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第六話 ゲルドヴァのワイルドハント 三

「近いうちに旧ゼロナグラ公領のダンジョン、『毒壺』を起点として魔物の大氾濫(スタンピード)が起きます。管理の手が入らなくなり、かのダンジョン内では有毒生物の大発生ヒュージアウトブレイクが生じています。エルリックの方々にここで狩りをして、スタンピードを防いでいただきたいのです」


 毒壺は以前ダニエルが全面的に管理していたダンジョンである。アンデッドは大半の毒が無効。そんなダニエルの操るアンデッドが出入りしている頃は、毒壺は貴重な薬や素材の産地でしかなかったが、ダニエルが不在となってから出入りする者はあまりいない。


 人間がハントを行うには、実入りに対して毒のリスクが大きすぎるからだ。深みへ潜れば潜るほど、解毒の難しい強力な毒を操る魔物が増える。


 適度な間引きが行われぬうちに魔物の棲息数は湧水の如く増え、今にも溢れんばかりである。スタンピードはもっと前に起こってもおかしくないまま、今日に至った。ここまでスタンピードが起こらなかったのは不思議なくらいである。


「ダンジョンの探索はハンターの喜びの一つです」


 ポーラの反応はとても好感触だ。


「もし可能であれば、このズィーカ(アリステル)中佐が率いる四人の班を同行させていただけませんか。彼らはズィーカ中佐の下で医療やその他高度な技術を学ぶ秀才の集まりです」

「そうですね……。我々にもジバクマの医療技術をご教示いただけるなら構いませんよ」


 人間と社会関係を構築するアンデッドが強く興味を示すのは魔法を含めた高度な技術や知識だ。アンデッドには意義の乏しい医療知識に興味を示すかは未知数だったが、どうやらお気に召してくれたようだ。


 交渉としては上々である。ただし、私個人のどうでもいい感情は不満を強く訴えている。ワイルドハントとは一緒にいたくないし、毒の蔓延るダンジョンの中にも行きたくない。どちらが嫌か? 正解は、どちらも激烈に嫌だ。


「それで……ダンジョンの魔物を間引く我々に、貴国はどのように報いてくれるのでしょうか」

「金銭的には、少なくともワーカーとして建設作業に従事するよりもずっと大きな額の報酬を御用意いたします。失礼ながら貴方方の強さは前もって調べさせていただきました。ミスリルクラスのハンター三人への報酬と考えると足りないかもしれませんが、最大限御用意する所存です」

「ダンジョンで得られた素材を、ジバクマの街で換金するのは構いませんか?」


 このワイルドハントが毒壺でハントを行えば、国が報酬を用意せずとも素材の換金だけで大金と呼ぶに相応しい額の金銭を得られることになる。これはよくない流れだ。


「それはもちろん……」

「では金銭的な報酬以外の物が嬉しいですね」


 ゲルドヴァでワーカーとして仕事をしていたのはやはり形だけだ。ワイルドハントは金に困ってなどいない。必ず金銭以外の報酬を要求してくるものと睨んでいた。


「ぐ、具体的には……?」

「ゼロナグラ公の遺産を頂きたいと思います」


 きた。この要求も予想されたものの一つだ。しかし、かなり苦しい要求である。何とか他のもので満足してもらいたい。


「ご存じのとおり、大アンデッドであるゼロナグラ公にご子息はいらっしゃいませんでした。ゼロナグラ公が残した遺産は、国の宝、財産として引き継がせていただいていて、色々な形で分譲された物もあります。その全てをご用意するのは……」

「全てとは申しません。例えば、公が残した研究室や、技術など。これらはどのように扱っていますか?」


 大泣きしたばかりとは思えぬ鋭い目つきでポーラがバイルに尋ねる。


 ワイルドハントはダニエルについてどこまで知っているのだろう。見え空いた嘘はこちらの立場を苦しくする。嘘は言わずに真実から遠ざけなければならない。


 あの場所は封印されている。広域に人間の立ち入りを一切禁止したままだ。残されていた書物には判読困難な文字が使われている。大半は闇魔法について記されていたはずだ。


 最も危険な()()の生成方法が記された本は全て処分済みだが、生成に用いた器具はそのままあの場所に封印してある。同じアンデッドである以上、このワイルドハントに研究室を引き渡してしまうといつ生成に行き着くか分からない。()()が再び人の世に出るなど、絶対にあってはならないことである。


