第22話 私とディオニソス様の深い関係
「はあ?」
俺の陣地にまでやってきてとんでもないことを言う女に、俺は唖然とする。
名前は……なんだっけ。パトリシアの側近をしている女だ。
あれだ……スーパービッチとかだったか。
『そんなわけないだろ。親がクソだよ、そうだとしたら。スイセンだよ、スイセン。原作キャラだし、エッチだから覚えているよ。その無駄にでかい胸を引きちぎりたい』
だから、ちょくちょく闇を見せてくるの止めてくれない?
お前、割とこっちよりだろ、考え方。
俺に殺しをするなとか言っているくせに、結構矛盾しているぞ。
「なんで俺が王都に行くんだよ。何も意味ないだろうが。絶対に行かないぞ」
「これは殿下の御言葉です。一貴族の貴殿に拒否権などないと思いますが」
「今の王族に貴族を強制するような力なんてあるかよ。しかも、こっちは賊の討伐の号令に従って戦ってやったんだぞ。これから事後処理があるんだよ」
だいたい、バンディットの討伐に力を貸してやっただけでも十分だろ。
こんなの、貴族の私兵を使わず国軍でどうにかしないといけないやつなのに。
ちなみに、事後処理は別に俺がしないけど断る理由にしておく。
どうせ、エギスに押し付けるだけだし。
「その点については重々承知しておりますが。私としても殿下よりの御言葉をお伝えし、貴殿を王都に引き連れる必要があります」
「だから、知らねえよ」
まあ、この女……スイセンの立場もあるから、こいつが言わないといけないというのは分かる。
だが、それに俺が従うかどうかはこっちの決める話だ。
そんなことを考えていると、スイセンがどこか神妙な顔持ちで話す。
「……今回の戦い、殿下に危険が及ぶ前に勝利することができたのは、間違いなく貴殿とその軍のおかげです。私は、フレイヤ様を推挙してしまいました。あのままだと、私は間接的に殿下を……」
…………それは本当だな。
お前、なにあの無能を推挙してんの?
マジで俺たちがいなかったら壊滅していたんじゃない? この討伐軍。
『それは確かにあるかもね。原作主人公オオトリが名を上げるのって、このバンディットとの戦いによるものだったはずだし。この戦いは痛手を負って、その後オオトリが活躍するストーリーだったかな』
ほーん。
まあ、あいつも割と実力はありそうだったしな。
「別にお前の感謝なんていらねえ。というか、お前の大好きな王女様がやれって言うから仕方なくやっただけだし」
「……そうですか」
そう言うと、スイセンは小さく、本当に小さく微笑んだ。
……なに笑ってんねん。
止めろ。俺、他人の笑顔とか嫌いなんだよ。
『どんな悪役キャラだよ。……あ、悪役だったわ』
全員思い詰めた顔をしていてほしい。笑えるし。
「それはそうとして、王都に来ていただきますが」
「行かねえって何度言ったら分かるの? 大丈夫? やることあるって言ってんだろ」
「……やることというのは、すでに終わっているのでは?」
俺がそう言うと、スイセンは眉を顰めて目の前に広がる光景を見た。
俺の陣地から少し離れた場所。
そこには、いくつかの鉄杭が地面に突き刺さっていた。
そして、その近くに並べられている全裸の男や女。
あいつらは、バンディットの構成員である。
たまたま生き残っていた奴らを連れてきたのだ。
ここまであったら、もう俺たちが何をしようとしているか分かるだろう。
そう、串刺し刑である。
「閣下! 何かうまく刺さらないっすぅ……」
「串刺しはコツがいるんだよ。あいつら慣れているから、そっちに聞いとけ」
「了解っす!」
しゅばっと元気に私兵たちに駆け寄っていくマリエッタ。
おい、お前が試していた賊を放っておくな。
もう色々な所に穴が開いていて死にそうじゃねえか。
ちなみに、串刺しというのはディオニソス軍では割とよくある処刑法である。
そのため、私兵たちは大体がやり方を熟知している。
「お、あぁぁ……!」
「こ、殺して……殺して……」
大きな悲鳴を上げるのは、最初の方だけだ。
ちゃんと串刺しにしたら、なかなか悲鳴は上がらない。
ちょっとずつ串が身体の中に、自重によって入り込んでくる。
あれ、絶対に辛いだろうなあ。
『うわぁ。自分でやらせているくせに、すっごい他人事ぉ……。そういうところが悪役なんだよ』
効果的だろうが。
これを見たら、賊になって俺たちに牙をむこうとは思わなくなるだろ。
こういうことをし続けた結果、ホーエンガンプ領で賊が出てくることはほとんどなくなった。
その例外が、今回のバンディットだったわけだが。
「……さすが殺戮皇ですね」
一見すると褒めているように見えるが、表情が露骨に嫌そうにゆがんでいるスイセン。
何でだろう。面白いのに……。
『え、どこが?』
今までさんざん他人をバカにして、あざ笑って、他人を貶めてきた奴らだぞ?
