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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
プロローグ

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秋奈 VS 春華・夏波・冬子(2)



部屋の中がを強く照らしていた月光色の光が消えると、部屋の中に何人もの春華、夏波、冬子、そして秋奈が現れた。


「なっ……!」


「え、私の偽物!?」


夏波が叫ぶと、隣にいるもう一人の夏波が「誰が偽物よ!私は本物!あんたでしょ、偽物は!」と言い返した。


その後も三人の本物と偽物たちは、口々に自分が本物であると主張し、部屋の中は口論を繰り返す春華、夏波、冬子でメチャクチャになった。


満月鏡で作り出した偽物には実体が無い。

つまり、触れば手が通り抜けるので偽物かどうかはすぐにわかる。


だが、触って「こいつは偽物だ!」と声をあげてもすぐにその偽物は人混みに紛れてどこかに行ってしまい、また死角から新たな偽物が現れる。


三人はパニックになり懸命に本物の仲間を探したが、全く見つけることができなかった。


しかし春華はすぐに我に返った。

こうしている間に、どこかにいる本物の秋奈が自分たちの神器を奪うかもしれない。


この騒ぎを収める手段が、自分にだけある。

春華は三日月ノ玉を握りしめ、魔力を込めた。


『全員、動くな!』


その瞬間、全ての本物も偽物も同時に動きを止めた。


(チッ…)


春華は心の中で舌打ちをした。

秋奈が満月鏡で作り出した幻ならば、魔法は効かない。

つまりこの命令を出した後も動いている者がいればそれは偽物なのだが、それは秋奈も承知の上。

秋奈は、春華の声とほぼ同時に偽物たちの動きを止めていた。


「はるねぇ、私、本物……」


近くにいた夏波が春華に声をかけたが、春華は本物が偽物か分からないそれを一度無視した。


春華は秋奈を探し、一人ずつ手を触れていった。

とにかく本物の秋奈を探し出し、満月鏡を奪うことが先決だ。


数えると、秋奈は4人いた。

一人ずつ体に触れていく。一人目の秋奈に触れると、春華の手は秋奈の体を通り抜けた。


(じゃあ、これは偽物…….と)