「人間には扱えぬ技術、あるいは危険すぎる技術が多く、一部は永遠に葬り、一部は封印してあります」

「それは我々にとって好都合ですね。ジバクマの皆さんが我々に好意的である限り、皆さんを害するような使い方はいたしません。是非譲っていただきたいものです」

「その件については持ち帰り、王と議会に相談したいと思います」

「どうぞご自由に」


 回答引き伸ばしとも取れるバイルの返事をポーラは嫌な顔一つせずに承諾した。即答が得られないのはワイルドハントも分かっている。それだけに薄気味が悪い。


「報酬の件は検討しておいてください。我々は毒壺でのハントに異論ありません。他にお話ししておくべき用件はありますか」

「お話したいことはまだまだ御座いますが――」

「重大な用件は無い、ということですね。ならば我々はこの辺りでお(いとま)いたします」


 自分達は話したいこと、聞きたいことを一方的に話題に挙げ、私達からの話題は一つ聞いたっきりで終了、という唐突な退室宣言。私達が聞きたかった話の数々はほぼ手付かずの状態、こちらの事情などお構いなしだ。


 ワイルドハントのリーダーの存在やこいつらの活動目的など、調べるべきことが何一つ分かっていない。会話の中での探りでも、私の能力でも、どちらにおいても、だ。


「お、お待ちください。お話だけでなくとも、まだ皆様に楽しんでいただけるように催しを準備しており――」

「我々は芸術を解する心を持ち合わせておりません。お互いの意思が確認できて、一先ずの仮契約が完了した。それで十分です」


 契約が完了した? 報酬も確定していないのに? ワイルドハントがフラフス社を襲撃した本当の理由はもしかして……


「ああ、それからフラフス社からの報酬は、こちらの食事代に充ててください。そのくらいは十分あるはずです。余った分は国に返還いたします。寄贈、献上と言うべきかもしれませんが、どちらでもいいでしょう。我々はこの足で毒壺に向かいます。目に入った魔物は全て殲滅しておきますから、ズィーカ中佐と班の皆さんはごゆるりと後からどうぞ。あちらで会えるのを楽しみにしております」


 言うが早いか、ワイルドハントは次々に窓から外へ出て行った。




    ◇◇    




「窓から出て行くとは思いもよらなかったな」


 バイルが窓からワイルドハントの消え去った方角を眺める。


「入室時に窓から一体出て行ったのだから、この行動は予想できてもいいものだが、存外に饒舌で会話はまだまだ続くものと思っていた……。そういえば扉の外の一体はどうした?」


 まさか集団に置いて行かれはしていないだろうか、と恐る恐る扉を開けると、そこにはウェイターの姿しかなかった。


「ここにいたワイルドハントはどうした?」

「五分くらい前に階段を降りて店外へ出られたご様子です」


 流石に置いて行かれるようなへまはしないか……


「我々の作戦などあってないようなものだった。何もかもを引っ掻き回していってくれたよ」


 バイルが渋面で吐き捨てる。


「リッテン少将、我々が作戦終了を告げぬ限り、部隊は非常配置のままです。まずはここを撤収しましょう。報告は後程、ということで」


 アリステルがバイルに進言する。マジェスティックダイナーの内外至る所に軍人、憲兵の人員多数を配置したままだ。それはつまり通常業務を含めた他の部分が手薄になっていることを意味する。それに核心部分は“仲間”だけの場所でなければ話せない。


 本日私達が遂行した作業の純粋な量は、全く大したことがない。それでもワイルドハントに振り回された結果として、軍も憲兵もぐったりとした様子である。休息を取ろうにも、始めたものを先に終わらせなければならない。私達は皆、徒労感に苛まれたまま撤収を始めた。




