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守銭奴無自覚ブラコン妹と盲目ヤンデレいじめっ子皇女に好かれる極悪中ボスの話  作者: 溝上 良
第2章

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第31話 ダイアナ

 










「お兄様、お久しぶりですわね!」


 ダイアナ・ホーエンガンプ。

 エデルローザが指摘したとおり、俺の妹である。


 正直、家族の情なんて持ったこと、ないけど。

 それは、あっちも同じだろうが。


 真っ黒な黒髪は長く、毛先にかけてウェーブしているため、かなりふわふわとして緩く広がっている。

 髪の手入れに時間なんてそうそうかけていられない一般市民では考えられない髪型だ。


 貴族らしいと言えば、貴族らしい。

 見た目はよく整っていると思う。


 肌も真っ白で、一般的に美しいとされる見目だ。

 だが、その目である。


 どす黒く、欲望に満ち溢れた悍ましい瞳。

 それが、見る者に恐怖を与える。


 俺と違って武力という恐怖は与えないが、また別の恐怖を他者に押し付ける。

 その明るい言動とは不釣り合いな悍ましい雰囲気は、他者に強烈なギャップを植え付ける。


 それが、俺の妹、ダイアナ・ホーエンガンプ。

 一言でいえば、常軌を逸した守銭奴である。


「……ああ」


 心底嫌そうな顔をしているであろう俺に、ひょこひょこと近づいてくるダイアナ。

 彼女はニッコリと満面の笑みを浮かべて言った。


「顔、見たくなかったですわ!」

「俺もだよ、奇遇だな」

『えー……。何、この不仲な感じ……』


 何だ、プレイヤー。

 ダイアナのことを知った風な口をきいていたから、関係性も知っているものだとばかり思っていたが。


 無論、関係は良好なものではない。ぶっちゃけ悪い。

 だって、俺とこいつのやること、正反対だし。


「なんでお前がここにいるんだよ」

「当然、お金の回収に」


 なんで俺が生み出した投資効果をお前が回収してんだよ!

 俺、ちゃんと別の奴に任せていただろうが!


「お前がひょこひょこ領の外に出たらマズイだろ。父上も困る。万が一お前に何かあったら、面倒くさいだろうが」

「大丈夫ですわ。お兄様の育てた金食い虫……じゃなく、護衛の方もいらっしゃいますし」


 護衛を金食い虫っていうの止めない?

 そいつがいなかったら困るだろ、お前。雑魚だし。


 まあ、この言葉からも分かるように、こいつは金の支出を異常に嫌がる。

 それは、兵に対してもそうだ。


 で、俺はホーエンガンプ家の武力を担っているから、当然私兵も抱えている。

 そこに金もかかってくるから、ダイアナはそれが気に入らなくて仕方ないのだ。


「それに、やはりお金! 直接自分の手で触って、見て、数えたいじゃありませんの! ああ、至福ですわぁ……」

「あっそ」


 頬を赤らめて恍惚といった表情をするダイアナ。

 気持ち悪いな、こいつ。


 俺も金は嫌いじゃない。金がないとできないことも多いからだ。

 だが、こいつの金好きは常軌を逸している。


 金のためなら命も投げ出すような、そんな奴だ。気持ち悪い。


「お兄様はこうしてお金を生み出す才があるのですから、もっとその後もしっかりフォローすべきですわ」

「どうせ金に関してはお前がやるだろうが」

「そうですわね!」


 ホーエンガンプ家の経理は、こいつが一手に引き受けている。

 金の管理を任されると言うのは、相当なものだ。


 父上は家族には甘いが、無能にこんな重要な仕事を任せることはしない。

 実力はしっかりと伴っている。


 しかし……こいつも自分の欲望には忠実だ。


「あと、お前横領も大概にしとけよ」


 俺がそう言うと、ダイアナは本当に理解ができないというように、困惑した表情を顔に浮かべる。

 すっごい演技派……。


 赤の他人なら、本当に何も知らずに困惑しているようにしか見えない。

 まあ、家族にそれは通用しないわけだが。


「……何のことを仰っているかさっぱりですわ! 証拠もありませんのに」

「お前が完璧に証拠隠滅しているだろうからな。まあ、お前のクソみたいな性格なのに、横領しないとかありえねえだろうから、もう確信してんだよ」


 守銭奴のダイアナが、私腹を肥やすことをしていないとでも?

