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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
プロローグ

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喪失

冬の夜の公園は、異様なほど静かだった。


ブランコは止まり、滑り台は月明かりに白く浮かび、人気のない砂場には誰の足跡も残っていない。

その公園を囲うように生えている茂みの中に、二人の子供が並んで隠れていた。


「……寒いね」


スイが小さく呟くと、隣に座る兄──ヨイは、指を立てて自分の口に当てた。


「しっ。動くな。じっとしてろ」


「でも……」


彼らはコートも着ておらず、靴すら履いていない。

パジャマしか着ていない体に、冬の夜風が容赦なく突き刺さっていた。


急いで家から逃げ出したせいで、二人とも着の身着のままだ。


公園の向こう側──

住宅街の一角で、巨大な炎が赤く揺れている。


「……」


宵と彗はその光景から目が離せなかった。

失望と絶望が入り混じったまま、ただその光景を目に焼き付けている。

10歳と7歳の兄妹には、あまりにも残酷な光景だった。


燃えているのは、彼らが生まれ育った家なのだ。


月詠ツクヨミ家。

代々、魔女を生んできた一族の家。

祖父母も、父も、母も、そこにいた。


「……お兄ちゃん」


彗は、ぎゅっと膝を抱えた。


「お母さんたち……どうなったのかな?」


宵は答えなかった。

答えられなかった、の方が正しい。

代わりに、強く自分の拳を握りしめる。


家を燃やしたのは、母の姉妹。

母と同じく魔女の血を引きながら、後継に選ばれなかった3人。


彼女たちは自分たちが生まれ育った家に火を放ち、家族を殺し、月詠家に代々伝わっていた「神器」を盗んで姿を消した。


「……私たち、これからどうなるのかな」


「……」


妹の言葉に宵は何も答えられなかった。

幼い彼らにとって、今夜は奪われたものがあまりにも多すぎる。


生まれ育った家。

一緒に暮らした家族。

これから生きる未来。


兄妹ふたりは3人の叔母たちに、全てを奪われたのだ。


「……」


彗は唇を噛みしめてしばらく黙り込んでいたが、やがて顔を上げた。


その瞳に涙はなく、代わりに不思議なほど澄んだ光が宿っていた。


「ねえ、お兄ちゃん」


「……なんだ」


「月詠の魔女ってさ」


彗は、ゆっくりと言った。


「もう、終わりなの?」


「……ああ。ばあちゃんも、その後継あとつぎだった母さんも殺された。月詠の魔女は……終わったんだ」


「…………」


それを聞いて、彗は俯き考え込んだ。

悲しみに暮れているのか、絶望のためかわからないが、彼女はしばらくの間無表情だった。


「……まだだよ」


彗がそう言って顔をあげると、その表情はどこか遠くを見据えるような、年齢にそぐわないほどに不気味に大人びた表情であった。


「まだ、終わってない」


彗は、月を見上げた。

今夜は、憎らしいほどに綺麗な満月だった。

雲一つない夜空に白く、静かに輝いている。


「彗……?」


宵は、月光に照らされる妹の横顔が、母親に似てとても美しく見えた。


「月詠の魔女は──」


彼女は、はっきりと言った。


「──まだ、生きてるよ」


その言葉が、冬の空気に溶ける。


遠くでガラガラと何かが崩れる音がした。

彼らの家が、完全に燃え落ちたのかもしれない。


けれど彗は、もう振り返らなかった。


ここから始まるのだと。幼いながらにそう理解していた。



──叔母たちと戦い、神器を奪い返す。



魔女の物語が。




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― 新着の感想 ―
これからもファンとして読ませて頂きます。語彙力がない私なので、感想は恐れ多くて書けませんがまた新しい作品も楽しみにしております。
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