第14話 これが、士気を上げるための演説……!
「うおー……すっごいことになってんなあ……」
俺は目の前で起きている惨状ともいえる光景を見て、他人事のような感想を抱いた。
……いや、まあ実際他人事だしな。
俺の私兵が削られているわけでもないし。
他の領の私兵が倒れていくのを見ても、何とも思わない。
まあ、あれが俺のところの兵だったとしても、別に何とも思わないけどな。
賊なんて雑魚に負けるような兵、いらないし。
『さっきまで優勢だったのに、こんな一気に戦いって変わるんだね……』
「お前の知識にはなかったのか?」
にわかには信じがたいが、この世界がプレイヤーのいた世界の創作物だとすれば、未来のこととかも分かるのではないだろうか。
実際、俺も殺されるらしいし。
この戦いも知識として持っているのではと尋ねるが、どうやらそうではないらしい。
『うん、知らない。多分、主人公が現れる前の話だよね、これ。原作前だから、どういうことなのかさっぱりだよ……』
「お前の言っていることが俺にはさっぱりだわ」
原作前とかはよく分からんが、要はこいつの知識も百パーセント何でも知り尽くしているというわけではない。
ちっ。何が起きるのか分かっていたら、こっちも色々と準備とかで動きやすいんだけどな……。
まあ、意味の分からん奴に頼るというのも腹立たしいし、別にいいか。
「まあ、どうでもいいけどな。とりあえず、もっと被害が出るまで待つか。具体的に言うなら、パトリシアが死ぬくらいまで」
『王女の殺害を目の前で傍観していたら、君も具合が悪いのでは……?』
「真実を知る者が誰もいなかったら、どうとでも言い訳できるわ。そもそも、この国の王族にホーエンガンプ家を罰せられるほどの力なんて、今更ないし」
『えぇ……』
歴史は生き残った奴が作るのである。
俺が動かなかったということを知っている奴を皆殺しにすれば、俺の言ったことが正史となる。
あれだ。敵と激闘を繰り広げていて助ける暇がなかった、けどちゃんと仇は取ったとかにしておこう。
それでもグダグダ言うんだったら、もうあれだしな。ちょっと考えていることを実行するだけだ。
「閣下ー!」
「おう、どうしたワンコ」
そんな俺の元に駆け寄ってくるのは、マリエッタである。
遠くから猛然と走り寄ってくる。
ブンブンとしっぽを振って、せわしない奴だ。
まあ、使い勝手いいから重用できる。
「ウチらはあいつら殺さないっすか? 戦場の空気に当てられて何もできないのはつらいっすよぉ」
「後でさんざん賊を殺させてやるから、我慢しとけ」
不満げな様子のマリエッタをなだめる。
……こいつ、忠犬みたいな感じなのに、割と交戦意欲は高いんだよな。
言い含めていないと嬉々として突撃していってしまうから、気をつけなければならない。
……リードとか考えるか?
「はーい。あっ、あと伝令っす」
「……伝令?」
俺に……?
他の貴族から距離をとられている俺に、伝令だと?
この作戦の指揮官だった女貴族でさえ、最初の待機命令以外は一切なかったのに。
それはそれでどうなんだと思うが。
怪訝そうな顔をしているであろう俺に対して、マリエッタは気づくことなく口を開いた。
「王女? 様からっす。えーと……」
『あれ、さっさと何とかしてください』
「…………」
王女……おうじょ……?
さっさとなんとかしろ……?
ほーん、なるほどなるほど。
『逃げられなかったねぇ……』
畜生めえええええええ!!
◆
俺の前にずらりと並ぶのは、人相の悪い私兵たち。
男も女もいるが、だいたい犯罪者みたいな顔立ちである。
実際、していることは犯罪者以上……いや、以下のことだから、あながち間違いでもなんでもない。
普段はこいつらの前に立って話すときは、戦いの前。
すなわち、弱いものいじめの前だから、俺もウキウキで喋っているのだが……。
今は、マジでやる気が出ない。
もう気が完全に抜けている。
そんな状態で、適当に話し始めた。
「えー……某クソ女に命令されたのでー、心底嫌々ですがー、あそこで大はしゃぎしている賊を皆殺しにしまーす。質問はありますかー? ないよなあ? じゃあさっさと殺しに行け、カスども」
『これが、士気を上げるための演説……!』
はー、だるい……。
他人から命令されて動くのって、本当にやる気出ないわ……。
俺に命令できるのなんて、父上とそれこそ王族くらいなものだから、ほとんど経験がない。
父上の命令も、家族からのものだから別に嫌でも何でもないし。
だから、露骨にやる気をなくしていた。
俺のそんな感じの気持ちが伝わってしまったのか、私兵たちもあまりやる気を見せていない。
「うぇーい、閣下ー。それだけだと士気があがりませーん」
舐めた口をきいてくる私兵の一人。
別にお前らの士気なんて上げてやろうとは思っていないし。
士気が低くて勝手に死ぬくらいなら、別にいらない。
しかし、求められているのであれば仕方ない。
それに応えるのも、貴族としての役割だ。
俺はそう判断して、笑ってやった。
「そうか。じゃあ、上がらん奴は殺す」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
『脅しだ……!』
人聞きの悪いことを言うな。
見ろ、この士気の上がりようを。
今のこいつら、一人で百人は殺しそうな勢いだぞ。
素晴らしいですね……。
「あー……。あと、いつもと同じだが、殺した数だけ褒賞が出るから。ちゃんと証拠は押さえておけよー」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! ぶっ殺してやるぜえええええええええええ!!」」」
今まで以上にやる気がぶち上がる。
本当、ちょろいわ。
殺せば殺すほど褒賞が出るから、当然張り切ってくれる。
忠誠心とか、義侠心とか、そんなものは一切持ち合わせていない連中だ。
だからこそ、扱いやすい。
『なに……なに、こいつら……?』
「おし、じゃあそういうことで……」
俺は剣を抜き、大暴れしているバンディットに対して振り下ろした。
「――――――突撃」
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