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第五話 岸壁の戦い 二

 ジャイアントアイスオーガが長い腕を(しな)らせて剣を振り下ろす。剣術に非ざる圧倒的な暴力が一体のアンデッドに向けられている。ジバクマ人によってシーワと名付けられた、一本の手足がジャイアントアイスオーガの剣を受ける。


 二者の剣術は極めて対照的である。ジャイアントアイスオーガの剣を一文字で言い表すのならば、「攻」以外にありえない。受けるシーワの剣は「守」の文字が綺麗に当てはまる。


 思えば(アール)は、剣使いを相手にするとき、守りの剣ばかり撃ってきた。剣を持たない人間や、魔物相手であれば、攻めの剣を撃ち込める。それが一旦剣を前にすると、守りの型が身体を支配する。


 おそらくは、最初の人間(ダグラス)が、そういう生き方をしてきたからだ。受けて守って防いで、勝機が見えた瞬間にだけ、一つの太刀を振るう。


『一撃で決められる』


 そういう確信が得られるまで、(アール)の身体は攻めの剣を撃つことを拒む。


 攻めるための攻めの剣ではなく、守りに繋げるための攻めの剣であれば、(アール)でも撃ち込める。


 人間であることを手放し、元の私(エル)に戻ると、また別の戦い方が見えてくる。より冷静に、より計算高く自分の取るべき道が見える。


 ジャイアントアイスオーガとシーワは、力無き命を数多奪う破壊力の乗った一撃を、互いに何度も放ち続ける。


 ジャイアントアイスオーガの戦闘力は、ハンターで言うところのミスリルクラス。ただし、その剣技は剣術未満の稚拙なもの。膂力と魔力に頼った、術とは呼べない限りなく純粋な暴力に過ぎない。暴力が剣を握っただけである。


 人間とは線引きを行う生物だ。戦う力を有した強い人間と戦う力の乏しい人間。その二者の間に線を引け、と命じた時、多くの人間はシルバークラスとゴールドクラスの間に線を引く。


 ではもし、強さの線引きを、ゴールドクラス以上の人間に行わせたら……? 今度は、その線はチタンクラスとミスリルクラスの間に引かれることだろう。


 チタンクラスは強い。とても、とても強い人間である。しかし、ミスリルクラスは違う。人間の想像の及ばない、ヒトの領域を逸脱した強さを有している。


 ミスリルクラスの亜人(オーガ)と、ミスリルクラスの非生者(アンデッド)の戦い。それが、ジャイアントアイスオーガとシーワの戦いだ。


 二者の剣は轟音とともに風を切り、岩がちな断崖ごと周囲の空間全てを砕きながら、どちらかが滅ぶまで舞い続ける。


 (アール)の対人剣は、ミスリルクラスに到達する前に成長を終えた。(アール)の剣術では、剣術と呼ぶにはあまりに無様なジャイアントアイスオーガの剣を弾き返せない。(アール)の剣術は、その域に達していない。


 (アール)は何もかも中途半端だ。剣も、魔法も……土魔法も火魔法も変性魔法も回復魔法も補助魔法も幻惑魔法も、学問に至っても、何もかもに手を伸ばし、その全てが中途半端だ。


 一部の俊才を除き、適性というものは限られている。そのものに最も適合した技術に特化して成長させるのが、極みに至る道である。


 それは何度も何度も、何人も何人も、耳が痛くなるまで私に説明してくれた。それは確かに真実なのだろう。腕が二本しかない人間にとっては。


 私には腕が何本もある。魔法を操りたければ、背高(ヴィゾーク)やイデナを操ればよい。剣を持って戦いたければ、シーワやフルルを動かせばいい。


 一線を越えられるものは、越えられないものとは別の世界が見えている。


 (アール)の剣術を撃たせるから、シーワは力を出しきれない。シーワにシーワの剣を撃たせれば、本来の力が発揮できる。


 ドミネートで支配された傀儡は、単に操られているだけではない。操られながらにして、自我を持っている。目に映る世界が見えている。何が起こっているか理解している。戦いが繰り広げられれば、どう動くべきか、どう魔法を放つべきか、どう剣を撃つべきか、イメージを浮かべている。たとえその肉体が、非生者(アンデッド)であったとしても。


 シーワは身体を操られながら、撃つべき剣を想起している。どう身体を動かし、どう敵の剣を避け、どう闘衣を操作し、どう命を奪うか。


 戦うイメージは、ドミネートを介して私に伝わる。シーワの戦闘イメージは、(アール)の戦闘イメージと似ても似つかない。より直感的で、より暴力的で、より命を奪うことを考えている。剣士というよりは狂戦士。


