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守銭奴無自覚ブラコン妹と盲目ヤンデレいじめっ子皇女に好かれる極悪中ボスの話  作者: 溝上 良
第2章

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第29話 旦那はんって言うの止めろ

 










『娼館なんて行くの止めなよ! ダメだよ! 汚れるよ!』

「お前、実は相当ゴミだろ」


 ものすごい職業差別だ。

 偉そうに人を殺すなとか言うくせに、こいつの倫理観はどうなっているのだろうか?


 差別とか気にしない俺ではあるが、こんな普段の言動とは真逆のことを言う奴はろくでもないと思う。


『だいたいなんで娼館に行くのさ! 男で発散すればいいじゃん! むくつけき男と!』

「マジで黙ってろよお前。濃いんだよ、色々」


 プレイヤーが最近性癖を隠さなくなってきた。

 何が悲しくてこいつの性癖なんて知らないとダメなんだよ。興味ねえわ。


 そもそも、声音も中性的だから、こいつの性別すら分からないのに。

 ただ腹立たしいのは、自分ではなく俺に同性愛させようとしていることである。


 自分で勝手にやってろ、カス。


『うーん、この世界の年代設定とか分からないけど、リアルと違って娯楽とかも少ないんだよね。だから、どうしても三大欲求を満たそうとするのか』


 三大欲求……なんだっけ?

 酒、金、女だっけ?


