けた月。月輪教であなたの心を満月のように丸くしましょう」と書いてある。


どうやら「心を丸くする」が月輪教のテーマらしい。


月輪教がちりんきょう……大学にもいたのか」


月輪教がかなり大きな宗教組織であることを宵は知っていた。


さらにこの国では月輪教が背後についた政党である「月輪党」が1割ほどの議員議席を獲得している。


つまり、月輪党の候補者に投票する信者が相当な数いるということだ。


宵のアパートに彗が転がり込んでくる前にも、一度勧誘が来たことがある。


(まあ、俺には関係ないか……それより早く行かないと)


宵はチラシを持ったまま、目的地を目指して歩き始めた。


──────────────────


「あった。ここか」


大学の敷地の北西の端には、あまり手入れがされていない林のようなエリアがある。

この辺りには建物もほとんどなく閑散としているが、林の中の歩道を進んでいくと一つのレンガ造りの建物がある。


建物は煙突が付いており、宵は「いつの時代に造られたものなんだ?」と疑問に思いながらその入り口の前に立った。


入り口のドアの横には、大きな看板がかけられている。


看板には「ミステリーサークル研究会」と書かれている。


(『ミステリーサークル研究会』だと、小麦畑とかに夜中に作られる謎の模様を研究していることになるんじゃないのか……?)


宵が疑問に思いながら看板を眺めていると、その隣にもう一つ大きな看板があることに気がついた。


その看板には「明智江戸川金田一探偵事務所」と書かれている。


(もうつっこみ切れないな……全部苗字だし、大学の中に探偵事務所があるのもおかしいし……ええい!)


宵は意を決して扉を開けた。

多少変でも関係ない。「彼」は、彗の満月鏡の魔法を動画から解析し、その原理を見破った実績がある人物。


今回は協力を依頼したくて宵はここまでやってきたのだ。


「こ、こんにちは!誰かいますか……?」


ミステリーサークル研究会の部室なのか、探偵事務所なのかわからないその建物の中は、ひどく散らかっていた。


壁に立てかけられた本棚には無数の本が並んでおり、中央に置かれたテーブルとソファの上にも本や何かしらの資料と思われるファイルや紙が無造作に置かれている。


入り口のすぐ横にはコートかけがあり、以前立体駐車場の屋上で出会ったときに明智江戸川金田一が着ていたトレンチコートがかけてあった。


「む……なんだね?君は」


入り口から向かって奥にある大きな机の向こうで、回転椅子がクルリと周り明智江戸川金田一がこちらを向いた。


口にはパイプ煙草を咥えており、白いシャツに少し古そうなベストを着ている。

相変わらず、形から「探偵」に入っている男だと宵は思った。


「あ、あのっ!俺……」


「帰りたまえ」


「へっ?」


宵がまだ何も言っていないのに、探偵は冷たい目で宵を見ながらそう言い放った。


「私は君たちが好きではないし、入信するつもりもない。早くその扉から出て行きたまえよ」


「は?入信?」


宵はそのときに気がついた。手に月輪教のチラシを持ったままであることを。


「ああ、違うんです。これはなんかさっき変な人に渡されただけで、俺は無関係です」


宵はチラシをぐしゃぐしゃと丸め、ポケットに押し込んだ。


「ああ、それは失礼。それならば……君の来訪理由を私が推理で当てて見せよう」


「は?」


明智江戸川金田一は静かに目を瞑り、少し考えたあとに口を開いた。


「この名探偵・明智江戸川金田一の助手になりたくてやって来た……違うかね?」


探偵は「ククッ……」と不敵な笑みを浮かべながら宵の方をチラリと見た。


探偵は仲間になりたそうにこちらを見ている。


「いや、全然違います。あなたに依頼があって来ました。俺、医学部2年の中村良ナカムラ ヨイと申します」


「む……依頼人であったか。私は明智金太アケチ キンタ。理学部の4年生だ。大学は5年目だがね。今は『明智江戸川金田一』で通している」


「そ、そうなんですね」


宵は知っていたが、改めて留年していることを本人から言われると気まずい気持ちになった。


そして、宵はそれと別に気になることがあった。


(明智金太って……『明智江戸川金田一』は、ほとんど本名から考えた名前なんだな)


「明智」は自分の苗字。

そして「金太」を「金田一」としたのだろう。

そうなると、宵には気になることが一つ。


(『江戸川』はどこからきたんだよ!)


「ではそこにかけてくれたまえ。お茶を淹れよう」


しかしそれについて宵が尋ねるタイミングはないまま、彼は小さなカセットコンロに火をつけて湯を沸かし始めた。


「………」


探偵が無言で作業を続けている間に宵が周囲を見渡すと、「依頼一覧」と書かれた壁掛けのコルクボードに、付箋ふせんがたくさん貼られていることに気がついた。


そこには「理学部の山本くんのシャーペンを探す」や「経済学部の樋口教授のペットの犬を探す」など書かれている。


(意外とみんなここに依頼しに来てるんだな。落とし物とか探し物の依頼が多いのか……?)


宵はその紙の中に嫌なものを見た。


(げっ!!!)


「怪盗Witch Phantomを捕まえる」、「怪盗Witch Phantomのドロップキック対策をする」などの怪盗に関する付箋が何枚も貼られている。


その中の一つの「怪盗Witch Phantomの正体を見破る」という付箋には、「済」と赤いスタンプが押されている。


どうやら自分たちは、この探偵に正体を見破られたことになっているらしい。

おそらく、怪盗が透明人間になるのを石灰を使って対応したことを「見破った」ことにしているのだろう。


しかし宵は探偵が「怪盗の正体を見破った」ことに対しての焦りは微塵もない。


(いや目の前にいるからな)


何故なら、怪盗の助手とも言える自分が事務所に乗り込んできたというのに探偵が無反応だからだ。


「さあ紅茶が入ったぞ。依頼内容を聞かせてくれたまえ」


探偵は微笑みながら、宵が座るソファの前のテーブルにソーサーを置き、その上に紅茶が入ったカップをカチャリと置いた。



☽ あとがき ☾


明智が使っている建物は、かつて「ミステリーサークル」と「ミステリー研究会」の先輩たちが合同で使っていたものでした。


彼らはオカルトや未解決事件を調べていましたが、明智が入部する頃には少人数の幽霊部員がいるだけという状態で、彼は建物を好きに使うことができました。


それをいいことに彼は勝手に探偵事務所を開きますが、最低限の先輩たちへの礼儀として「ミステリーサークル研究会」の看板だけは下げませんでした。


継承とは、誰かから何かを受け取ることだけではありません。

誰もいなくなった場所で、一人きりでその場所と看板を守り続けること──それもまた、継承なのです。


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