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お兄さんの指導を撮影していた私は、その圧巻されるような内容に、ただただ驚かされていた。
……お兄さんの直接指導は、はっきりいって凄まじい。
多くの生徒たちにとって、その効果は間違いなくある……と私は思った。
特に一番影響があったのは、これまでうまく魔法を使えていなかった生徒たちだ。
魔力を自覚できても外に魔法をうまく放出できていなかった生徒たちが……全員魔法を使っている。
同行していた教師たちが苦笑いを浮かべている。
「……いやいや、一体何が起きているんだか」
「本当にそうだねぇ。魔法が使えなくて悩んでいた子たちがみんな使えているじゃないか」
……魔法をうまく使えるかどうかというのは、才能に左右される、と言われている。
ただ、お兄さん曰く、コツをつかめているかどうか、ということらしい。
これは、これまでの理論とはそもそもかけ離れた認識であり、正直言って教育現場の在り方さえ変えるような出来事だった。
すべての指導が終わったのは、午後16時を過ぎたところだった。
「ふー……やっと終わったー!」
お兄さんが、大きく息を吐いてから仰ぐように手を動かしていた。
途中休憩を挟みながらとはいえ、600人近い人間を見てきたのだから疲れるなというのが無理な話だと思う。
お兄さんの指導が終わったところで、配信のほうもすでに終了している。
改めて、私はお兄さんを労いの言葉をかける。
「お疲れさまでした。配信のほうも、かなり盛り上がっていましたよ」
「そういえば配信してたんだったな」
「途中途中で話していたじゃないですか。あっ、お兄さんのまじめな指導の様子って初めてだったということで、そこでファンの方々が萌えていましたよ?」
「燃えて? 炎上してたのか?」
「そっちじゃないです。お兄さんの普段見られない姿を見てキュンキュンしていた……みたいな感じです」
「はあ? マジで? そいつらの目ついてるのか?」
お兄さんは信じられないといった様子だたが、私から見てもお兄さんの真面目な姿はかっこいいなぁ、という気持ちはあった。
……それを口にするのは恥ずかしいのでそれ以上は言わないけど。
「私の友人にもお兄さんのファンがいまして、尊い……とかいってましたよ」
もちろん、真奈美ちゃんのことだ。
お兄さんに触れるときなんて、気絶しかけていたし……。
「俺のファンねぇ、よくわからん需要があるんだな」
「あはは……その子は一応麻耶ちゃんのファンでもありますよ」
「それは見る目のある子だな」
腕を組み、満足した様子のお兄さん。
……相変わらずのテンションに私は苦笑していた。
そんな話をしていると、下原さんたちがこちらへとやってくる。
私たちの前に立つと、深く、頭を下げてきた。
「お疲れ様でした、鈴田さん。本日は過密スケジュールの中で対応していただいて、ありがとうございました」
「ああ、いや別にいいですよ。嫌なら最初から断ってますし」
「そう言っていただけると、助かります。……ずっと鈴田さんの指導を見ていましたが、素晴らしかったですね。魔力探知の能力がずば抜けていて、魔法を使うのに苦戦していた子たちもスムーズに使いこなせるようになっていて……先生たちも驚いていましたよ」
「まあ、俺の指導がたまたまあった子もいたようで良かったです。合う合わないも結構ありますからね」
「そうですね。ただ、今日お兄さんの指導を受けた人たちは合っているようでしたね」
「それは良かったです」
……確かに人によって指導の合う合わないはあると思う。
ただ、お兄さんのやり方の場合、誰に対しても問題はないように思えた。
「本日はこれで終わりになりますが、どうでしょうか? 私たちのほうで車も用意していますし、送りましょうか?」
下原さんの提案に、お兄さんはちらと霧崎さんを見る。
この後の予定について考えているんだと思う。ただ、先程先生たちとの挨拶もかわしたし、もう大丈夫なはずだ。
霧崎さんは、微笑とともに頷いた。
「今日はここで解散ですので、迅さんの自由にしてください」
「そうですか。それなら送っていってもらいますかね。いやあ、今日は夜から麻耶の配信があるんで、早めに帰らないとって思ってたんですよ」
「それは鈴田さんにとっては一大事ですね」
「全人類の一大事にしてやりたいですね……。それじゃあ霧崎さん、凛音。俺はこれで帰るから! そんじゃ!」
元気よく手を挙げ、お兄さんは下原さんたちと帰っていった。
霧崎さんは苦笑しつつ、私のほうへとやってくる。
「本日はありがとうございました。色々と迅さんの無茶に付き合っていただいて……」
「いえ、大丈夫です。それに、今日は比較的おとなしかったですから」
少なくとも、指導しているときは落ち着いていた。
休憩時間に少し冗談を言ってくるくらいだったけど、それも別に楽しめるものだったし。
「私もこれで一度事務所に戻ります。何かあれば、連絡してください」
「はい。ありがとうございました」
私もぺこりと頭を下げ、霧崎さんと別れた。





