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転生少女は傍観できない  作者: 月月月
一章「巻き込まれた少女」
18/21

少女、吐き出す

0.




 目の前の人が美少年であったことを再認識しておりますうわぁほんと私の幼馴染かっこいい。

 いつもならこれを喜んで鑑賞してただろう。ゲームシナリオを一年間完璧に追っかけたことでもう周知の事実だろうが私は面食いなのだ。ただ、美形は観賞用と割りきっている人種である。一くんの色素の薄い瞳や髪が、憤怒に燃えていなければ本当に、本当に鑑賞していたんだけどな。


「ねぇ、遊?」


 笑顔で迫られるって、すっごく怖い。美形効果も合わさって、そこに感じられる”怒り”の感情に私は震える。蛇と蛙の様相が一くんの部屋っていう癒し空間で作られているというのは私的にとても、とても辛い。次に来た時も気まずいよな、と既に次のことを考えてみる。得意技現実逃避。今の現状、目を背けたらもっと酷いことになるから、やめたほうがいいのは分かってるんだけど、つい、ついね!

 あ、一くんが思いっきりため息ついた。


「洗いざらい吐けっていってんのが分かんない?」


 瞳に仄暗い陰りが見えて、ひぃぃ、大魔王一くんと呼ばせてもらおうじゃないか。初めて気づいたんだけど、一くんって怒りに比例して笑みがどんどん深くなって行く。へぇ、と感心していると更に笑みが深くなった。

 あ、ふざけてる場合じゃないな、これ。


「し、信じる?」

「僕が決める」

「吐きます」


 一くんの笑顔に逆らうなんて、普通に無理。


1.




 得体の知れない液体がボコ、ボコ、と丸い筒状の中いっぱいに入っている。そのなかには、老若男女様々な人間が入っており、少女はそこの一人だった。科学研究所、表ではそう呼ばれるそこは、実はマッドサイエンティストの集まり。彼らは、人口の生命体を作る技術を開発している。

 そして今、彼らの傑作が生まれようとしていた。


「ついに、私たちの悲願が叶うのですね……!」

「そうだ、やっと……」


 つまり、人口の知能を持ち、肉体を持つ生命体、


「おぎゃー」


 私である。

 そう、私は完璧な肉体と知能を持った、ハイパー高スペック生命体だったのだ。そして、博士達は伝のある小宮家へと自分たちの最高傑作を託した____


2.




 一くんの肩が、フルフルと震えている。おぉ、そんなに私の誕生秘話に感動するところがあったのだろうか。いやぁ、嬉しいな。


「って誰がそんな冗談信じるか!」

「えー。だってこのくらい信じてもらわないと、私もっとひどいコトをこれから言うので」

「もうこの世界がゲームで、自分が登場人物って時点で僕は常識かなぐり捨てたよ!」

「でも信じなかったじゃん。博士達の最高傑作、知能と完璧な肉体を持つ生命体、私」

「明らかに漂う雰囲気がコメディだっただろ!」


 一くんがはぁ、と肩で息をする。ツッコミお疲れ様です。とりあえずさっきまで漂っていた毒気を抜くコトが出来たようで何よりだ。魔王様一くんじゃなくて、ちゃんと普段の苦労性一くんに戻っている。さっきの雰囲気じゃ私の事情がとっても重いもののように聞こえてしまうだろうから、ホッとした。

 と、頭ではそんな事を考えていたのだが、ずっと黙っていたのをなにか誤解したのか、一くんが辛そうな表情を作った。眉根を寄せて、眉尻が下がって、唇をきゅっとむすんで、こちらを捨てられた子犬のような目で見つめる。だから貴方はなんで、進んで、シリアスモードを作り上げるかなぁ!