 (アール)も本当は理解している。半端な剣士の私が放つ剣術よりも、シーワの狂剣のほうが、ずっと強力で、遥かに殺し合いに適している。


 しかし、刹那の判断を迫られる戦闘中に、自らが抱く戦闘イメージを打ち消しながら、傀儡の戦闘イメージ通りに傀儡を動かすことなど不可能である。人間業ではない。


 人間にはできない。(アール)にはできない。では、アンデッドであれば……元の私(エル)であれば、それができる。


 難しく考える必要などない。感情はもっと必要ない。冷静に冷酷に命を奪う剣を撃つ。元の私(エル)の得意な、我々(アンデッド)の大好きな殺生術である。




 ブルーウォーウルフの一頭、リジッドと戦うフルルは何とかなっている。一見千日手であっても、このブルーウォーウルフは生者である。負傷せずとも、動けば動くだけ体力が減っていく。アンデッドと互角の戦いを演じる時点で、生者には勝ち目がない。


 ニグンのほうは、フルード相手に押し負けている。ウルフの牙が届きそうになったところをクルーヴァにカバーさせている。身体能力の低さを闘衣で帳尻合わせをしていることから、ジリ貧の状態だ。魔剣クシャヴィトロによってフルードの魔力をシーワが吸い続けているとはいえ、ペース的にはニグンのほうが先に魔力切れになる。




 森の奥からはウォーターボールが飛来し続けている。


 イデナとヴィゾークの手足二本だけでは、迎撃するのが精一杯だ。




 一旦は退いたブルーウォーウルフのモブ達が、ジャイアントアイスオーガが森より飛び出してきてから、調子づいて集まってきている。


 瘴気(ダークエーテル)を警戒して戦闘には加わっていないが、瘴気を切らしでもすれば、このブルーウォーウルフどもは(たちま)ち我々を飲み込むことであろう。


 アンデッド化してドミネートした手駒のブルーウォーウルフは動きが良くない。人型アンデッドでいうところのアンデッドウォーカーのような俊敏性の無い鈍い動きをしている。


 私も手足もアンデッド作成魔法(アニメイトバディ)に精通していないせいか、アンデッドに転化した直後の個体は、生前に比べて能力が落ちている。それに私はブルーウォーウルフの身体操作に習熟していない。今この状況では、ブルーウォーウルフアンデッドは計算できる戦力にならない。何頭いようと、その辺をウロウロするだけの(デコイ)の役割しか果たすことができない。




 アイスオーガのモブ、ブルーウォーウルフのモブ、ミスリルクラス相当のブルーウォーウルフ二頭、ネームドモンスターに登録されているジャイアントアイスオーガ。私以外の手足だけで悠長に戦っていると、倒し切るのに時間が掛かる上、魔力を無駄に消費する。どの順番で倒すのが最高の効率となるか思案する。


 思案がてら、森の中から飛来するウォーターボールにクレイスパイクを放つ。


 ヴィゾークとイデナの手足二本だけでは拮抗する魔法戦も、私一人が加わるだけで完全に優位に立つことができる。


 空に浮かぶ無数のウォーターボールが、次から次へと破裂していく。森から射出される全てのウォーターボールが無くなると、クレイスパイクは木の陰に潜むオーガに襲いかかっていく。


 我々からは見えていないと思って、オーガどもは森の中を派手に逃げ回る。空を舞う傀儡で、移動速度を見極め、正確に偏差をつけてクレイスパイクを放つ。


 一旦隊形が崩れると脆いもので、指揮官不在のオーガの群れは戦闘態勢を立て直すことができない。逃げ惑った挙げ句、クレイスパイクを避けきれなかったオーガが一体、また一体と命を落としていく。アンデッドにとって、生者の動向を察知するのは容易い。生きるものは水の匂いを嗅ぎ取ることができる。ミツバチは花の匂いに感じ取る。捕食者であれば被食者の匂いを感じ取る。アンデッドは生者の匂い、生の息吹そのものを感じ取る。


 生者の生命を断った瞬間、アンデッドは自身の存在が強化されることで、絶命という現象をまざまざと実感することができる。アンデッドにとって殺生というのは、生者にとっての食事なのである。


 アンデッドは生者を殺すほどに強くなっていく。自身の存在を、より上位の存在に昇華させることができる。だからアンデッドは生者を殺す。殺害の"過程"は問わない。殺害という"結果"にだけ、偽りの生があることの喜びを見出す。


 魔力が豊富であれば豊富なほど、強ければ強いほど、殺害対象としては好ましい。アイスオーガのモブの強さはダンジョン下層の魔物と同程度。数を倒すとそれなりに手足が強くなった実感を得られる。


 大森林の魔物は殺害対象として合格だ。フィールドに居ながらにして、ダンジョン下層と同じだけの満足感を得られる。特に強い二頭のブルーウォーウルフと、このジャイアントアイスオーガ。これらを倒せば私はまた一段階強くなれる。


 ジャイアントアイスオーガとシーワの戦闘は、今も激しさが衰えることなく続いている。


 ジャイアントアイスオーガと斬り結ぶことで、力任せのミスリルクラスの暴力剣に応ずる対処とシーワの狂剣術の引き出し方は、十分以上に学習した。これ以上斬り結んだところで剣の損耗が進むだけ。終わりにしよう。


