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妹の迷宮配信を手伝っていた俺が、うっかりSランクモンスター相手に無双した結果がこちらです【書籍化&コミカライズ企画進行中!】  作者: 木嶋隆太


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 黒竜は口元を釣り上げるように笑う。

 獲物が来た、と思っているのかもしれない。

 迷宮の魔物は、一体だって同じ個体は存在しない。だから、これまで何度も俺にやられてきた黒竜たちだが、彼らは俺を獲物と見下す。


「……お、お兄さん……だ、大丈夫なんですか?」


 俺の後ろにいた凛音は、先ほどは叫んでいた黒竜を前に完全にぶるってしまった。

 黒竜は俺たちを餌、とみているのかもしれない。

 だが、違う。

 俺ははっきりとそれを教えるため、いつもは見せない本気の殺気と魔力を解き放った。

 動きを制限するための威圧。その効果は、絶大だった。


「……ッ」


 黒竜は俺を見て、がたりと震える。

 そして、じっと動きを止め、一歩後ずさる。

 その生まれた隙に、俺は凛音の肩を掴み、前へと押し出す。


「お、お兄さん!?」

「全力の魔法を黒竜に撃ってみろ」

「……い、いや! だ、だって私なんかの魔法じゃ!」

「黒竜相手なら、傷つける心配はないぞ? おまえの全力の魔法を叩き込んでみろよ」

「……そ、それは確かに、そうですけど……」


 ……まあ、恐らくうまく魔法は使えないだろう。

 凛音は困惑しながらも魔法を練り上げる。相手が黒竜……だからといってもやはり魔法を放つときには制限がかかっている。

 しかし、俺は彼女の魔力を操作し、無理やりに最大級の魔法を完成させる。


「お、お兄さんこれ……っ」

「よし、いけ! 凛音砲!」

「ださっ! お兄さんださいですよ!」

「じゃあ、おまえが名前決めろ、ほらもう出るだろ?」

「ええ!? え、えっと……リンネビームって……ダサいよ私!」


 凛音を操って放った魔法は水のレーザーとでもいおうか。

 その一撃は長寿の大木のように太く、まっすぐに黒竜へとぶつかり……しかし、黒竜はよろめいただけだった。

 ぎろり、と目がこちらを向く。恐怖で動きを固めていた黒竜だったが、その一撃でキレ、咆哮をあげた。


「ガアアアアア!」

「お、お兄さん。全然効いてないですよっ!」

「そういうわけだ。っと」


 俺は凛音を後ろに下げながら、黒竜の尻尾の振り下ろしを受け止める。

 そのまま掴んで、引っこ抜いた。


「ギアア!?」


 黒竜が悲鳴を上げる。

 凛音に説明の続きをしたかったので、さっさと倒すか。

 身体強化を高め、俺は地面を蹴りつける。

 黒竜の首へと跳んだ俺は、引っこ抜くようにして仕留めた。


 これまでの中ボスたちと比べると少し時間はかかったが、それでもほぼ一瞬だ。

 手についた埃を払うようにしてから凛音の元へと戻る。


「……うわ……すごすぎ……」


 別に俺の戦闘を凛音に見せたくてここに連れてきたわけではない。

 黒竜からは剣がドロップしていた。別に必要ないので、それはここまで付き合わせた凛音へのプレゼントにしよう。


「それで、俺がここまで連れてきた理由が分かったか?」

「じ、自慢?」

「俺ってそんな嫌な奴に見える?」

「……えーと、その。私の魔法を、黒竜に使ってみるとか……ですか?」

「そうだな」


 俺はこくりと頷くが、凛音はそこから先が分からないといった様子だ。


「……で、でもそれでえーと何が?」

「さっき、全力の魔法を使ってみてどうだった?」

「私って……も、もしかして天才ですか?」

「ああ、天才だ」

「えへへ……そ、そうですか」


 喜んでいた凛音に軽くチョップする。


「あいた!? 何をするんですか!」

「そうじゃないだろ? 黒竜はどうだった? 天才凛音様の魔法はどのくらい通用していたんだ?」

「全然。……効いている様子はありませんでした」

「そうだ。魔法を使わないまま、制限したまま戦うことは別にいい。ただ、それだと守れるものも守れないかもしれない。倒せるはずのものも倒せないかもしれない。そういうわけだ」


 凛音の今の魔法だとあれが限界だが、そのうち制御し訓練をしていけば黒竜だって倒せるほどのものになるはずだ。

 ……俺としては、できればその道を目指してほしい。

 だから、本気で魔法を撃っても倒せない相手がいることを教えるためにここに連れてきた。


「……守れるものも、守れない。倒せるはずのものも倒せない、ですか」

「あとは、自分なりに考えてみろ。どうして冒険者をしているのか、どうして戦闘の指導をお願いしてきたのか。というわけで、帰ろうぜ」

「……はい」


 俺は解放された転移石へと向かい、彼女とともに一階層へと移動した。

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― 新着の感想 ―
凛音とお兄ちゃんの掛け合いも面白いな
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