春華がそれを繰り返すと、三人目も手が通り抜けた。

ということは残る一人が本物だ。


「ふっ……秋奈、甘かったみたいね。この勝負、私の勝ちよ。まあ鏡一枚でできることなんてその程度よね。多少混乱させて終わり」


春華は勝ち誇り、四人目の秋奈が持っている満月鏡に手を伸ばした。

鏡さえ取り上げてしまえば秋奈はもう何もできない。


私の勝ちだ、と春華は確信した。


「………はあっ!?」


しかし、春華の指は満月鏡をすり抜けた。


その様子を見て、夏波と冬子も目を剥いた。

四人いた秋奈が四人とも分身。

一体どういうことなのか。


「えっ……あああっ!!」


突然、夏波が大声をあげた。

しっかりと手に持っていたはずの新月刀が、勝手に自分の手を離れて宙に浮かんでいるのだ。


宙に浮き上がって自分から離れていく刀を急いで掴み取ろうにも、春華が使った勾玉の魔法のせいで夏波は動けなかった。


新月刀が宙に浮いていることに春華が気付いたときには、もう遅い。


新月刀は月光色の光を発し始め、その光に照らされるように秋奈は姿を現した。


秋奈は春華、夏波、冬子、そして自分の偽物を作りながら、自分自身は透明に姿を消していたのだ。


春華達は、自分が本物で他に偽物がいることから、複数いた秋奈もどれか一人は本物だと思い込まされたのだ。


「秋奈ッ……!」


春華は思い出した。


姉妹の中で最も優れているのは自分。

秋奈はおっとりしていてミスも多く、勉強も運動もそこまで得意ではなかった。


しかし、いざというときの秋奈は抜群の判断力を発揮する。


幼い頃は姉妹四人でよく遊んだ。

鬼ごっこやかけっこは、運動神経がいい夏波や単純に歳が上で体が大きい自分に分があった。


しかしボードゲームやトランプなど、戦略性を活かす遊びだけは秋奈が一番強かった。


特にサイコロの運や最初の手札が悪いとき……追い詰められた秋奈は、異常とも言える読みと判断力を見せて姉二人を圧倒していた。


春華は「秋奈は自分より全てにおいて劣っているのに、月光色の魔力だけで後継になった」と自分自身に言い聞かせ続けていた。


だから秋奈の本質である、この「勝負強さ」を記憶の隅に追いやっていて今日まで忘れていた。


「ありがとう春姉。夏姉の動きを止めてくれて。もし春姉が動きを止めてくれなかったら、身体能力を強化している夏姉から新月刀を奪うなんて、絶対にできなかったよ」


秋奈は春華が混乱して全員の動きを止めようとするところまでを読み、全員の偽物を作り出して場を撹乱した。


春華は自分たちの戦力は「魔女三人、神器二つ」で、秋奈の戦力は「魔女一人、神器一つ」と認識していた。


一方、秋奈は自分の戦略を「魔女一人、神器一つ」とは考えなかった。

自分が作る展開によっては、「春華」だって「三日月ノ玉」だって自分の戦力として使える。


そう。

秋奈は勝つためには──敵さえも利用するのだ。


勝負に対する考え方が、彼女は常人とは違う。

それこそが秋奈の「勝負強さ」の正体。


ボゴッ……!


「げふっ……」


新月刀で強化された秋奈の拳が、春華の腹に叩きつけられた。

信じられない威力のパンチを喰らった春華は三日月ノ玉を手から落とし、その後床を何度かバウンドし、体を壁に叩きつけた。


魔法を使う暇さえ無かった。

そして使ったとしても、秋奈は耳にティッシュで作った耳栓を詰めている。


(そん、な……!)


夏波が新月刀を奪われた時点で、いや、自分が全員の動きを止めてしまった時点で自分達の負けは決まっていたことに春華は気がついた。


「ふぅ……」


秋奈は安心したように小さく息を漏らし、春華が落とした三日月ノ玉を拾った。

そして鏡、刀、勾玉の三種の神器を左腕で抱えるように持ち、右手で両耳の耳栓を外した。


「終わりだよ。春姉」


全ての神器を手にした秋奈が、床に這いつくばった春華を見下ろしながら言った。


満月鏡の魔法を解除したのか、春華たちの偽物は姿を消し、代わりに部屋の隅に敷かれた布団の中で眠っている子供たちが姿を現した。


「ちょっと、嘘ぉ!?私、春姉と夏姉が『絶対勝てる』って言うからついてきたのに!負けたじゃん!!話が違うよぉ!どうするの!?ねぇ、どうするのよぉ!!春姉ぇ!夏姉ぇ!!」


冬子がキンキンと響く声で叫んでいたが、誰も耳を貸さず、返事もしなかった。


「ッ…………!!」


春華は秋奈を睨みつけ、ギリギリと奥歯を噛んだ。


(負けた……!?私が……秋奈に!?)


人数は3対1。

神器は2対1。

しかも秋奈には子供を守るという枷もあり、かつ唯一の武器は戦うとなれば最も使いづらい満月鏡だった。

この日を決行日と決めていて段取りを何度も確認した自分達と違い、秋奈には戦いに備える準備時間もなかった。


秋奈の不利は枚挙に暇が無い。

だが、秋奈は勝った。

子供の頃に姉妹で遊んだゲームと同じ様に、不利な状況をひっくり返した。


神器を使った戦いで、三人を相手にたった一人で勝利した。

それは秋奈が四姉妹の中で最も優れた魔女であるということに他ならない。


(──そんなことっ、認められるはずがない!!絶対、絶対にありえないっ!!!)


秋奈はボンクラで、自分は姉妹の中で最も優れた人間であり一番の魔女。

そうに決まっている。

逆に、そうでなければこれまでの人生は何だったのか。


私は、何のために親まで殺したのか?


