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大江戸? 転生録 ~ファンタジー世界に生まれ変わったと思ったら、大名の子供!? え? 話が違わない? と思ったらやっぱりファンタジーだったで御座候~  作者: 鳳飛鳥
博打と迷宮探検競技 前編 の巻

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千六十一 志七郎、気を抜き不覚を取り作戦思い付く事

 見つけていない隠し通路の奥に銀の武器が有る……そんな可能性を考え、俺とストリケッティ氏は二階の東側、踏み込む事が出来ていない半分の区域(エリア)と此方側を隔てる壁を丹念に調べて回る事にした。


 それこそ壁を一歩一歩丁寧に叩いて見たり、足元の床石に色違いの物が有ったり、少しでもズレている物が無いかを探すような入念な探索だ。


 有ると解っている物を探すのと、有るかもしれないで探すのとでは、難易度は天地程の差が有る物だが、無いかもしれない物を探すのは難易度云々を置いておいて徒労で有り時間の無駄でしか無い。


 けれども無いと断言出来ない以上は探すしか無いと言うのも事実で有り、俺達は少しずつ疲労が蓄積し注意力が散漫に成っている事にも気が付いて居なかった。


 それ故に仮称:鳥女と仮称:虎女が同時に近付いて来ている事に、二体の魔物と接敵するまで気が付く事が出来なかったのだ。


「不味い! ストリケッティ氏、俺は速攻で鳥を片付けます! 虎の方は牽制するなり倒すなり相手をお願いします!」


 今まで複数の魔物と同時に接敵する事が無かったのは、ストリケッティ氏が斥候(スカウト)として優れた索敵能力を見せていた事と、俺自身も氣に依る五感の強化で並の盗賊(シーフ)以上の索敵能力を持っていたからだ。


 けれども今回は二人共が探索の方に意識を傾け過ぎて居たが故に、不意打ちを受ける程では無いが、それでも十分に近付かれ過ぎている位置に来るまで気が付く事が出来て居なかった。


 この状況で一番怖いのは、鳥女の『眠りの歌(スリープ)』を食らって俺とストリケッティ氏が棒立ちに成ってしまった所に、虎女の攻撃が来る可能性が高いと言う事だ。


 だから先ず第一に俺は速攻で鳥女を仕留める事を選択したのだが……


「はらほれひれはれ~♪」


 と、何とも気の抜ける声が辺りに響き渡ると同時に俺の意識はプツリと途切れ目の前が暗く成った。


 ……直後の襲い来る顔を猫に爪で引っ掻かれたような痛みと共に目が覚め、俺は即座に手にした刀を下から上へと振り上げる事で鳥女を斬り捨て、慌ててストリケッティ氏を振り返る。


 しかし其処には予想して居た様な虎女の爪で八つ裂きにされたストリケッティ氏の姿は無く、目に入ったのは二人仲良く目を閉じて気持ちよさそうに船を漕ぐ姿だった。


 鳥女の眠りの歌は俺達人間だけに効果が有る物では無く、同じ塔の魔物に対しても別け隔て無く効果を発揮するのか……。


 その状況を見てそう察すると、俺は先ずストリケッティ氏を起こす為に腰の辺り……身長差故に肩に手が届かなかったのだ……に手を伸ばして揺り起こす。


「うきゃぁあ!?」


 するとストリケッティ氏は裏返った声で悲鳴らしき物を上げて慌てて俺から一歩距離を取った。


「あ!? 済みません、あのハーピィもどきの歌にやられて居たんですね……でも、え? もしかして虎人もどきの方にも奴の歌が効いている?」


 ストリケッティ氏の反応も少し気になる所では有るが、まぁ意識が無い状態でいきなり腰を触られたら、相手が同性だとしても変な声が出るのは理解出来るし、取り敢えず今は置いておく。


「どうやら奴の歌声は敵味方問わず効果が有る様ですね。一対一なら即座に攻撃が来るので直ぐに目が覚めますが、攻撃されたり仲間に起こして貰えなければどれ位の間眠っている物なんでしょうかね?」


 鳥女の眠りの歌は便宜上『眠り』と読んでは居るが、実際には『睡眠』状態に成る訳では無く精々『居眠り』と言うのが近い表現と言える効果である。


 この辺は砂属性の精霊魔法に有る『眠りの砂(サンドマンズサンド)』と言う魔法も同じで、魔法に抵抗する事が出来なかった場合には凡そ三分(18ターン)程の居眠り状態に成りその後本格的な睡眠へと移行すると言う効果なのだが、立っている状態の相手に掛けると睡眠に成る際に倒れて目が覚める事が多い。


 居眠り状態と睡眠状態の違いは、居眠りは立ったままで船を漕ぐ様にして意識だけが落ちている状態なのに対して、睡眠にまで行くと姿勢を維持する事も困難で手にした武器も当然握り続ける事は出来ずに落とし倒れ込む事に成る……と言う感じだろうか?


