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守銭奴無自覚ブラコン妹と盲目ヤンデレいじめっ子皇女に好かれる極悪中ボスの話  作者: 溝上 良
第2章

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第27話 そういうのでいいんだよ

 










「お前の教育がクソだって話だよ」


 俺はパトリシアを心底嫌そうに見て言った。

 まあ、王族が近衛騎士の一人一人を教育なんてするはずないんだけどな。


 ただ、部下がやらかした責任は上席がとるべきだ。

 近衛騎士を率いるのは王族であるから、当然パトリシアが悪い。


 だから、もう俺王都に行かなくてもいいよね? ね?


「貴様! 殿下に向かってなんて口の利き方だ!」

「……それはそうだよな」


 騎士が発狂するレベルでブチ切れているが、よくよく考えたら俺王族に凄い口の利き方だよな。

 オオトリが貴族にため口を使ったことを咎めているのに、俺が王族に対してため口を使っていたら、何の説得力もない。


 ……まあ、説得力なんていらないんですけどね、貴族には。

 強権を振るえるし、それで基本的に何とかなる。


 だいたい、パトリシアが敬われるようなことをしていないのが悪い。

 よし、これでいいだろう。


「いいんですよ、ニック。私が許しているのですから」

「で、殿下……。は、はっ……!」


 近衛騎士……ニックが、感激したように顔を輝かせ、頭を下げた。

 王族大好きな人間からすると、その王族に名前を憶えてもらっていて、あまつさえ名前を呼んでもらえたとなると、望外の喜びなのだろう。


 俺はパトリシアに名前を忘れてほしいけどな。


「それで、私の不手際とは?」

「いや、いきなり喧嘩売られたからさ。殺そうかと思ったんだけど」

「喧嘩、ですか?」


 小首をかしげてニックを見えない目で見据えるパトリシア。

 それを受けて、慌てて言い訳を始めるニック。


「ち、違います、殿下! 私は、殿下や王族に敬意を払わない悪徳貴族に注意をしようと……!」

「……あれって注意って感じだった?」

「いや、思いきり喧嘩売ってたっすね……」


 コソコソとマリエッタと話す。

 あれが注意なら、俺が賊とかにする罰も、軽い折檻のような表現になってしまうだろう。


「そうですか」


 パトリシアはそう言って少し時間を空ける。

 ……わざとしているんだろうなあ。


 ゴクリとのどを鳴らすほど、ニックは緊張している。

 この場を支配するための沈黙だ。


 そういうのは、王族らしいなと思う。


「あまり、そういうことは、私は好きではありません」

「――――――」

「あ、真っ白になったっす」


 たった一言。

 だが、その一言は自分の敬愛する王女パトリシアの、否定的な言葉。


 決して強い言葉ではないが、ニックにとってはこれ以上ない効果をもたらした。

 は、灰になってる……。


 突いたら崩れ落ちてくれないかな……。鬱陶しいし……。

 この動かなくなったゴミどうすんの? と思っていると、また別の騎士が近づいてきた。


 近衛騎士って暇なの?


「……すみません。引き取りに来ました」


 そう言った騎士は、女だった。

 騎士は軍人だから男所帯なのだが、まったく女がいないというわけではない。


 少し珍しいくらいで、そこそこの人数はいる。

 ただ、近衛騎士になれるレベルというのは珍しい。


 どうしても白兵戦に優れた者が集まるため、筋力に劣る女が選ばれることは少ないからだ。

 となると、魔法とかそういうのが得意なのかね。


 おそらく、スイセンもそっちだろうし。

 長い黒髪をたなびかせ、無表情でニックの襟首をつかみ上げる女。


 太い眉が特徴的な女は、俺をちらりと見ると、ズルズルとニックを引きずり始めた。

 そのまま全部すりおろしてくれ。


「ま、待て、エスペランサ! 私はまだ……!」

「……はいはい」

「いや、だから待って……ぐぇっ」


 はいはいと言いつつまったく無視している女騎士――――エスペランサに引きずられて、ニックは消えていった。

 二度と俺の前に顔を出すなよ。


 次見かけて俺に敵対したらマジで殺すから。


「さて、じゃあ行きましょうか」


 薄く笑いながら俺の腕をとるパトリシア。

 おい、気持ち悪いから近づいてくるな。


 体温がキツイ。


「今のを理由に断ることとかできない?」

「できません」

「そう……」










 ◆



「地獄のような時間だった……」


 俺は王都の入り口の傍で、空を見上げながらそう呟いた。

 さすがに王都の仲間でパトリシアと同じ馬車で入るわけにはいかない。


 この国では王族は大して力を持たないが、象徴としての意味は大きい。

 特に人気のあるパトリシアと同じ馬車でいるところを見られたら、俺がまるで取り入っているように見えてしまう。


 胃の中のものを全部ぶちまけてしまいそうになるほどのひどい勘違いだが、誰もがそう思うだろう。

 ということで、王都に近づいてきたところで、俺は馬車から脱出していた。


 ニコニコ笑いながら引き留めようとしてくるあいつは悪魔だと思う。

 デメリットを一切言わずに、さみしいからと弱いアピールをしてくるパトリシア、邪悪すぎない?


 あれ、オオトリだったら絶対に騙されているだろ。


『王女ってあんな腹黒だったっけ……? やっぱり、女ってクソだよね!』


 お前もクソだから黙ってろ。


『というか、王女と一緒の馬車の中で時間を過ごして、その感想って凄いよね。まあ、僕も別に楽しくなかったけどさ。やっぱり、こう……ムキムキの鍛えられた男だらけの方がいいよね!』


 そっちも地獄じゃねえか。

 誰がその地獄で過ごしたいと思うわけ?


 お前だけだったらいいけど、俺の頭に住み着いているから俺も巻き込もうとしているだろ。

 本当にそんなことをしたらぶっ殺すからな。


「あー……で、王都に道連れにしたお前らだが……」


 俺の前に並ぶ私兵たち。

 全員激しい話し合いの結果、どこかしら怪我をしている。


 元々人相も性格も悪い奴らなので、その怪我のせいでなおさら悪人面に磨きがかかっている。

 まあ、見た目が悪くて内面が良い、なんてことはなく、こいつらは見た目通り最低な性格をしているので、むしろ被害者が近づいてこないという面ではいいだろう。


 そんなバカな奴らの目は、キラキラと輝いていた。

 今から王都を全力で遊ぶ気満々である。


 別にこいつらとも四六時中いたいわけでもないから勝手にさせるつもりだったが……。

 他人が楽しそうにしているところを見るの、超つまらないんだよな。


「俺が嫌な思いをしているのにお前らが幸せな時間を過ごすことは許さん。よって、何もせず待機」

「「「横暴だ!!」」」

「は? 殺されたいの?」

「「「…………」」」


 シンと黙る私兵たち。

 そういうのでいいんだよ。




過去作のコミカライズ最新話が公開されました。

期間限定公開となります。

下記のURLや書影から飛べるので、ぜひご覧ください。


『人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された』第6話

https://kimicomi.com/series/eb41931417e85/

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