  ◇◇  




 駐屯地の会議室へ戻ると、先日のように鏡を起動し王を呼び出した。元の依頼へ戻っていったライゼンを除くジル、バイル、アリステル、私の四人による会議の始まりだ。


「さ、顔を上げろ。定型文の挨拶はいらないから報告に入れ」


 報告を受ける側のジルは平常通りでも、私達はこれっぽっちも普段通りではない。


「おい、どうした、暗い顔をして? 最悪ではなかったが、上手くもいかなかった。そんなところか。こちらとしては生きているお前らの顔が見られて良かった、と思っているんだけどな。そんなに酷いことになったのか?」

「良い報告からさせていただきますと、ワイルドハントを招いて会食を開くことに成功し、毒壺の間引きの協力の約束を取り付けました」

「それは想定された中で最高の成果じゃないか。……てことは、要求された報酬が(わきま)え知らずだったとみえる」


 ジルは頭が切れる。全てを説明される前に何が起こったのかを察している。


「後は全て悪い報告だと思います。話してもよろしいですか」

「聞かんでどうする、話せ」


 ジルは心なしか少し楽しそうに続きを促す。


「まず、ラムサス少尉による調査は行えておりません。ワイルドハントはとんでもなく遠目が利きました。一瞬でラムサス少尉とライゼン卿の隠れ場所が見抜かれてしまいました」

「で、別に戦いになった訳じゃないんだろ? 全員無傷に見えるしな」

「はい、戦闘は一切ありませんでした。後は……ポーラはドミネートで操られた傀儡ではありませんね。少しおかしなところがあるだけで、完全に人間の言動をしていました。ただし、かなり厄介な女です」


 バイルはビルベイ邸でのやり取りとマジェスティックダイナーでのやり取りを簡潔に説明する。


 ビルベイ邸での会話内容、それに私とライゼンが入室するまでのマジェスティックダイナーでの会話は、私も今初めて聞く。


 私達がホスト役に加わるまでの間、ポーラはかなり威圧的、攻撃的な態度を取っていた。


 それもそのはず。戦闘員の大量展開と、(あまっさ)えブラッククラスのライゼンを魔法射程で伏せさせていることを見抜いたワイルドハントは、バイルの言葉一つ一つを全面戦争の前口上と捉えていたからだ。ジバクマ側が言葉選びを一つ間違えるだけで交渉の余地を永遠に失う一触即発の状況下、バイルは難しい任務を達成してくれていた。


 矢面に立たされたバイル、アリステル、マトゥーシュの三人は寿命が縮んだことだろう。


 ジルはまるで喜劇でも見るかのように笑いながらその話を聞いている。


「はっはっは。それは疲れたことだろう。誤解が解けた後も大分ポーラに振り回されたようだな。それで、そのマジェスティックダイナーとやらの飯は美味かったか?」

「気が気ではなく、味なんて分かりませんでしたよ」


 ポーラは食事を楽しんだようだが、こちら側で味が分かったのはライゼンくらいのものだ。ライゼンは去り際に、「あの店はかなり美味かったな」と言っていた。


「それにしても、会食場所の変更を要求する、とは随分と人間的な発想の下に行動するものだ。アンデッドであれば、出欠以外のことまで気を回さない。会場変更はポーラ以外の誰か、ではなく、ポーラ自身が思いついたことだろう」

「当初準備していた場所で会食を行えたとしても、少尉の能力を行使するのは無理だったと思います」


 戦闘を回避するために死に物狂いで頭を回転させていた三人の気も知らずに、血気逸らせた私がトゥールさんの能力を行使せずに済んだのは本当に幸運だった。ビルベイ邸でのワイルドハント退却が後少し遅かったら、私は間違いなくトゥールさんの能力をポーラに使っていた。


「それにしてもそのワイルドハント……エルリックと言ったか? エルリックはこうなることを全て読んでいたな。俺やライゼンが出てくることまでも。俺達はまんまと奴らの垂らした釣り針に食いついてしまったわけだ」

