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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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41/60

刀鬼と魔女

「おい、テメェ覚悟は出来てんだろうな!?ここがどこだか分かってんのか!?」


黒いスーツを着たスキンヘッドの男が大声を張り上げた。


男の背後には大きなソファや、ガラス製の大きな灰皿が置かれた机が見え、背後の壁にかけられた「任侠」と書かれた掛け軸が目立っている。


彼がここまで声を張り上げている理由、それは彼らの「事務所」に現れた侵入者に対する威嚇であった。


「生きて帰れると思うなよ?妙ちくりんな格好しやがってよぉ!!」


サングラスをかけパンチパーマをかけた髪をふさふさと揺らす男は、手にバタフライナイフを持ち、侵入者に近づいた。


「…………」


パンチパーマの男に「妙ちくりんな格好」と言われた侵入者は、確かに変な格好をしていた。


紺色の和服に身を包み、腰には刀をげている。そして最も「妙ちくりん」なのは彼の顔を隠している、赤鬼をかたどって彫られた面だろう。


「ふざけんじゃねえぞテメェ!!いきなり何も言わず入ってきやがって、いったいどういう了見なんだゴラァ!?」


パンチパーマの男は右手にナイフを持ち、和服に赤鬼面の男の首元にナイフを近づけた。


赤鬼の面の男は先ほど、この事務所の扉を蹴破って中に突然入ってきた。

しかし何を言うわけでもない男を彼らは不気味に思い、彼らの中で最も下っ端であるパンチパーマの男に威嚇をやらせているのだ。


「………」


赤鬼面の男はナイフを近づけられても焦った様子を全く見せず、ゆっくりと首を回して部屋の中を見渡した。


「7人……全員斬って構いませんか?」


「ええ」


赤鬼面の男の確認と共に、男の背後にある扉から事務所の中に一人の女が入ってきた。


女は喪服のような黒い服に身を包み、黒いベールが垂れた帽子を被り顔を隠している。


「よくわかんないけど、いいんじゃない?無関係だとしても、ここにいたのが運の尽きよ」


彼女はベール越しに赤鬼面の男にそう言い、男は「承知」と小さく声を出して腰の刀に手をかけた。


「なんだ!?ゴラァ!!やるってのか!?」


「シッ!!」


赤鬼面の男が腰から刀を抜いて振るうと、ナイフを持っていた男は右脇腹から左腰にかけてを一閃、そして矢継ぎ早に左脇腹から右腰にかけてを流れるように斬られ、体をX字型に切断された。


男の体は一瞬のうちに4つに斬り分けられてしまった。


「う、うわああああああああああああっっっっっ!!!」


事務所の中にいた男達は、仲間が4つに斬り分けられたことにより大騒ぎし、それぞれが事務所の中に隠してあった銃や刃物を慌てて手に取った。


「暴れられると面倒ね。一気にやるわよ」


赤鬼面の男の背後に立っている女がそう言うと、男は小さく頷いた。


男が刀を左腰の後ろに構えると、男が持っている刀から赤黒い血のような光が放たれた。


「──シッ!!」


そして男はそのまま左から右に一気に薙ぐように刀を振るった。


「へっ?」


その場にいた男達6人のうち5人は、赤鬼面の男のその動きを見たのを最後に絶命した。


部屋の中にはボトボトという音と共に男達のほとんどの頭が床に落ち、首から下のみが立っている状態で残された。


一人だけ、周囲より背が低かった男は鼻から上を刎ね飛ばされ、鼻から下がその場に残されて立っていた。


「ひいいいいいいいいいいいい!?!?」


生き残った男は1人。

その男は最初に4つにされた仲間を見て腰を抜かして床にへたり込んでいたため、赤鬼面の男がやった「何か」で真っ二つにされずに済んだのだ。


(な、な、なんだ今の!?)