 ただ何方も被害(ダメージ)を受ける程で無くても『衝撃』を受けると意識が覚醒する事に成る為、戦闘中に敵に眠りの砂を使うのは一手でも良いから優位に攻撃をしたい時や、逆に多少時間を掛けてでも此方を立て直したい時と言う事に成る。


 三分と言うと即席(インスタント)拉麺にお湯を入れて待つ時間と変わらず、然程長い時間では無い様にも思えるだろうが、前世(まえ)の世界で行われていた日本武道試合は剣道が五分、柔道が四分、空手が三分だった事を考えれば、事闘いの場に置いては十分な時間と言えるだろう。


 ちなみに眠りの砂は睡眠に移行する際に倒れ込む時の衝撃で目が覚める事が多いと上記したが、相手が椅子に座っていたりする状況で見つからない様に仕掛けたならば、そのままぐっすり眠らせる事も不可能では無い。


 そんな訳で眠りの砂は戦闘中の補助として発動する事で搦め手にも使えるが、何方かと言えば盗賊の様な者が見張り番なんかを眠らせて見つからずに行動すると言った隠密行動の補助として使う方がより有益だったりするのだ。


 なんせ戦いの場で眠るなんて事はそうそう有り得ない事だが、単調な見張り番の最中についつい居眠り……等と言う事は割とよく有る話で、仕掛けた相手が目を覚ましたとしても痕跡さえ残さなければ後から怪しまれる事も先ず無いのである。


 そうして虎女を起こさない様に暫く待っていると、船を漕いで居る状態から身体の力が抜けたらしくその場で崩れ落ちると同時に、全身が毛皮に覆われた人虎(ワータイガー)もどきの姿から中華女礼服(チャイナドレス)を纏った少女へと姿を変えた。


 けれどもソレも一瞬の事で、倒れた衝撃で目を覚ましたらしく直ぐに獣の容貌を取り戻すと立ち上がろうとする。


 だがそんな行動を黙って見ている程、俺もストリケッティ氏も甘くは無い。


 立ち上がるよりも速く投擲された短剣(ダガー)は虎女の喉に突き刺さり、俺が手を下すまでも無く塵へと還ったのだ。


「どうやら此奴もライカンスロープを模して作られた魔物の様ですね。けれども人熊(ワーベア)の様な不死性は持ち合わせては居ない……と」


 ライカンスロープ症で半獣人の姿に変化した者は熊に限らず、神造武器か銀または真の銀(ミスリル)で無ければ傷付ける事は叶わない。


 にも拘らず俺達が虎女を倒せると言う事は、恐らくライカンスロープ症の持つ『物理無効』の特殊能力を付与する事が出来たのが、あの仮称:熊女だけと言う事なのだろう。


 ……待てよ? 虎女には鳥女の眠りの歌は普通に効果が有ったんだ、もしかしたら熊女にも通用するかもしれない。


 上手く行けば彼奴を倒すのでは無く、居眠り状態の熊女の横を起こさない様にすり抜けて、三階へと上がる階段まで辿り着けるのでは無かろうか?


「……そうか! その手が有るか!」


 どうやらストリケッティ氏も俺と同じ結論に思い至ったらしく、少しの間を置いてそんな言葉を口走る。


 敵に見つからない様に潜入したり不意を突いたりするのは、盗賊系統の派生職業(クラス)である斥候にとっては専売特許の様な物で気付かない方がどうかしていると言えるだろう。


「幸い鳥女……ハーピィもどきは眠らせた相手の中で最も近い物に蹴り掛かる習性が有る様だし、上手く釣り出して行って歌わせれば守護者(ガーディアン)を巻き込んで眠らせる事が出来るでしょう。俺なら奴の攻撃程度は何発でも耐えれますしね」


 氣の運用はある程度の段階まで練度が上がり、無意識下でも氣の呼吸が出来る様に成ると、就寝中でも氣を纏ったままで居る事が出来る様に成る。


 流石に意識しなければ皮膚を硬化して銃弾を弾くなんて真似までは出来ないが、それでも只人よりも圧倒的に死太い状態を維持する事は可能なのだ。


 故に鳥女の歌声を聴き居眠り状態で攻撃を受けた所で、猫に引っ掻かれた程度の被害(ダメージ)で済んでいるのである。


 と、そんな作戦を考えた俺達は、熊女が居た場所の近くで鳥女を探す事にしたのだった。

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