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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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42/60

創作における一番の原動力は恋

「で、受け取ってきたわけか」


「だって、受け取らなかったら次回作も協力させるって玲香が言うから……」


アパートに帰ってきた彗は、玲香から受け取った本を宵に渡した。


先週、ボロボロにされて帰ってきた彗に話を聞いた宵はかなり怒ったが、家までついてきて謝る玲香の謝罪の態度と、玲香という友人がおらず野放しになった妹が高校で周囲にかける迷惑を考え、途中からは「許してやれ」と彗を説得していた。


「うっ……これは……その、すごいな……」


宵は本を開き、顔をしかめた。

設定が甘く矛盾と違和感だらけの序盤のあとは、直視に耐えないほどの濃密なベッドシーンが延々と続く。

作中は終始華やかな雰囲気で、王国の城や怪盗が暮らす宮殿の庭には、背景として大量の百合の花が咲き誇っている。


玲香がどれほど怪盗Witch Phantomに歪んだ愛情を持っているかが、宵にも伝わった。


唯一の救いは「怪盗Witch Phantom様」の描写が美化されすぎて、とても彗とは思えない他人のようになっている部分であった。


「まあ……芸術に貴賎きせんは無いからな。これもまた一つの文化だろう」


「あっ!また小難しい言葉で誤魔化してる!!妹がスタンガンで感電させられながら撮影されたんだから、もう少し怒ってよ!」


「熊でも気絶する威力だって言ってたな。彗じゃなきゃ死んでただろうな」


「私をなんだと思ってるの!!」


彗は怒りながら「これお兄ちゃんの分だからね!」と、玲香から「保存用」と渡されたものを宵のカバンの中に押し込んだ。


「それより彗、これを見てくれ。少しショッキングな映像だから、準備をしてからな」


「え?なになに?」


宵がノートパソコンの画面を彗に向けると、それは血に塗れた恐ろしい殺戮現場の動画だった。


鬼の面を付けた一人の男が、刀を使って6人の男を斬り殺している。


「あ、これいま有名なやつじゃん。AI動画だっけ?」


「世間ではそう言われているな」


この動画には、鬼の面を付けた男が刀を振るった瞬間、刀から黒い刃を飛ばし、複数の男たちの首や顔を一瞬で切断するシーンが映っている。


それは現実的に考えてあり得ないことで、これを投稿した動画投稿者はこの動画にナレーションを入れて「私が本当に見た光景なんです」と言っているが、世間はこの動画をフェイク動画と認定しつつあった。


また動画投稿者の男が言うには自分が借金を踏み倒そうとした結果、ヤクザの事務所に連れて行かれ、突然その赤鬼面の男が乗り込んできて自分は慌ててソファの下に隠れて動画を撮影した……ということらしい。


「それ、学校でも話になってた。でも誰も信じてないよ?グロいだけでリアリティないって」


「そうなんだが……俺は、もしかしたらこれは神器が関わっているんじゃないかと考えている」


「え?」


彗は宵の言葉に反応して動画を再び見た。

主に男の刀と、その後の男達が切断されるシーンに注目して。


「……いや、私は違うと思う。これが『新月刀』かどうかは分かんないけど……魔法じゃこんなことできないよ。だって、新月刀って体を強くする魔法だよ?」


宵は「うーむ……」と天井を向いた。反論できないからだ。


妹の言う通り、新月刀は身体能力を上げるだけの神器。

そして、月詠家の魔法は基本的に「物質に干渉しない」というルールがある。


満月鏡は幻を作ったり、対象の見た目を変える魔法。

三日月ノ玉は使用者の声を「真実」とし、対象者に信じ込ませる魔法。

新月刀は使用者本人や対象者の身体能力を上げる魔法。


創作によくある魔法のように炎や風、氷を出して攻撃したり、別の物質を生み出したりなど、物質に物理的な干渉はできないのだ。


「これ、明らかに刀から黒い刃みたいなのが飛び出してるもん。その前に確かにちょっと光ってるから魔力光かな?とは思うけど……うん。やっぱり違うよ。月詠うちの魔法じゃない」