赤鬼面の男が左から右に勢いよく刀を振るった瞬間、刀から黒い影のような刃が放たれ、6人の仲間全員の首と顔が一瞬で切断された。


「あら?1人生きてるじゃない」


女がそう言って自分を指差した瞬間、男は震えながら失禁した。

赤鬼面の男は、血の雨と海の中をパシャパシャと音を立てながら歩き、自分に近づいてくる。


失禁した彼の手には一応、ドスと呼ばれるつばが無い短刀が握りしめられている。

だがこんなものが役に立たない事は、先ほどの飛ぶ黒い刃を見た男には分かっていた。


「……む。それは、刀か?」


「……へ?」


男の目の前まで着た赤鬼面の男は、自分をすぐに殺さずに話しかけてきた。

面のせいで視線は見えづらいが、男が持つ短刀に注目しているようだ。


「それは刀か、といているのだ」


「……あ、ああ……一応……」


男は混乱しながら答えた。刀かどうか言われれば、こんなものでも一応刀に入るだろう。


「ならば、私と立ち会え。真剣勝負だ」


「……は?」


よく分からない技で仲間を一瞬で斬り殺した男が、真剣勝負を挑んできた。男の混乱は深まるばかりだった。


「死にたくないのだろう?明日あすを生きたいのだろう?それならば、そのやいばで私を斬り殺して活路を開いて見せよ。立て。刀を構えろ。私と戦うのだ」


赤鬼面の男は少し苛立ったような声色になりながら、執拗に話しかけてくる。


しかし短刀を持った男は震えるばかりで、男が言う勝負に応じられるような様子ではなかった。


「貴様、それでも男か?仲間を殺されて悔しくないのか。一矢報いて見せようとは思わないのか!」


「ひ、ひいいぃっ!?」


パァン!!