 森の中のアイスオーガの攻撃が途絶えたことで手の空いた私が先ずヒートロッドを伸ばす。ヒートロッドの先にいるのは、ニグンと戯れるブルーウォーウルフのリジットだ。


 ヒートロッドに気付いたリジッドが、すんでのところでヒートロッドの尖端を躱し、身を跳ねさせる。跳ねた先にあるのは、前もってヴィゾークで放っておいたクレイスパイクである。


 ギャイン、と図体に見合わぬ可愛らしいイヌのような鳴き声とともにリジッドの身体が弾かれる。後脚近位(つけね)から血飛沫を上げてもんどりうつリジッドをヒートロッドが追いかける。


 ヒートロッドは伸縮自在の炎の剣。必要に応じ、鞭のように(しな)らせることも可能。どれだけ素早く動き回ろうと、いつまでも躱しきれる類の攻撃ではない。まして、クレイスパイクの衝撃を身に受け、駒のようにきりもみし、前後左右を失っていては、躱すことなどできようはずがない。


 イデナが伸ばすヒートロッドに続き、私とヴィゾークの伸ばす合計六本の炎の剣が気高く強いブルーウォーウルフの身体を貫いてゆく。


 ヒートロッドはリジッドの涼し気な夏毛を燃やし、肉を断ち切り、臓腑(はらわた)を焼く。剣を引き抜いても焼灼効果により派手な出血こそ起こらないものの、体内の循環動態は破綻の一途を辿っている。このまま放っておいてもリジッドは遠からず死ぬ。しかし、手を抜くことなどありえない。


 引き抜いた剣の一本をリジッドの胸部に刺し入れる。火が肉を焼き切り、フワと軟らかい肺腑を熱し縮め、剣先は身体の中枢で力強く拍動する心臓に到達する。


 長く生きて適度に肥えたブルーウォーウルフの心膜は脂肪に包まれている。熱せられた脂肪がどろりと溶け出し、最重要筋肉たる心筋が、骨格筋と同じ臭煙を上げて焦げていく。


 ヒートロッドが心臓を貫通しただけでは、拍動は止まらない。焦げた肉を伝ってヒートロッドの熱が拍動を生み出す洞房結節に達したところで、心臓は鼓動を止める。


 全身を貫かれながらも、なお逃れようともがいていたブルーウォーウルフは、心臓が収縮を終えて十秒後、身体を完全に弛緩させた。残ったのは、熱反応による筋の収縮だけ。


 身体の筋は屈筋優位。リジッドは身体を縮こまらせて死の肢位を固めていく。


 一風変わった死後硬直が進むリジッドに、剣で相手をしていたニグンでアンデッド作成魔法(アニメイトバディ)をかける。生を終えたばかりの肉体が、偽りの生を受けて蠢き出す。


 これで目下の標的はフルードとジャイアントアイスオーガだけ。もうどうやっても負けはない。フルードのほうは、生きたまま実験材料にすることにしよう。


 フルルには、そのままフルードとの攻防を継続させ、リジッド、ニグン、クルーヴァはダークエーテルの範囲外に屯するブルーウォーウルフと遊ばせる。


 遊びが過ぎてブルーウォーウルフに逃げられたところで構わない。今ここで確実に倒すべきはジャイアントアイスオーガだけ。


 ジャイアントアイスオーガはシーワとの戦闘にかかりきりだ。全力の剣がシーワに届いていないにも関わらず、勝利に固執し諦めようとしない。頂点種の一つ故の妄執。それが没溺であることを証明してみせよう。




 ヴィゾークとイデナ、そして私の手足三本を用い、一つの魔法構築を開始する。


 土の属性を与えられた物体が、三者の中間、上方に姿を見せる。物体は、横長の棒状の形態から徐々に増大し、歪な槍の形状を模していく。私が作り出す魔法を見る人間(ルカ)は、槍の形状に禍々しさを感じている。


 人間の感覚からしてみれば、この魔法は忌むべき外形をしているのであろう。アンデッドには、その感覚が分からない。


 スパイダーという魔物の外見に、多くの人間は気色の悪さを覚える。強いか弱いか、毒があるかないかは関係がない。あの外観(フォルム)を、ヒトの根源が嫌っているのだ。


 そういう根源的な嫌悪を、ルカは私の作り出す魔法に対して感じているのだ。


 土魔法は、捻じれのある刺突器の形を取っている。物理戦闘用の槍として考えると異形の形状だ。それをゆっくりと回転させていく。


 見た目は異形の槍であっても、用途は槍ではない。投擲槍を優に上回る破壊力を持つ"砲弾"なのである。


 遠距離攻撃は一にも二にも命中させること。命中しなければ話は始まらない。命中力に加え、超遠距離から超高防御を貫く特性をもった砲弾を得るには如何にすればよいか。


 砲弾の重量を上げればいい。弾速を上げればいい。流線形状を取らせればいい。進行方向と同一の回転軸を持たせて回転をかければいい。


 その全てを身体一つで成し遂げるのは、魔法の練達であっても極めて困難。それが私にとっては何も難しくない。


 一つの身体で三つも四つも魔法を同時行使するから無理がでる。イデナで魔法の原型を作り、ヴィゾークでそれを強化し、私が修飾加工を施せばいい。一つ一つの工程は何も難しくない。チタンクラスの魔法使いであれば、できて当たり前の魔法技術。