 絶対にしている。間違いなくしている。


 俺の投資先からこそこそと自分の懐を潤しているのだろう。

 そんな俺の指摘を受けたダイアナは……。


「証拠がないから何も言えませんわね!」

『……えげつないね、この子』


 この期に及んでも知らんぷりである。

 まあ、言質とか取らせるわけにはいかないのだろう。


 俺、絶対に弱みとして握り続けるし。


「というか、お兄様も人のことは言えませんわ。お兄様はすぐに他人を殺しますが、あれ本当はダメですからね? 基本的に、形式的とはいえ裁判を通さないとダメですもの」


 お、反撃か?


「貴族は何してもいいんだよ」

「庶民の方は何も言えませんが、わたくしが糾弾することもできますわ。同じ貴族の立場ですもの」

「…………」


 一応だが、この国にも裁判制度というものが存在する。

 でないと、誰が何を根拠に他人をさばくのか、分からなくなるしな。


 ただ、王族の力が弱まるということは、国全体の力が弱くなっているということ。

 だから、それぞれの領地では、貴族が司法を握り、好き勝手している奴もいる。


 俺がそうだ。

 市民から声が上がっても当然のごとく握りつぶすし、その力を持っている俺だが、同じ立場の貴族……それも、身内だとすると、完璧に封殺するのは難しい。


「だいたい、人を簡単に殺すのは最低ですわ!」

『おぉ! ホーエンガンプ家にもまともな人が!』


 そんなわけないだろ。

 ホーエンガンプの人間だぞ。


「殺さずに生かし、奴隷のように酷使し、金を生み出させてから動けなくなったら殺したらいいのですわ!」

『うん、知ってたよね。ホーエンガンプ家にまともな奴がいないなんてこと、原作的に』


 どす黒い目を見開きながら言うダイアナに、プレイヤーの声はしょんぼりしていた。

 別に、ダイアナは慈愛の精神を持ち合わせているわけではない。


 他人のことを、ただ金を生み出すための道具としか思っていない。

 俺はそれを使いつぶすし、ダイアナは殺さずに生かして搾り取ろうとする。


 まさに正反対なのだ。

 ……なのだが、今お互いの首に剣をあてがい合っているような状況。


 やっぱり、こいつ嫌いだわ。


「……じゃあ、お互い口に出さないということで」

「……仕方ありませんわね」


 俺とダイアナは、にっこりと笑って頷いた。

 ……こいつ、いつか追放してやる。


 お互いにそう思うのであった。










 ◆



「またいつでも来てな。歓迎するから、身体で」

「いらん」


 ひらひらと手を振って見送るエデルローザに吐き捨て、俺とダイアナは娼館を後にした。

 しかし、今更だが、金のためとはいえ女のダイアナが娼館に入り浸るとか、かなり体裁が悪いだろう。


 父上も嫌がるのではないだろうか……と思ったけど、そもそもホーエンガンプ家の評判って最高に悪いから気にすることもなかった。

 あまりにも行き過ぎた奴は殺せばいいし。


 ということで……。


「お前、さっさと帰れよ。一緒に行動する必要ないだろうが」

「それはそうですけど、別にバラバラに行動する必要もないでしょう。帰るところは一緒なのですから」


 早く家出ろ。どっかに嫁げ。

 今にも滅びそうな国の貧乏貴族とかどうだ?


 俺、全力で見つけてくるけど。


「おい」


 そんな言い合いをしていると、誰かを呼び止める声が聞こえた。


「随分な場所で女と出てくるんだな、ディオニソス・ホーエンガンプ」


 ……俺かよ。

 俺は、半殺しにされた俺の私兵を引きずっている近衛騎士を見ながら、嘆息するのであった。




過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。


『偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~』第30話

https://unicorn.comic-ryu.jp/10857/

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