赤鬼面の男が、ドスを持った男にさらに迫ろうとしたところで乾いた銃声が響き、ドスを持った男は眉間に穴が空いて絶命した。


「むっ……!」


男が素早く後ろを振り返ると、そこには拳銃を持っている女が立っていた。

女が持つ拳銃は、その銃口から煙が揺蕩たゆたっている。


「……あのね、鬼坊。今どき『男だから戦え!』とかは流行んないの。多様性の時代よ?女がこうして男を殺したり、男が泣きながらおしっこ漏らしててもいい時代ってワケ」


「ですが、夏波様……これでは、あまりにも情けない……」


鬼坊おにぼう渾名あだなで呼ばれた男は、股間を尿で濡らし、大粒の涙を流し、眉間から血を流して死んでいるこの男を哀れに思った。


鬼坊の価値観では、この者は「男」としては死ぬよりも恥ずかしい目に遭ったのではないかと思った。


こんな情けない姿ではなく、敵わないにしても勇敢に立ち向かったという姿を残してからこの世を去らせてやりたかった。


「いいのいいの。あんたそうやって毎回、武士道?大和魂?みたいな暑苦しいのやめなよ。ウザいから」


「………」


鬼坊は黙って俯き、夏波に対して無言の不満を表現した。

それに気づいた夏波は、少し苛立ったような様子で鬼坊に向かって言った。


「普通ねぇ、こんな圧倒的な状況になったら怖くて戦えないの。こんな状態でも諦めずに向ってくる奴なんて、男だろうが女だろうがいるわけ……」


そのとき夏波は思い出した。


過去に一人だけ、二つの神器と三人の魔女を相手にしても臆することなく立ち向かってきた女がいた。


その女は自分の妹で、それは10年前のクリスマスイブだった。


「……チッ!」


嫌ことを思い出した夏波は舌打ちをして、鬼坊の方に向き直った。


「そんなこと言ってると、そのうち勇ましい女が現れて、あんたのことやっつけちゃうかもよ?」


「……左様さようでしょうか……」


鬼坊は夏波の軽口に対して残念そうな声色で返事をし、彼女に「行くわよ」と言われて二人はその場を後にした。


そのとき、二人は見逃してしまった。


ソファの下でガタガタと震えながら、この殺戮の様子の一部始終を撮影していた男がいたのを。


──────────────────


「姿勢を正して!礼!!」


「「「ありがとうございました!」」」


ここは望が丘高校剣道部の武道場。


主将である東条玲香の声と共に稽古が終わり、正座で整列していた部員達が立ち上がり、更衣室へ向かう。


「お疲れ!スイ、更衣室行こ!」


「………」


彗は玲香を無視し、一人で更衣室へ向かおうとした。

彗は一度だけチラリと玲香の方を見たが、彼女の視線は心から軽蔑するものを見るような目であった。


「ねえ、どうしたの?スイ!ねえってば!」


「え、もしかして1ページ前に自分がやったこと忘れた?」


「え?ページってなに?」


「ブラウザバックで戻って見てみるといいよ」


相変わらずよく分からないギャグを飛ばしているものの確実に怒ってはいる彗に、玲香はすり寄るように近づいた。


「ね、ね、ほんとごめんって。先週の件はほら、もう合計1000回は謝ったじゃん。そろそろ許してよぉ……」


「………」


玲香は今週、彗に朝会えば土下座し、休み時間は寝ている彗の耳元に口を当てて「ごめんごめんごめんごめん……」と囁き続け、部活の際も彗に打ち込むときは「ごめーん!」と言いながら打ち込み、帰り道は家まで付いてきて謝られ続けた。


別れた後は常にスマートフォンに謝罪の文章と、土下座している自撮り写真が送られ続けてきた。


彗はスタンガンで脅されながら手籠てごめにされかけた怒りがあるとは言え、流石に鬱陶しくなってきた。


「んー……わかったよ。仲直りね」


「やった!スイ、大好き!あ、先週撮った動画を資料にして、寝ずに作業して本を刷ってみたからこの後渡すね!」


「ほんとに反省してんの?」


玲香は彗に抱きつき、抱きつかれた彗はため息をついた。


「おい!待て待てお前ら!今日みたいな稽古でいいと思ってるのか!?」


部員達が着替えて帰ろうとしていると、突然顧問の田中先生が武道場の中に響くような大声を張り上げた。


「お前ら、今年のインターハイ予選は中村以外全員初戦敗退だったじゃないか!それなのにこんなゆるゆるの稽古でいいのか!?」


『中村』とは彗の偽名である。

彗の本名は「月詠彗」だが、日常では「中村水」として生活している。


「急にどうしたんですか。剣道経験がないのに無駄に熱いことで有名な田中先生」


「うるさいぞ中村ァ!お前は実力はあるのに態度だけはいつまでも生意気でよくない!」


田中は武道場の神棚に大きく飾られている写真を指差し、声を張り上げた。


「あの『大西先輩』に申し訳ないと思わんのかぁ!!」


騒いでいる田中を見て、部員達は「また始まった」と言わんばかりの呆れ顔を浮かべた。


神棚に飾られているのは、「大西」という過去に全国大会で優勝したという、望が丘高校剣道部にとっては伝説のような人物の写真であった。


「大西先輩はなぁ……60年前に全国大会、つまりインターハイで優勝しているんだ!!その後輩であるお前らがそんなていたらくじゃ……おい!お前ら!帰るなァ!!」


部員達は知っていた。

顧問の田中は「名監督」のような存在に憧れている教師で、様々な部活の顧問を渡り歩いては、競技の指導はせずに精神論的な話を語り始める厄介な男であることを。


当然人望はなく、部員達にほとんど存在を無視されていた。


「はい、スイ。あなたが協力してくれたおかげで完成したWitch Phantom様の同人誌ね!持ち歩き用と保存用に二冊あげる!私の家にあと一冊あるから、世界に三冊しかないうちの二冊をあなたにあげるね!」


「え、要らないんだけど……」


「いい仕上がりだから、じっくり読んでね」


「要らない……」


「ちゃんと毎日、持ってるかチェックするからね」


「要らない……」


「もし持ち歩いてなかったら、次回作も撮影に協力してもらうからね」


「要らない……エッ!?」


☽ あとがき ☾


スイは 「どうじんし」 を てにいれた !



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