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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
志七郎、南へ の巻

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千二百五十八 荒巻鮭と詐欺師の事情を考える事

 何時も通りに麦を混ぜて炊いた飯と共に主菜として供されて居るのは荒巻鮭の切り身を焼いた物……新巻鮭の誤字では無い『荒巻鮭』と言う名の鮭の妖怪が居るのだ。


 無論、普通の鮭の内臓を抜き塩漬けにしてから寒風で干した新巻鮭が、この世界にも無い訳では無い。


 鮭が遡上して来る川が領地に有る藩ならば割と何処でも作っているし、丁度旬の時期と歳暮を送り合う時期が重なる為に、贈答品としては割と一般的と言って間違いないだろう。


 味と言う点で言っても荒巻鮭は決して強い妖怪と言う訳でも無く、極々普通の鮭と対して変わらない程度の物でしか無い。


 寧ろ旬の時期に取れた鮭を丁寧に加工した新巻鮭と比べたら、一段落ちると世間では見做されて居たりもする。


 では何故そんな世間的には二級品扱いの荒巻鮭が猪山藩猪川家(ウチ)と言う小藩とは言え大名家の屋敷で食事の膳に並んで居るかと言えば……ぶっちゃけ言って安いからだ。


 荒巻鮭は妖怪だと言う事も有って旬の時期なんて物は無く、出現する戦場へ行けば通年で捕る事が出来るし、旬の時期に取れた本物(・・)に比べたら一段味は落ちる。


 けれども鮭の需要自体は通年で有る為に新巻鮭は、鮭の旬である秋から冬に掛けては値段ガクンっと面白い位に下落する訳だ。


 更に付け加えて言うならば新巻鮭は刺し身で食う事が出来ると言う点も重要事項と言えるだろう。


 ……前世(まえ)の世界で俺が子供(ガキ)の頃には、(サーモン)の刺し身は寿司なんてのは存在すらしていなかった。


 色々と例外も有るしこう一括りにしてしまうのは割と乱暴な話では有るが、基本的に川魚は寄生虫が居るので生で食べれば先ず間違い無く()たるのだ。


 鮭は海を回遊する魚では有るがわざわざ川を遡上して産卵を行う為、分類上は川魚なのである。


 では何故俺が社会人になる少し前辺りから、回転寿司なんかでソレが食べられる様に成ったかと言えば、鮭の刺し身を食いたい! と言う何処から来たのか解らん需要に答える為に虹鱒を品種改良していった結果として生で食べられるソレが出来上がった訳だ。


 故に世間一般的に鮭の刺し身や寿司だと思われがちなソレは先ず間違い無く鱒である。


 ただまぁ鱒も鮭と生物としての区分では鮭科の仲間なので、回転寿司で出されて居る『鮭』が偽物だと断言するのは間違いだ、何せ海に出た虹鱒は『鮭鱒サーモントラウト』と言う名でも呼ばれるからだ。


 と話は逸れたが、此方の世界でも基本的に川魚を刺し身で食えば中たると言うのは常識として知られており、通常の鮭を刺し身で食えば胃袋に穴が空いてしまい、お高い霊薬を用いてもソレが入る胃袋に穴が有る為効果が薄くなるが故に高確率で死に至るとされて居る。


 けれども妖怪で有る荒巻鮭にはそうした症状の原因となる寄生虫が居ないか、居てもソレに中たる可能性は通常の鮭と比べれば極めて低い事から、寿司や刺し身に出来る新鮮な荒巻鮭は通年通して相応の価値が認められている訳だ。


 ……まぁソレでも旬の鮭や鮭児(けいじ)時鮭(ときしらず)と言った『幻の鮭』なんて呼ばれる品に比べると大分お手頃価格になるんだけれどもな。


 ちなみに鮭児は真冬の北の海で獲られる繁殖期に入ってい居ない若い鮭で、時鮭は夏から秋に掛けて遠洋で獲られるやはり繁殖期前の若い鮭の事なのだが、冷凍技術なんて物の無い此方の世界では何方も江戸で食べるのは可也難しい。


 前者は穫れる季節柄極々稀に凍った状態のままで江戸城の上様に献上される事も有るとは聞くが、ソレが市井に出回るのは本当に珍しい事で、本物が江戸に運ばれたならソレを食べる為に千両箱を積み上げても惜しくは無いと言う者はそれ相応に居ると言う。


 そんな希少品で実際に食べた事が有る者も限られる様な幻の品なんて物が有れば、前世の世界ならば産地偽装やらの『ラベル詐欺』が行われるだろう事は容易に想像が付くが、十両を越える盗みが即死罪なのと同様に十両を越える詐欺もやっぱり死罪である。