 まあ、確かに全部楽しいけども。


「いや、別に女を買いに行くわけじゃねえんだけど」

『え、そうなの? それならヨシ!』

「なんでお前に許可を取らないといけねえんだよ」


 いちいち人をイラつかせる天才だな、プレイヤー。


『でも、だとしたらどうして娼館に……?』

「まあ、俺が行こうとしているのは、娼館というか色町全体の話なんだけど」


 女を買いに行くわけではない。

 ただ、娼館……というか、色町には行く。


 女を買わないくせに何をするのかと言われたら、一つである。


「投資先の確認、一応しておこうと思ってな」

『投資先……?』











 ◆



『ほわあああああああ……!』

「気持ち悪い声を頭の中で出すなや」


 頭の中で響き渡るプレイヤーの声にイライラさせられる。

 自分にとって都合がよくない存在の声だから、なおさらむかつく。


『ご、ごめん。でも、色町って僕初めてで……』


 プレイヤーの言う通り、今俺は王都の色町にやってきていた。

 色町。まあ、簡単に言えば風俗店が集まっている区画である。


 簡単にイメージしやすい厭らしい店もあれば、単純に見目が整った異性と酒を飲みながら話をするだけの店もある。

 小さな街のそれだとそこまで充実していないことも多いが、王都のそれはさすがと言えるほどの規模だった。


 だからこそ、投資しているわけだが。

 客層も俺にとって旨味がある奴らばかりだし。


「あー……だったら、最初はそうなる奴が多いって聞くな。俺は最初からそんな感じじゃなかったけど」

『君のは簡単に想像できちゃうよね……』


 童貞とか処女とか、遊び慣れていない奴はどうしても最初は色町の空気に当てられるらしい。

 ……プレイヤーが当てられても楽しめないから意味ないだろ。


 肉体を持っていないんだから。


『でも、すっごい賑やかだね!』

「結局、男も女も性欲あるしなあ。美味いもの食べて、美味い酒を飲んだら、後は性欲を発散して寝るだけだ」


 色町ほど毎晩にぎわっている場所は、そうそうないだろう。

 天気が悪くても関係ないしな。


 施政者とか立場のある人間は大っぴらに色町を庇護しようとかはしないけどな。

 性的なことを汚いことだと、どうしても思っているからだ。


 これは、そいつらだけじゃなく、世間一般の愚民どもにも言えることだが。

 どいつもこいつも隠れて利用しているくせにな。


 だからこそ、俺の付け入るスキがあったわけだが。


『すっごい原始的ぃ……。というか、女も?』

「色町にもよるけどな。王都は首都なだけあって王国でも最大級の色町がある。女を相手にした風俗店も、当然あるぞ」

『へー』


 性欲なんて、人間ならほとんど持ち合わせている。

 そこに、男も女も関係ない。


 王都の色町ほど大きな場所だったら、当然女向けの風俗店も完備されていた。


『というか、君がそんな堂々と色町を歩いていていいの? 何か噂になったりとか……』

「ここにいる奴らは、俺の名前は知っていても顔は知らないだろ。それに、別にいたからなんだって話だしな。悪意を持って噂を広めた奴は殺すだけだし」

『当たり前のように殺す選択肢があるの、どうにかしよう!』


 だいたいの問題は、相手を殺すことで解決する。

 相手を生かしたままどうにかしようとすると、対話とか色々と考えないといけないことも増えるからなあ。


 殺すだけでいいなら楽だ。

 ちなみに、それで遺族とかが復讐をしてくるのであれば、それも皆殺しにするだけである。


「というわけで、さっさと入って帰るぞ」

『うわっ、でっかっ!』


 俺が向かうのは、色町の中心地。

 外周部から中心にかけて、どんどんと高級志向になっていく傾向にある。


 中心ということは、色町の中で最も格式高く、客を選ぶ店ということになる。

 その煌びやかな外観は、プレイヤーが唖然とするほどだった。


 ……俺の家よりも派手だ。ちょっとむかつく。

 その入り口に向かって歩くと、当然のようにそこを固めている屈強な男がいた。


 見た目もさることながら、実力も伴っている。

 かなりの実力者だ。


 それこそ、俺に喧嘩を売ってきた近衛騎士とも、そう変わらないレベルではないだろうか。


『あの子ってそんなに強いの?』


 バカだけど、近衛騎士だからなあ。

 あそこはコネとかじゃ入れないし、完全な実力至上主義だ。


 ニックも雑魚ではないだろう。バカだけど。


「お待ちください、お客様。当館は完全予約制で、かつ紹介制、会員制です。御新規の方はご入館できません」

「んあ?」


 そんなことを考えながら入ろうとすると、警備の男に止められた。

 厳つい風貌と高い実力なのに、随分とご丁寧な言動だ。


 そういう教育がされているんだろうな。

 俺の私兵を立たせてみろよ。数時間で死体がいくつか転がっているレベルだ。


 今の状況だったら、たぶん問答無用で襲い掛かっていただろう。

 しかし、止められてしまった。


 まあ、約束をしていないし、事前に連絡もしていなかったから、話が通っていないのは当然だ。

 そして、男の言う通り、この店はなかなか面倒な手順を踏まなければ利用できない。


 常識を知らないお上りがやってきたと思われても不思議ではないだろう。

 うーむ、どうしようか。


 名乗ってもいいのだが、何かちょっとみっともないな……。


「あー……とりあえず、エデルローザに話を通してくれよ」

「……っ! 支配人の名前を……。少々お待ちください」


 その女の名前を出すと、男は目を丸くして店内に入っていった。

 俺の名前を言うより、あいつの名前を出した方が早いと踏んでのことだったが、間違いではなかったようだ。


 お上りをバカにしようと遠巻きに見ていた愚民どもが、目を丸くしている。

 なに見てんだ、殺すぞ。


「あー、よかった。これで、支配人の名前を呼び捨てなんて不敬だ! とか言って襲われたら、殺すところだった」

『殺すまで行くのが早すぎるんだけど!』


 この立派な建物を悪くするようなことはしたくない……極力。

 さて、どうやって時間を潰そうかな……。


『というか、支配人って……? どうして名前を知っているの?』

「いや、どうしてもこうしても……」


 俺がプレイヤーに説明しようとしたときだった。

 店の中からゆっくりと歩いてくる女が視界に入った。


「なんで一人でペラペラしゃべってんの? 嫌やわぁ……」


 くすくすと笑いながら声をかけてくる。

 柔らかくて甘い声音だ。


 だが、俺にこんな口の利き方ができるのは、そうそういない。

 別に俺は許していないんだけどな。


 ただ、使い勝手がいいから、まだ殺さないでいてやっている。


「……スポンサーへの口の利き方が、相変わらずなってねえな、エデルローザ」

「事前に連絡もなしにいきなり来る旦那はんが悪いわぁ」


 そう言うと、この店の支配人エデルローザは、うっすらと笑みを浮かべた。

 旦那はんって言うの止めろ。




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