 人間二人や三人で再現しようとすれば、それは"斉唱"に該当する。三者で全く同じ工程を同時に行うのであれば"重唱"だ。


 私は斉唱も重唱も行っていない。ヴィゾークもイデナも私の"手足"に他ならない。右手と左手で合成魔法を放つようなもの。手足が完全に分離しているため、合成魔法にありがちな、同時に複数の魔法行程(ライン)を並べることに起因する魔力圧の低下が起こらない。


 ラムサスは調律者(コーディネーター)がどうこう言っていた。私にはそんなもの必要ない。斉唱などせずとも、私は自分の手足だけで斉唱以上の合成魔法を構築できる。


 最初はゆっくりであった砲弾の回転が、もはや鳥や虫の動体視力でも形状を正確に視認できないほどに高速になっている。動体視力を超えた高速回転により、歪であった砲弾は平凡(オーソドックス)な槍のように我々の目に映っている。


 空気を切り裂く砲弾の回転が巨大ヴェスパの羽音を思わせる低音を唸らせる。


 砲弾は長く大きく魔力がしかと込められている。この一帯の空を我が物顔で飛ぶ怪鳥、ルドスクシュの翼長よりも長い砲弾が練り上がる。


 この程度の大きさで十分だろう。ジャイアントアイスオーガの魔力は毒壺のダンジョンボスの一体、シェンナゴーレムの半分強。その肉体が、ゴーレムの身体以上の強度を有するはずもなし。


「耳ヲ塞ゲ」


 回転音にかき消されないよう、ルカに声を張り上げさせる。元の私(エル)がルカを操ると、どうも人間的な喋り方をさせられない。


 アンデッド特有の、感情の伴わない抑揚を失った声になってしまう。分かっていても、それは防ぐことができない。今はそれでいい。意図が伝われば何も問題はない。


 ルカの忠告を聞いたラムサスが両手で耳を塞ぐのを見計らい、シーワをアイスオーガから一足、大きく飛び退かせる。


 シーワが間合いを離れた直後、ジャイアントアイスオーガの目は逃げるシーワではなく、こちら側に向いた。


 砲弾は低い異音を鳴り響かせている。その音はジャイアントアイスオーガの耳にも確かに届いている。シーワと剣を合していたがために、こちらを向くことができなかったのだ。隙を見せればシーワの剣はジャイアントアイスオーガに届く。


 剣を撃ち合う相手を失ったジャイアントアイスオーガが、我々の練り上げた土魔法を呆然と眺める。


 アイスオーガの全身は、少しだけ青みを含む白く美しい毛で覆われている。人間よりもずっと高い背丈とすらりと伸びた四肢を持っているが痩身ではなく、体毛の下に隠れた逞しい筋肉の隆起が体幹にも四肢にもはっきりと見て取れる。


 盛夏だからこその夏毛が、マディオフの北部で生きる魔物の身体が持つ美しさを見せつけんばかりに誇示している。


 美しく雄大なアイスオーガは、我々の魔法を見て時を止めている。マディオフの如何なる魔物も見たことのない、しかし一見して間違いなく大破壊(わざわい)をもたらすと分かる魔法の躯体。その躯体の無言の死刑宣告に、アイスオーガは時を止める。


 アイスオーガは混乱と茫然自失をその身体で表現していた。そんな死中でも生をまさぐろうという生命の格率に従い、剣を握る片手をあてもなくわずかだけ持ち上げる。その瞬間、私は魔法ベネリカッターを放った。




 爆風と衝撃と轟音が一帯を震撼させる。


 射出点から傀儡の耳に轟音が届くよりも早く、ジャイアントアイスオーガの肉体が消滅する。


 放った砲弾は、それを放った我々自身ですら視認すること(あた)わない。


 砲弾の飛行も、砲弾がジャイアントアイスオーガに命中するところも、目を開けていたところで何も見えはしない。放った瞬間に結果に至っている。


 放った砲弾は、目標であるジャイアントアイスオーガを消し飛ばし、そのアイスオーガがいた場所のずっと後方まで緑々の木々を薙ぎ倒し、重力ではなく俯角に従い地面に着弾し、レンベルクを彷彿とさせる土の爆発を引き起こす。砲弾が通った軌跡には何も残らない。『何も無い』ということを見て、それで初めて弾道を認識できるのだ。


