第19話 死ね、クソ野郎
斬撃を放ったせいで、ぶっ壊れてしまった剣を投げ捨てる。
基本的に、俺が使うと武器が先に音を上げて潰れてしまうので、かなり入れ替わりが激しい。
そのため、とくに思うところもなかった。
それはそうと、俺は自分の腹部を労わるように撫で、苛立ちを露わにする。
「お前さあ……」
当然、その言葉はプレイヤーに向けられたものである。
このクソ野郎、俺が攻撃を放つ直前に、あの腹痛を発生させたのだ。
他人から攻撃されて味わう苦痛なら、いくらでも我慢できる。
そんなの、我慢できなければ死に至るだけだからだ。
ただ、内部から発生する苦痛には、俺も耐性がなかった。
しかも、腹痛って……。あの耐え難い痛みは何なんだろうな。
全然我慢できねえわ。
『いや、だからできる限り人は殺したらダメだって言ってるじゃん! じゃないと、原作主人公と相対した時に、君はあっけなく殺されることになるんだから!』
だから、俺が殺される前提で話するの止めない?
「お前、めちゃくちゃ俺の怒りを買っているって気づいてる? 身体が目の前にいたら、四肢を引きちぎって八つ裂きにするレベルで」
『え、何で?』
「お前、友達いなかっただろ」
『っ!?』
まあ、俺もいないけどね。
友達の必要性、感じたことないし。
それよりも、プレイヤーに言っておかなければならないことがあった。
「で、お前の腹痛のせいで手元狂ってしまったんだけど。お前、どうやって責任を取るんだ?」
『え?』
「いや、え? じゃなくて。あいつ、女を人質に取っていただろ。ちゃんとあの男だけを殺す感じでしていたのに、お前のせいで手元が狂ったんだよ。あの男はどさくさに紛れて逃げたし、あの攻撃、女の方に向かって行ったぞ」
『……え?』
そう。俺は、あの人質に取られていた女貴族に対して何ら価値を見出していなかったが、しかし殺すのはマズイとは思っていた。
だから、ちゃんと俺は人質に取っていた男の方だけを殺すように、しっかりと狙って攻撃をしていたのだ。
だというのに、プレイヤーが余計な手出しをしてくれやがったせいで、男は致命傷を負いながらも逃げたし、女は逃げられずにまともに攻撃を受けた。
「だから、たぶんあいつ死んだぞ。貴族、この軍の指揮官、死んだんだよ」
『…………ほあ?』
「お前、俺を助けるためとか言っていたけど、間違いなく殺そうとしているスパイだよな。これ、絶対に問題にされるぞ。下手したら処刑だな、処刑。下手しなくても処刑だろうけど」
いくら俺でも、同じ立場の貴族を殺したら罪に問われるだろう。
領民相手だったら何してもいいんだけどな。
パトリシアの奴も、ここぞとばかりに嬉々として俺を攻撃してきそうだし。
最低だな、あの盲目王女。早く殺された方がいいぞ。
『ど、どどどどどうしよう!? 良かれと思ってしたことがめちゃくちゃ裏目に!!』
「どうしようもこうしようもないだろ。色々と言葉はあるけどさ。革命とか、下克上とか、皆殺しとか……」
『全部ろくでもないよ!?』
まさか、俺が黙って大人しく殺されるとでも思っているのか?