「そうか……ありがとう。魔女の意見は貴重だから、助かったよ。あとは俺なりに調べてみる」


「うん」


彗は、魔女である自分が否定したにも関わらず調査を続ける兄に対しては何も思わなかった。


何故なら満月鏡を取り返してから今日まで、怪盗として予告状を出したり盗みに入ったりして必死に活動しているにもかかわらず、夏波も春華も全く動きがない。


だから焦っている宵は少しでも魔法のように見えたものは徹底的に調べることにしていると、彗は知っていた。


「んー。あの二人……今頃どこで何をしてるのかな?」


彗は満月鏡を手に持ったままソファに寝転がり、天井を眺めた。


────────────────


ここはとあるビジネスホテル。


夏波は春華から呼び出しを受け、気を重くしながらホテルの部屋の呼び鈴を鳴らした。


今日は、鬼坊は連れてきていない。

春華に「連れてくるな」と言われたからだ。


ガチャリと扉が開くと、そこには怒り心頭といった表情の春華あねが立っている。


「は、はぁ〜い春姉はるねえ、どうしたの急に?可愛い妹に会いたくなっちゃったの……」


「この、バカ夏波なつはァ!!」


「ひっ!!!」


部屋に入るなり、夏波は春華に耳を引っ張られて部屋の中へと連れ込まれた。


「痛い、いたいって春姉!」


そしてそのまま部屋のベッドの上に夏波は座らせられ、春華は部屋の椅子に座った。


「この動画!!あんた達でしょ!!」


「あ、ああ〜?ちょっと、その、私と鬼坊に似てる雰囲気の人達ねぇ?えへへ」


「とぼけるんじゃない!!こんな連中が他にいるわけないでしょ!!」


春華が見せたスマートフォンには今やネット上で有名になってしまった、先週の夏波と鬼坊の「仕事」の光景が撮影された動画が表示されている。


「なんで全員殺さなかったの!!バカ!!」


「だってぇ、まさかソファの下にいるなんて……」


この動画を最初に見て最も焦ったのは夏波で、動画の画角から考えてソファの下に誰かが隠れていたのだと気付いた頃にはもう遅かった。


「これじゃあ、あのバカ怪盗と同じじゃないの!!!」


「すいましぇん……」


春華が「バカ怪盗」と呼ぶのは、怪盗Witch Phantomのこと。

正体は未だに分からないが、冬子から満月鏡を奪った、月光色の魔力光を持つ魔女であることは間違いない。


春華は今すぐ殺してやりたいとは思っているが、まだ二人は手を出さないでいた。


理由は二つ。


一つは、別に満月鏡はなくとも二人の生活は変わらないということ。

夏波は新月刀が、春華は三日月ノ玉があれば困らない。


もう一つは、下手に手を出してこちらの神器を奪われる可能性を発生させたくないということ。


怪盗が見せつけるようにしている月光色の魔力光は春華の神経を逆撫でするが、別に放っておいても二人は何も変わらない。


だからなるべく怪盗には関わらず、こちらも姿を見せずというスタンスを守ろうと決めていた。


「それなのに、あんたが目立ってどうするの!?ほんとに!バカ妹がァ!!」


「……でも大丈夫だよ、春姉」


「なにが!」


「だって、怪盗は知らないでしょ?神器の『闇』の魔法」


「あっ……!」


春華は気がついた。


「私たちは何年も使いこなしている神器の『闇』の魔法だけどさ、テレビで怪盗を見る限りは、秋奈や冬子ブーこと同じ、神器の『光』の部分……表面的な魔法しか使えてないじゃん?」


神器の魔法には表と裏、つまり実家の医院で使っていた「光」の魔法と、いまの自分たちが使っている「闇」の魔法があることを二人は10年前の事件のあとに発見し、現在まで使っている。


夏波は続ける。


「それに、あの怪盗は絶対に『闇』の魔法を使えないよ。魔力光に全く闇が無いからね。だからそもそも気付くはずがない」


夏波の言葉に春華は「そうか……」と少し安心したような雰囲気を漂わせ始めた。

夏波は姉の怒りが収まりつつあることを察し、「今だ」と思い言葉を続けた。


「だから今回の動画を見ても、怪盗はこれが神器の力だとは思わないはず。どうせAI動画とか、フェイク動画だとか思ってるよ。……あの、春姉?」


「なによ」


「だからそろそろ、耳を掴むのやめてくれない?左耳が千切れそうなんだけど、わたし」


「ダメよ。そのまま反省しなさい。バカ妹」



☽ あとがき ☾


お調子者の夏波いもうとを叱る、しっかり者の春華おねえちゃん


その関係は昔から変わりません。


たとえ、悪の道に堕ちていたとしても。

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