 威力に傾ければ、ゴーレムであっても防御不可能。弾速に傾ければ、射撃の瞬間を視認していても回避不可能。これが私のベネリカッターだ。


 実用するのは都合四度目。マドヴァがいない今の我々では、ベネリカッターを構築するためにノスタルジアを使う必要がある。ベネリカッターは主に土属性魔法。(アール)の得意属性ではあっても、元の私(エル)の得意属性ではない。ノスタルジアを使わずにベネリカッターを用いたほうが、上達はしやすいだろう。そのためにも、いずれ魔法に長けた手足を()()したほうがいい。ノスタルジアが(アール)に強いる負担を考えても、手足の補充は必要不可欠。


 今後の展望を思案しつつ空を見上げる。弾着地点から跳ね上げられた木々や土砂は、いまだに空の高く、より高くへと昇り続けている。


 オルシネーヴァでクラーサ城城壁に放った際は、飛礫(ひれき)はここまで高く飛翔しなかった。砲弾質量を抑えたことで純粋な破壊力は落ちた代わりに、弾速は増し、力積も増加したのだろう。


 命中精度の担保と砲弾質量と弾速、魔法構築速度の兼ね合いについて、今少し考察を行うべきであろう。この魔法は、まだまだ改善の余地がある。




 発射時の轟音に遅れて弾着地からも轟音が鳴り響き、全ての手足を身体の芯から細かく揺らす。地面から伝わる直接的な衝撃と相まって、大小二つの揺れが魔法完遂を報告する。


 アンデッドの身体が生命を刈り取ったことを実感し、ジャイアントアイスオーガの死亡を確信する。もはやノスタルジアの作用下にいる必要はない。プリザーブを用いていても、連続作用時間が五分を超すと、ノックダウンが避けられない。


 ヴィゾークを用いて私の身体にリヴァースをかける。アンデッドの透き通った思考が、雑多な人間の思考に戻っていくのを実感する。




 元の私(エル)(アール)に戻ったのと時を同じくして、ベネリカッターの衝撃で身体を硬直させていたフルードが、フルルに背を向けて逃げ出す。


 こいつの存在を忘れていた。こいつは記念品のようなもの。生け捕りにしてみせよう。


 土魔法(クレイスパイク)をフルードの逃走方向前方にばら撒き、逃走を妨げたところにシーワとフルルの剣を軽く撃つ。


 キャンキャンと逃げ回るフルードの足を土魔法で絡め取り、そのまま土の拘束具で縛り付ける。


 残りのブルーウォーウルフは、いずれも一目散に森の方向に逃げ出している。


 少しでも数を減らすべく、背に向けて追撃の魔法を放つ。


 ただのクレイスパイクは、中距離で逃げ惑うブルーウォーウルフにはなかなか命中せず、大半のブルーウォーウルフは森の中へ姿を消した。


 残りのアイスオーガ達も既に逃走してしまっていて、どこにも気配が見当たらない。これから追い掛けたところで無駄足だろう。ブルーウォーウルフの逃げ足にだって我々は追いつけない。


 取り敢えず行うべきは戦闘の後始末だ。


「今の戦闘で怪我は負っていませんね?」


 まずはラムサスに負傷が無いか確認しておく。


「ベネリカッターは使えないって言ったのに……」


 ラムサスは私の質問に答えず、以前の発言との齟齬を追求し始めた。


「一手間加えないと使えない、という意味です。我々の能力を探ろうとしないで、私の質問に答えてください」

「怪我はない。探ろうとしているのではなく、把握しようとしているだけ。運用前提が分かっていないと、作戦を立てられないでしょ?」

「作戦を立てるのであれば、ベネリカッター頼みにならないものをお願いします。あれは本当に使い勝手が悪いんで……」


 ラムサスはわざとらしく溜め息をつく。


「それってベネリカッター側の問題ではなくて、ノスタルジア側の問題なんじゃない? ノエルはエキムムーラから逃走するために魔法を使うときもノスタルジアを使っていた。その少し前には、ノスタルジアとプリザーブは負担が大きい、ということを言っていた。それに、さっきのルカの話し方……。ノスタルジアは対象をアンデッド化する魔法。どう? 何か間違ってる?」