仮に処刑とかそういう話になったら、マジで国を滅ぼすわ。
と言っても、今回はそこまでには発展しないんだけどな。
今の話も、プレイヤーのメンタルを傷つけたかっただけだし。
「まあ、ここまで言っているけど、たぶん大丈夫だろ。殺した感触がなかったし」
『え、それって……?』
プレイヤーのせいで俺に殺されそうになった女貴族。
当然、俺も無理やり回避しようとしたわけでもなかったので、逃げる方法は二つしかない。
まず、あの女貴族が自力でどうにかすること。
しかし、あれは無理だろうな。
あの男に変な魔法をかけられて、身動きが取れなくなっていたみたいだし。
となると、答えはもう一つの方法。
誰かが、あの女を助けるということだ。
「――――――味方諸共殺そうとするなんて、噂通りの男みたいだね」
少し離れた場所で、女貴族を大切そうに抱きかかえ、俺を睨みつける男がいた。
なかなか見た目が整っている。
随分と勇ましいことだ。
俺は結構好意的に見てやっているというのに、そいつの俺を見る目は敵意一色だ。
悲しいなあ……。
「【殺戮皇】ディオニソス・ホーエンガンプ!」
「誰、お前?」
俺を呼び捨てにするとか、なかなか豪胆だな。
そう思っていると、本人ではなく、プレイヤーが教えてくれた。
『げ、原作主人公……鳳 聖也だ!』
◆
「僕の名前は鳳 聖也。……こっちの世界で言うなら、セイヤ オオトリかな」
女貴族を抱えたまま、そうキリッとした表情で言う男――――オオトリ。
変な名前だな。ずいぶんと珍しい。
東方にある国はそういう名前が多いと聞いたことはあるが……まあ、どうでもいいや。
「こっちの世界? 何言ってんだ、お前」
「理解してもらう必要はないよ。これは、僕が立ち向かわなければいけない問題だからね」
「なんだこいつ……」
ふっと儚い笑みを浮かべるオオトリ。
じゃあ意味深なことを言ってんじゃねえよ。
まあ、今回はお前に微塵も興味がないから深堀はしないし……そもそも、これから先この男と会うことは、もうなさそうだし。
「で、オオトリだっけ。よく頑張ったな。じゃ」
「待て」
「ああ?」
適当に帰ろうとすると、呼び止められる。
待てって……お前……。
俺、人生でこんな雑な止められ方したの、数えるほどしかないわ。
『ちょ、ちょっと! もうちょっと丁重に対応して! 君を殺しうる存在なんだから!』
プレイヤーが大騒ぎしている。
丁重に対応して命乞いとか、俺が一番他人にさせて面白いことじゃん。
つまり、みじめでみっともないということだ。
俺がするわけねえだろうが。
「さっき、この人諸共殺そうとしただろ。あれは、どういうことだい? 味方を殺そうとするなんて」
糾弾するように……というか、実際にしているのだろうが。
そんな感じで俺を睨みつけてくるオオトリ。
いや、だから味方だと思ってないんだって、その女のこと。
「いや、俺は助けてやろうとしたんだよ。でも、邪魔が入ってな。俺のためとか言っているくせに、むしろ俺を窮地に追いやろうとする化け物がいるんだ」
『うぐぅ……』
口ごもるプレイヤー。
まあ、俺も別に助けようとは思っていなかったけどな。
結果的に助かるようになっていただけだし。
と、俺は真実を話をするのだが、オオトリは納得していない様子で俺を睨みつけてきていた。
「は? 何を言っているのかさっぱり分からないよ。ともかく、こんなきれいな女性を殺そうとしたなんて……」
き、きれい……?
女貴族は、オオトリを見てポーッとしている。
え、お前そういうキャラだったっけ?
いや、別に恋愛関係とか適当にしてくれていいけどさ。
というか、その言い方だと、男だったらこいつは助けなかったのだろうか?
よかったな、女。お前が女で。
「僕は、お前を許さないぞ、ディオニソス!」
きっと俺を睨みつけるオオトリ。
強い戦意を向けられるが、俺はやはり他のことが気になってしまう。
というか、ため口すっご。
『あれ、そんなに怒らないんだね?』
いや、別にそれくらいで怒ったりはしねえよ。
どうでもいい奴からどう思われても、どうでもいいし。
機嫌悪かったら、これを理由にそいつを殺すかもしれないけどさ。
ただ、まあ……。
「閣下を呼び捨て……」
ふっと暗くなるのは、太陽を背に誰かが跳んだからだ。
そいつは剣を抜き放ち、明確な殺意を持って、オオトリに襲い掛かった。
それは、ワンコ……マリエッタであった。
「――――――死ね、クソ野郎」
俺は、別にいいんだけどさ。
俺にため口を許さない奴もいるんだよ……。
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