そいつらがいざ自分の番になったら、みっともなく泣き叫んでいるんだ。
ほら、面白いだろ。
『えぇ……』
「見せしめだよ。賊なんてしたらああなるぞっていうな。この領地の賊を減らしてやろうと貢献しているんだ。感謝してほしいな」
「まあ、それはそうと王都に向かいますよ」
「嫌だっつってんのが分からねえのか、クソ女」
俺は舌打ちをしてスイセンを睨みつけた。
パトリシアの側近とか知るか。
王都なんか行くわけねえだろ。
別に用事があるわけでもねえのに。
「スイセン、時間がかかっていますね」
そんなときに、聞きたくない声が聞こえてきた。
心底嫌そうに顔を歪めていると、視界にパトリシアが入ってくる。
盲目なのに一切つまずかないので平然と歩いている。
お前、目が見えたりしていない?
「で、殿下。こちらに来られるのはダメだとあれほど……」
「まあまあ、そうおっしゃらず。私とディオニソス様の仲ですから」
ニコニコと笑うパトリシア。
全然仲良くないんだけど。こっち来るな。
「それで、どうしてこんなに時間が?」
「ディオニソス様が王都には向かわないとおっしゃるので……」
「そうだぞ。行かないぞ」
スイセンは、さすがに直接パトリシアに拒絶の言葉を吐かないと思っていたのか、驚いたように俺を見ている。
むしろ、直接言えて幸運だったわ。
「そうですか。では……」
残念といった風に眉を弱弱しく下げるパトリシアが、口を開いた。
「私とディオニソス様の深い関係を皆さんに知ってもらいましょう――――――」
「分かった。行くからマジで余計なことを言うな。マジで殺すぞ」
深い関係ってなに? 早く死んでほしいと思っている関係?
絶対にありえないことなのに、こいつがその気になって言いふらせば、それは真実になる。
何なら、無理やり手籠めにされたとか言われたら……こいつの父親、親ばかだからマジで殺しに来そう。
まあ、当然返り討ちにするが、さすがにまだ反旗を翻すようなことはしたくないんだよなあ……。
準備とかできていないし。
だから、俺はマジでげっそりとしながら、パトリシアの要求を呑むのであった。
「まあ、よかったです。では、一緒に向かいましょう。王都へ」
『あれぇ? 僕の知っているパトリシアって……あれぇ?』
おい、プレイヤー。
早く悲惨な最期になるであろうパトリシアの死因を教えろ。
俺がその下手人のことを、全力でサポートするから。
過去作『自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた』のコミカライズ第2話がニコニコ漫画で公開されました。
期間限定公開となります。
下記のURLや表紙から飛べるので、ぜひご覧ください。
https://manga.nicovideo.jp/comic/74458