 私の腹を探るようだと、軍略家ではなく迷探偵だ。あの三種類の魔法のことを説明したのは余計だったようだ。


「あなたがどう思おうと、どう言い繕おうと、私は今のあなたの言動を"詮議"だと感じている。取り調べは、ここまでにしてください」

「でも――」

「私はこれ以上答えを言わない。間違いも訂正しない。それでも答えが知りたいようであれば、あなたの身体にもかけてあげましょうか。ノスタルジアを」


 自分の身体をアンデッド化されると思ったのか、ラムサスはびくりと身を固くする。ズケズケと私の秘密に立ち入ろうとする割に、思ったほど肝が据わっていない。


 ノスタルジアには対象アンデッド化の効果などない。ノスタルジアの効果はもっと単純だ。


「成果や真実を手にすることができるのは、それを真に願うものだけ。ただし、代価が必要になる。あなたにはその覚悟がない」


 ノスタルジアがもたらす長期的な悪影響は未だ不明。不要な場面での安易な使用は慎むべきである。


 ラムサスにかけるつもりなどないし、自分自身にもなるべく使用したくない。だからベネリカッター頼みの作戦を立てられては困るのだ。


 ノスタルジア使用をちらつかせたことで、ラムサスは黙りこくる。恐怖で縮こまっているのとは少し違い、何かを考えている。私の役に立つことを考えているのであれば問題はない。好きに沈思すればいい。


「さあ、戦後処理です。せっかく苦労して捕らえたのです。この一頭を手足に加えましょう」


 緊急的にフルードと名付けたブルーウォーウルフへ近寄る。


 フルードは土魔法の拘束具で雁字搦めにしてある。魔剣クシャヴィトロに魔力を吸われ、身体に有する魔力は当初の半分ほどになっている。それでもまだ半分だ。これだけ残っていては、魔力抵抗だって十分にある。ドミネートをかけたところで抵抗(レジスト)されるに決まっている。


 拘束具からわずかに出ている部分に傀儡の手を伸ばし、魔力吸収魔法(マナドレイン)でフルードの魔力を吸う。


 マナドレインはドレーナの闇魔法の一つである。オドイストスが練習していなかったせいで、最初は対象に噛みつかないと魔力を吸うことができなかった。練習を重ねていくことで、対象の身体のどこかに傷さえつけておけば、身体のどこかに触れるだけでマナドレインを使うことができるようになった。これは魔剣クシャヴィトロの魔力吸収条件にかなり似ている。


 クシャヴィトロのほうは、その刃で対象に傷を負わせれば、あとは触れずとも近距離にいるだけで魔力を自動的に吸収し続ける。私のマナドレインも更に上達すると、クシャヴィトロのように遠隔吸収ができるようになるかもしれない。


 マナドレインは私を含めた手足の間で魔力を融通し合うのにとても便利だ。


 私はノスタルジアによって元の私(エル)に戻らない限り、自分で魔法を使うことができない。普段、私の身体は魔力貯蔵庫(プール)として溜めておき、ヴィゾークとかイデナのように魔法が得意な連中に惜しみなく魔法を使わせる。


 彼らの魔力が減ってきたら、マナドレインで私から魔力を吸わせることで、無駄なく魔力を使うことができる。


 ルカは最大魔力量が少ないから、自衛のために闘衣を使うと、それが低燃費の塵であってもみるみる魔力が減っていく。しかし、手足に騎乗した状態であれば適宜魔力を補充できることから、魔力欠乏(マナデフ)を気にせずに済む。


 (アール)はマディオフに居た頃、なかなか魔法を練習する機会に恵まれず、最大魔力量を上昇させる魔力循環ばかりやっていることが多かった。今となってはそれが良い方向に働いている。


 そもそも魔法の基礎は既に身に着いている。高度な魔法は(アール)の肉体で練習するよりも、ヴィゾークやイデナといった魔法の得意な手足で練習するほうが効率的である。ヴィゾークやイデナで習得した技術や経験は、ドミネート越しに私に還元される。


 練習時に魔力が不足すれば、私やシーワからマナドレインで補充できる。ヴィゾーク、イデナ、マドヴァ、それぞれ得意な魔法の種類が異なるから、各々の得意な属性、種類を練習させる。一旦誰かが使えるようになれば、何度も使わせているうちに私のほうがそれを習得できる。私が習得すれば、全く練習させていない手足に、その魔法を使わせることが可能になる。


 マナドレインの利用価値は魔力共有(シェア)に留まらない。


 三本の手足でフルードに触れ、魔力を三方向から吸収する。クシャヴィトロと合わせ、フルードは四方向から魔力を吸われていることになる。


 そこへドミネートをかけてやる。魔力を枯渇させる必要はない。一度に多方向から魔力を吸うと、魔力抵抗は極端に落ちる。


 自分で魔法を使うことを想起すると分かりやすい。弱いファイアボルトを行使する場合、魔力は一回線(チャネル)あればいい。火と風の合成魔法、バーニンググレネードを行使する場合、火に回す魔力と風に回す魔力、右手と左手の二回線が必要になる。魔法杖が無い状態で強力なバーニンググレネードを使おうとする場合、火と風に加えて自分の身体を防御する闘衣が必要になるから、全部で三回線が必要。


 二回線はともかく、三回線になると、魔力の変換効率とでも言ったらいいだろうか。魔力圧が極端に落ちる。これは"慣れ"とか"技術"の問題ではなく、人間が同時に操れる魔力は二回線までが現実的な限界ということを意味している。