 値千金とまで言われる様な幻の品が十両未満で売られて居れば、余程の馬鹿じゃなければ偽物だと見抜けるし、十両以上の値を付けてソレが詐欺だとバレたなら即座に死刑が確定する……そんな危険性(リスク)を犯してまでやらかすのは本物の馬鹿だけだ。


 そして前世(まえ)の世界でもコッチの世界でも一代で成り上がった所謂『成金』と呼ばれる連中は兎も角として、先祖代々相応の財産を受け継いで来た金持ちって奴には基本的に馬鹿は殆ど居ないのでその手の詐欺に引っ掛かる様な事はまず無かったりする。


 成金の類は築いた財産をひけらかしたい性質(タイプ)の人間と、既に世間様から見れば一生遊んで暮らせるだけの額を手にしているのに更に欲深く蓄財を続ける性質の人間に分かれる……と前世の経験上俺は思っているのだが、詐欺に引っ掛かるのは大体は前者だ。


 無論、後者の中にも『美味しい儲け話』なんて見え透いた詐欺に引っ掛かる阿呆が全く居ない訳では無いが、普通に考えれば本当に美味しい儲け話ならば他所に流す事無く身内で回して自分達が儲けりゃ良いだけの話である。


 ソコに一代で財産を築き上げソレでも未だ足りないと言う強欲さを持った人間が、歳を食って若い頃の様な儲け話に対する優れた嗅覚が鈍って居たりすると、『貴方の様な方だから特別に』なんて言葉で引っかかってしまう訳だ。


 とは言え成金の中でも初代はそれ相応の苦労を重ねて財産を築き上げているか、圧倒的な運に恵まれて財産を作り上げて居るだけ有って、そうした詐欺に引っ掛かる案件は割と少ない。


 二代目も初代の苦労を見て育っている事も有って、自身が受け継いだ財産が親の苦労の結果だと理解している者が多いので、やはり安易の儲け話に引っ掛かる事は然う然う無いだろう。


 怖いのは生まれながらに富裕層の生まれた三代目で、余程上手く教育しなければ苦労する事無く手に入れた財産や家業を、ボンボン故の阿呆な頭で一代で食い潰し目減りして来たのに焦って一発逆転を目論み安易な儲け話に手を出して火傷する訳だ。


 ソレに対して先祖代々家財を受け継いできた所謂『名家』と言う奴は、上記の様な『三代で身代を潰す』を乗り越えて来ただけ有って、家と財産を存続させる為の教育ノウハウを積み上げて居る事が多くそう簡単に詐欺に引っ掛かる様な事は無い。


 引っ掛かるにしても身代を潰す程の大博打を打つ訳では無く、無くなっても痛くない程度の泡銭で一寸遊ぶ程度の気持ちで金を出し、詐欺だと解ったならば先祖代々で築き上げた資産や伝手を総動員して全力で潰しに掛かるのである。


 その辺の事をしっかりと理解しているプロの詐欺師とでも言う様な輩は、そうした本物の資産家は得物とするには割に合わないと理解しているので、実際の詐欺被害者と言うのは大体の場合中産階級と呼ばれる様な者達が老いた後と言う事になる訳だ。


 解り易いのが俺が前世にくたばる前辺りに散々っぱら報道されていた特殊詐欺……その中でも『オレオレ詐欺』と呼ばれる奴である。


 高度経済成長期からバブルに掛けての『働いたら働いただけ稼げた』時代に財産を作り、バブルの浮かれた世情の中でも財産を浪費しなかった者達は、自分達が特別な存在だと思って居らず脇が甘い者が多いのだ。


 その上で老化に依る判断力の低下が重なれば、半グレやら海外マフィアやらの『金の為なら何でもする』連中に良い様にカモられる……と言う事になる。


 俺が前世に生きて居た頃は未だ(・・)暴力団(ヤクザ)は、表向きその手の『堅気を泣かす犯罪』をシノギにする事は御法度としている組織が多かったが、暴対法の強化で合法のシノギが削られた後はどうなったのだろうか?


 俺個人の見解でしか無いが賭博場やらノミ屋なんかの博打や闇金の様なシノギは違法では有るが、堅気を泣かす犯罪だとは思っていなかった。


 博打にしたって闇金にしたって危険性(リスク)を承知で手を出した以上は、ソレに泣かされた者も純粋な堅気の被害者では無く、ただ馬鹿だと思っていたからだ。


 ホストに入れ上げて消費者金融で限界まで借金しても未だ飽き足らず、闇金にまで手を出した女性……なんてのも話には聞くが、ソレだって全うな自制心が有ればソコまで落ちる事は無い訳だしな。


 所で俺は鮭の切り身一つでなんでこんな事を考えてるだ? そんな疑問が脳裏を過ぎり俺は余計な事を考えるのを止めて朝飯をしっかりと食う事に専念するのだった。

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