「フラフス社を襲撃した件も、金などどうでも良かったのでしょう。目的は示威と国を引っ張り出すこと。しかも双方矛を収めやすい形で」


 確かにそう考えると旧ビルベイ邸を襲撃した際に重傷者、死傷者が全く出ていないのも頷ける。根っからの不殺主義と判断するのは早計だ。


「約束を違えたら暴力も辞さない、と最初に示したわけですね。ゼロナグラ公の遺産の提供も確約はしていませんが、こうなると提供しないわけにはいきません」

「そうだろうか? それも見せかけ(シャム)なんじゃないか? 要求を先出ししてしまったら、ダンジョンに篭っている間に俺達が遺産を隠すかもしれないじゃないか」

「……となると、何がエルリックの狙いだろう。ゼロナグラ公の遺産以上に彼らが喜びそうなものなんて、見当がつかない。金銭や身分に興味があるとも思えないし……」


 いや、ある。マジェスティックダイナーでポーラがハッキリと願望を口にしていた。


「あの者達も仲間を探しているのかもしれません。ワイルドハントに引き入れる仲間を。言っていたではないですか。『ライゼン卿とハントに行きたい』とか、『私をハントに誘いたい』とか」

「それは危ないな。クフィアを引き込まれたら、全軍を上げてもエルリックを討伐できるか怪しくなってくる」


 怪しいどころではない。全く無理である。ライゼン一人で一国の戦線を押し上げられるのだ。そこにワイルドハントが加わったら手の施しようはなくなる。


「ただ、それは国に要求するよりライゼン卿にお願いするべき話ですからね。国家に対してそういう要求をするでしょうか?」

「クフィアじゃなくてジェダかもしれんな……」


 ジェダ……。私の弟。三歳年下なのに、既に私よりも強くなっているという。国が総力を挙げて守っている、次世代の英雄が約束された存在だ。


 このまま強く育ったら、二代目のライゼンを襲名するのだろうか。そもそもライゼンとは過去の英霊の名前なのだから、三代目?


「ジェダは絶対にワイルドハントなどに渡しません」


 強い決意の下に意志を表明する。


「おいおいそんなに大きい声を出さないでくれよ。俺は別にジェダを差し出すなんて言ってないぞ。というかワイルドハント側に回られると、クフィアと同じくらい危険なんだ。差し出すはずがない」


 そこまで声を張り上げるつもりはなかったのに、感情が私に意図以上の大きな声を出させていた。


 どいつもこいつもジェダを戦闘兵器か何かと勘違いしている。王であるジルは、むしろそういう割り切った見方をできなければいけないかもしれない。だが、肝心の父親であるライゼンはどうなんだ。この場にいたらちゃんとジェダを守っただろうか。


 ああ! ライゼンはいてもいなくても不愉快だ!!


「本当の狙いを探るのはこの先も続けるとして、今のところの代価になっているダニエルの遺産についても考えないといけないな。エルリックが真の“仲間”に引き込めれば喜んで渡してやりたいところだが、どれもこれも渡したうえで敵に回られると凶悪な代物ばかりだからな……。しかも俺達が持っていても使えない、あるいは有効な使い途がない、という涙が出るほど素晴らしい欠点付きだ」

「エルリックは遺産の所在をどれだけ把握しているか分かりません。安易に破壊したり隠したりするのは宣戦布告に等しいですよ」


 少なくとも何らかの情報を得ているからこそ、知っているからこその遺産の譲渡要求だ。最終的に、遺産のどれかは必ず渡す覚悟でいなければならないだろう。


「後にエルリックと敵対することを前提に、どれか一つだけ渡すとしたら間違いなく “結界陣”なんだが、そういうのに限って手元にないんだよなあ」

「陛下、それは使えますよ。結界陣ならばお譲りしたいのですが、と話を持っていけば自然に次の依頼へ繋げられます」

「それもそうだな。……はあ。何だか俺達のこの会議内容もエルリックの想定内な気がしてうすら寒くなるな」


 それは異常極まるエルリックに限った話ではない。ワイルドハントは常に危険かつ操り難い集団であり、それを手駒として用いよう、と試みている以上、安寧ではいられない。


 アンデッド達は、己の利を得ようとするとき以外、人間の思考など顧みない。ただし、その思路は著しく無味乾燥であり、生者の感情や気持ちを理解することはできない。このワイルドハントの場合、ポーラの存在により人間的な思考ができる分、歴代のワイルドハントよりも性質が悪い。アンデッドの持つ無機質な恐怖と、人間だからこそ思い至る有機的な狂気の組み合わせになるかもしれない。