 二回線が限界、というのは人間に限らない。今目の前にいるフルード、つまりブルーウォーウルフであっても、四方向から魔力を吸収すると魔法抵抗が一気に落ち、ドミネートを抵抗(レジスト)することはほぼ不可能になる。


 三重マナドレインを行っても、まだレジストする場合は四重にしてもいいし、ドミネートよりもレジストされにくいセンシタイズをかけて魔法抵抗を下げる方法もある。


 生物のみならず、アンデッドに対してもこの方法は有効だ。アンデッドは生物と違って、どれだけ痛めつけても「瀕死」という状態にならない。生物であれば、外傷や冷却、毒といった手法で瀕死ないし仮死状態にすることで魔法抵抗を下げられる。瀕死にならないアンデッドは、こうやってフルードに行ったように、多重マナドレインで強制的に魔法抵抗を下げることでドミネートを押し通すことができる。


 あとは、さっきのブルーウォーウルフのモブやリジッドにやったのと同じように、アンデッドとして転化する最中にドミネートをかけるやり方もある。多種多様な条件で試行を重ねることは、魔法上達の正道の一つであり、たまにこうやって"裏技"を見つけることができる。こういう裏技を発見できたからこそ、シーワやヴィゾークといった強力な手足を入手することに成功したのである。


 真正面からドミネートをかけていては、ゴールドクラスのハンターでも狩れる程度の強さしかないリッチやアンデッドサージェントにすら魔法をレジストされてしまう。




 傀儡に仕立て上げたフルードから拘束具を外し、回復魔法をかける。傷が消えればクシャヴィトロで魔力を吸われることもない。


 改めてパーティーを見回すと、ブルーウォーウルフアンデッドがたくさんいる。


「うーん……。たった一戦でウルフだらけのパーティーになってしまいました」

「全部連れて行くの?」


 ラムサスは、信じられない、といった目つきで無節操に傀儡を増やした私を責める。


 今いるウルフは、生きたブルーウォーウルフであるフルードが一頭、アンデッドであるリジッド一頭、モブアンデッドは二、三……軽く十頭以上。


 あまり数多く駒を持ち歩いたところで上手には操り切れないし、強化機会の問題もある。リジッドとフルードの二頭だけでいいだろう。


「脚の速い手足はきっと役に立つことでしょう。とはいえ、こんなに数は要らないです。これ(フルード)それ(リジッド)の二頭を残して、全部処分しようと思います」


 アンデッドは腕や脚を切り落としたくらいでは、本体も、切り落とされた側の肢も偽りの生を失わない。首を切り落とすことで初めて完全な死に至る。


 本体から切り落とされても肢は活動を続けるのに、首を離断するなどで本体が活動を停止すると、先に切り落とされていた肢の側も活動を停止する。本体と肢は、物理的な接続とは別に、魔力を介する何らかの繋がりがあるのだろう。


 こういう奇妙な特徴も、腕を失った私が代替手段を見出すのに役に立った。我々と二年間一緒にいたラムサス達も、腕が無いのはニグンだと信じて疑っていなかった。私に仮の腕を作るために、ニグンには犠牲になってもらっていたのだ。


 私はもしかしたら歴史上、最もアンデッドの特性を有効利用している人間かもしれない。私を人間の範疇に含めてもいいのであれば、の話だが。




 リジッド以外の全てのブルーウォーウルフアンデッドの頭部を離断して処理を完了とし、次なる目標をラムサスに告げる。


「サナ。ジャイアントアイスオーガが持っていた剣の場所は分かりますか?」

「そんなこと言ったって……。ベネリカッターがジャイアントアイスオーガごと、剣を跡形もなく消し飛ばしたようにしか見えなかった」

「そうですか。あの魔法は剣に直撃させていません。我々は、魔法の威力についてはあまり自信がありませんが、精密照準(コマンド)だけは、それなり、という自負があります。ベネリカッターはジャイアントアイスオーガの腰部に当てました。その衝撃で剣を握っている上半身は森の中へ吹っ飛ばされてしまったようです。それくらいであれば、固有名持ち武器(ネームドウェポン)は全壊しないはずです」


 それなりに発言が真である自信を持っていたつもりだが、ラムサスは思い切り不信の目を私に向ける。


「魔物が持っている剣が、ネームドウェポン?」

「本当に名前があるかどうか、という定義の問題ではないです。ネームドウェポンと呼ぶに値する性能を持った剣だと私は考えています」


 私の魔法の照準の問題ではなく、武器の性能の問題だったようだ。


 あと、私本体ではなくて、会話口を担っているルカの目を見て話してもらいたい。情報魔法操者にこちらをしっかりと見つめられるのは、かなりのプレッシャーである。


「サナ、こっちを向いて話をしましょう。あの剣が壊れていない、という絶対の自信はありません。ただ、回収することができれば、あの剣は我々の頼もしい戦力になってくれることでしょう。あの剣を見つけるため、力を貸してください」