「……春姉、やり直そう?」


「はあっ……?」


この後に及んで、秋奈が何かを言い始めた。

春華が顔を上げて秋奈を睨みつけると、秋奈は姉を憐れむような、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。


「春姉、夏姉、ふーちゃんがやったことはもう元には戻らないけど……ちゃんと償えば、きっとまた前に進めるよ。だから大丈夫。ほら」


秋奈は床に倒れている春華に手を差し伸べた。


親を殺され、旦那を殺され、自分と子供は殺されかけた。

それなのに。

秋奈は何故、そんな事が言えるのか。

秋奈は何故、そんな表情が出来るのか。


──春華の脚に、一粒の暖かい滴が落ちた。

見上げると、妹がボロボロと涙を溢している。


秋奈は何故、こんな姉の為に涙を流せるのか。


春華は秋奈が差し伸べた手に向かって、自分の手を伸ばし始めた。

この手を掴めば自分はこんな暗い道ではなく、また明るい道を歩けるのではないか、そんな希望が感じられた。



パァンッ!!


「へっ……?」


突如鳴り響いた破裂音の後、秋奈は訳がわからないといった顔を浮かべ、床にばたりと倒れた。


うつ伏せに倒れた彼女の背中は、赤いものがじわじわと広がっている最中だった。


「危なかったね、春姉っ!」


夏波が笑顔で春華に駆け寄り、春華が宙に浮かべていた右手を、夏波は左手で掴んで引き起こした。


夏波の右手には、拳銃が握られている。


「ほら、私いまの彼氏があっち系の人だからさ。今日の計画の保険としてこっそり借りてきちゃったんだよね。でもよかった!」


夏波は無邪気な少女のように、だがこれまで春華が見たどんな顔よりも邪悪な笑顔を浮かべた。


「これで、私達の勝ちだよねっ!」


「へっ……?」


春華は、まだ感情が追いつかない。


「だって、秋奈はこれから死ぬじゃん。私達の目的は秋奈と子供達を……あっ、そうだ」


夏波は部屋の隅に敷いてある布団の掛け布団を剥がし、中で小さく丸まっていた宵と彗の頭に銃口を当て、パァン、パァン、と引き金を引いた。


二人の頭から血が噴き出し、間違いなく即死であると確信した夏波は再び春華の方に振り向き、「子供達も始末しとかないとね♪」と笑った。


甥と姪を容赦なく殺した夏波が恐ろしく思えて、春華は引き攣った笑顔を浮かべることしかできなかった。


「ちょちょちょ、春姉、しっかりして!?私達、何人殺したと思ってるの!?」


夏波は春華の肩を掴み、前後に激しく揺さぶった。


「なんか秋奈は『やり直そう』とか言ってたけどさぁ、そんなの無理なんだって!親殺して、妹の旦那も殺して、妹も殺して、甥と姪も今殺した!だから私たちはもうやり切るしか……」


「わかってるっ!!!」


春華は、自分の肩に乗せられた夏波の手を乱暴に払いのけた。


「………わかってる、よ………」


「…………じゃあいいよ」


夏波は自分が正しいと確信はしているが、姉の気持ちが理解できないわけではなかった。

だからこそ、この場ではこれ以上の追求はしなかった。


「ねえ、ねえ!私達勝ったんだよねぇ!?じゃあこれは私のだ!やったぁ、私、これがずっと欲しかったんだぁ!」


冬子は秋奈の横に落ちている神器の一つ、満月鏡を手に取り、太った体についた脂肪を揺らしながら小躍りしていた。


春華と夏波は、無言のままそれぞれ三日月ノ玉、新月刀を拾い上げ、寝室を後にした。

秋奈の本質は月光色の魔力ではなく、どんな状況でも諦めずに勝機を探し、微笑みながら戦うことができる、その異常とも言える勝負強さでした。


しかし春華は本人が言う通り、秋奈のその本質を彼女が「月詠の魔女」であることに目を奪われてという長年忘れていたのです。


大きすぎる特徴は、時に人の本質を覆い隠してしまうのですね。

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