「私はどうしましょうか。ワイルドハントの鋭敏さをみるに、私の能力で調査を行うのはもはや不可能と思います」

「ダンジョンに行くのだから、どさくさに紛れてなんとかならないか? 俺は戦闘に詳しくないが、色々なシチュエーションが起こり得るはずだ」


 ダンジョン内であれば、あのワイルドハントですら追い込まれる場面があるかもしれない。けれども、そういう場合においては、ワイルドハント以上にアリステル班が窮地に置かれるように思う。


「適切な間引きさえできれば、毒壺はラシードとサマンダの教育にも良い環境ではある」


 アリステルが独り言ちる。


 教育のため、と言うなら、間引かれた後に訪れてもいいのではないか、と思ってしまうのは、ワイルドハントと関わりを持ちたくない私の心の弱さ故か……。いずれにしてもワイルドハントの監視役が必要だ。


「では陛下、リレンコフに早馬を出してください。エルリックは既に毒壺に向かっています。放っておくとリレンコフの憲兵団とエルリックが衝突しかねません。いきなりワイルドハントが現れたら、憲兵団は目を回しますよ」

「なるほどな。首都から飛ばす早馬を、ゲルドヴァから休みなしで走り続けるアンデッドのエルリックが追い越す、なんてことがなければいいな」


 毒壺はゲルドヴァから東へ、首都を越えて更に東に位置している。人間の脚であれば、ジルが首都から出す早馬を越すなどということはあり得ないが、あのアンデッド集団だとその異常事態が生じかねない。


「よし、それはこちらで何とかしておこう。アリステル班はリレンコフに向かってくれ。スタンピードに巻き込まれて死なれても困る。憲兵を引き連れてから毒壺の様子を窺いに行け」

「承知いたしました」




 ジルへの報告を終え、会議室を後にする。ワイルドハントとの初対峙以降、待ちぼうけが続いているラシードとサマンダを集め、アリステルが簡潔に要点だけを告げる。


「よし、次の任務だ。あのワイルドハント、パーティー名エルリックに合流し彼らと行動を共にする。次の目的地はリレンコフにあるダンジョン、毒壺だ」


 細かい経緯を知らない二人は、しばらく開いた口を塞ぐことができずに放心するばかりだった。




    ◇◇    




 翌日、私達は馬車に乗り、首都を経由してリレンコフへ出発した。


 何日も狭い馬車の中に閉じ込められて揺られる苦痛に身体が限界を迎える頃になってようやくリレンコフに到着し、そこで数日ぶりに寝心地の良いベッドで足を伸ばして眠る。リレンコフ到着の翌日、憲兵団から小隊規模の応援を得て、街の郊外にある毒壺に向かう。


「班行動が多かったから、小隊クラスの人員と行動を一緒にするのは新鮮だね」


 賑やかなほうが好みのサマンダは少しソワソワとしている。ラシードとサマンダは軍医という立場上、こういった班や隊の指揮官となることはそうそうないだろう。しかし、この程度の人数の部隊ならば、指揮している将校の階級は私達と同程度である。あまり浮つかないでもらいたい。雰囲気の違いをちょっと楽しんでいるだけのサマンダと違い、ラシードは、俺もいずれは部下多数を率いたい、みたいなことを考えていそうな気がする。そこまで馬鹿ではないことを祈るばかりだ。

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[一言] ライゼン嫌われすぎで笑う まあ職業からしてろくな父親じゃなさそうだもんな
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