「壊れていなければ、近くまで行くことで見つけられると思う。壊れていれば、多分無理」


 ポジェムニバダンは武器が持つユニークスキルを読み取った。その武器が壊れ、スキルを失ってしまうと、いかに小妖精でも発見することができないのであろう。


「なるほど。では協力をお願いします」

「それはいいんだけど……。魔法の威力には自信がない、か」


 そう言ってラムサスは鼻で笑う。


 ベネリカッター以外の私の魔法は絶対的な破壊力に欠けていて、私はそのことをそれなりに気にしている。こうやって鼻で笑われると、冗談抜きで傷つく。


 強力無比な雷魔法を使いこなすクフィア・ドロギスニグを父に持つラムサスのことだ。ベネリカッターですら"低威力"と見做しているのかもしれない。ここは魔法を指導する立場として、一言言っておくべきだろう。


「威力は大きければ、高ければいい、というものではありません。今回放った一撃は、サイズと威力を抑えて、構築速度と弾速を強化したものです。状況によっては構築速度を犠牲にしてでも、とにかく高威力高殲滅力が求められる場合があります。状況によって微調整(モディファイ)を施すのは、魔法使いとして大切なことですよ」


 私の真面目な説明を、ラムサスは呆気にとられたような顔で聞いている。呆れているのかもしれない。説明ではなく、低威力の言い訳と取られてしまっただろうか……


「我々のベネリカッターもまだまだ発展途上の魔法です。いずれ高威力へとバランスを傾けることもあるはずです。強い一撃はまた今度の機会に期待してください」

「えっ……!?」


 ううん……。補足説明するつもりが、本当に言い訳になってしまった。みっともない言い訳を聞き、ラムサスは驚きを隠せずにいる。私は自分の魔法の威力の低さに、自覚している以上の劣等感を抱いているらしい。


 自分で面目を潰す真似をしてしまった。指導関係の維持のためにも、こういうことは良くない。指導者に対する尊敬の念を失うと、学習者側の学習効率が落ちてしまう。


 人格を否定され見下されることは一向に構わない。そんなことは私にとってどうでもいい。ただし、魔法使いとしては尊敬される存在であり続けるべきだ。それがラムサスを強化する近道になり、私の飼育理論の確立に繋がる。そのためにも、我々は今まで以上に魔法の研鑽に励む必要がある。




 剣を探すため、森の中へ移動を開始する。森の中には逃げ遅れたアイスオーガがまだいるかもしれない。油断することなく森の中へ分け入っていく。


 ジャイアントアイスオーガが持っていた剣は、ベネリカッターの着弾点周囲に飛んでいったのではないかと推測し、大きく地面が抉れた地点の周囲を集中的に探す。


 しかし、いくら探せど剣は見つからず、ラムサスの提案で、着弾点よりも更に遠く、断崖から南側を探索することにした。


 血の通わぬアンデッドの目を血眼にして探していると、ラムサスが得意げに笑い出す。


「ふっふーん。ノエルは私に大感謝しないとだねー」

「えっ!? 剣を見つけたんですか?」

「うん。ほら、あそこの樹の上に引っかかってるよ」


 ラムサスの指さす先を見ると、剣を握るアイスオーガの上半身が、一本の樹の上、かなり高いところに生えた枝にぶら下がっていた。生い茂る葉に紛れていることから、肉眼で探し当てるのは極めて難しかったことであろう。小妖精様様である。


「うーん。これは精霊様、小妖精様、サナ様。感謝感激です」


 ラムサスは、イデナの背中から落ちんばかりに胸を張っている。この喜び方が躁状態に起因するものだとしても、嬉しそうにするところを見るのは悪くない気分だ。これだけ喜んでくれると、感謝と賛辞をする甲斐があるというものだ。


 実際、霊石の(もや)を頼りに探した日には、見つけることができずに『きっと魔法で破壊してしまったんだ』と自分の心を説き伏せて、諦めてしまっていたに違いない。


 これはラムサスの能力を賛辞しているだけではない。情報魔法使いの有用さを見抜いた私自身の眼力を自賛するものでもある。


 そうだ、私は素晴らしい。魔法の威力の低さがなんだというのだ。魔法は使い方だ! 威力だって、もっと強くしてみせるぞ!


 ふんぞり返るラムサス越しに自分の心を慰め、我々は次の行動を開始した。

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― 新着の感想 ―
[一言] ノエルの以前の手がニグンのものである事は分かったけど、アールの状態だと魔法が使えなくてエルの時には使えるのは何故だろう。回線の問題ではないと思うから、ドミネートしながら他の魔法を使用する器用…
[一言] ニグンに腕が無くてノエルに腕があったカラクリはそう言うことだったのね。だからニグンの腕は以前からあった、て言っていたのか。それなら今ノエルに腕がついてるのは研究成果による物なのかな
[一言] たぶんラムサスは逆のこと考えていたと思うよ!
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