「あのさぁ、確かに僕は幼馴染といえど彼氏でも家族でもないから、言うのに抵抗があるのかもしれないよ?」


 そんなコトない、とは言えない。さっきの雰囲気が嫌だった、とぶっちゃけたい。空気を読みたい日本人としてはここはさらっと速やかにぶっちゃけて終わらせたい。


「でも、幼馴染として僕は遊の事を支えたいって思ってるんだ」

「つまり、私の下僕になってくれるってこと?」

「いいよ、別に」

「いいんだ」


 一くんすげぇ献身的。

 ふっ、と儚げな微笑みがマリア様の様です。アルカイックスマイルって、こういうのを言うんだと思う。


「僕、僕遊がこの世界を作った神だって言われても信じるから、だからこの世界の人をいたずらに傷つけるのはやめるんだ!」

「ちょっと待て」

「えっ?」

「えっ」


 一くん私へのイメージが酷すぎないか。主にいらない八つ当たりとか好奇の目とかいたずらに傷つけられてるのは私ですが。

 何か、いまお互いの間に重要な齟齬が働いた様な気がする。


「あのさ、私転生したんだよね。異世界に」

「えっ?」

「この世界を作ったわけでも神様でもなくて」

「そうなの?」

「むしろ私をなんだと思ってたのさ。完璧超人?」

「それ、自分で言ってて悲しくない?」

「うるせえ」


 一くんは不服そうな顔をしながら、渋々予想を引き下げた。あんた、結構ノリノリだな。


3.




「はい、この世界とよく似たちょっと違う世界で生活をしていた前世の名前はみのりちゃん、現役高校二年生で、受験勉強頑張ってました。確か高2の残暑厳しい秋、学校からの帰り道に、ふらっとよろめいた人にぶつかられて私も倒れ、打ち所悪く死亡しちゃった可哀想な子です。親や友人などの記憶はあまり引き継げてなくて、ただゲームやあっちで流行りだった本、他にも受験勉強してた時の記憶をしっかり引き継いでやってきました。知識は生まれた頃よりいまの方が記憶としては鮮明です。全く別人の記憶、または妄想って言うのを考えたは考えたんだけど、前世の記憶説が有力かなーって思ってます。ここまでで何か質問は?」

「ちょっと情報量がキツイです」

「じゃあ進めます。この世界に生まれて、最初は同じ世界に転生したと思ってました。歴史も漏れ聞くニュースも全て一緒だったし、著名人も一緒、一君貴方が私の家に引っ越してきた時点でもそれは変わりません。幼馴染よろしく育って行くうちに疑惑はあったけど、二次元が三次元に起こるとなかなか気付かないものなんで、気にしない様にしていました」

「はい」

「そしたらですね、一くんの身にあの事件が起こりました。そう、一くんショタコンに刺され事件です。私が気づいて引っ張ったので、一くんは無傷でしたね。すぐに取り押さえられました、あの頃には結構疑惑も強くなっていて、下らないけどもしゲームと同じ世界なら一くんの身に起こる悲劇を回避しなければと私は用心深く周囲をみていたんです」

「なるほど」

「そこで、ゲームと同じ様な世界観を持った世界なのだなーっと私は認識したわけです。因みに一くんの性格はゲームとはちょっと違うものになりました。(イレギュラー)がいたことによって、高校生になっても幼少期のトラウマによる女性不信じゃないし、人間不信でもないし。ゲーム内では限られた人物に心を許す腹黒優男設定だったけど、今は誰にでも身を切り取って分け与え厄介ごとを引き受ける苦労性一くんの出来上がりです」

「誰が苦労性だ」

「因みにいまのえーっと真奈美ちゃんと付き合ってない方の副会長と大体キャラ被りまくってたので私は良かったかなーって思います」

「はい」

「まぁそんなこんなで本当はゲームに巻き込まれたりするの嫌だなーって学園入学を躊躇ってたんだけど一くんめっちゃ押してくるし、私みたいなものが居た様に、世界にイレギュラーが起こってるとしたらそんな難しものでもないのかなーと安易に入学しました。結果、なぜかゲームシナリオの終わった今、私は生徒会に絡まれることになりました」

「うん」

「実は中学の会長さんがゲーム唯一のヤンデレキャラで、真奈美ちゃん死亡エンドが2つあるので見てるとハラハラでした。副会長は良くやったと思うよ」

「マジで!」


 一気に喋りすぎて喉が渇く。アイスティーを一口含んで、何気なしに辺りを見回すと時計は八時を指していた。わぁ、一くんの家に来てから二時間も経ってるー。


「一母今日帰ってこないの?」

「一週間出張。父さんも合わせて」

「なら泊まってっていい?」


 一くんが盛大にむせた。

 外は真っ暗だし、でもまだなんの対策も立てれていないのだ。まさか吐き出すことになるとは予想外だったしこれはもう責任とって今日は夜更けまで付き合ってもらおう。

 ごほごほ言いながら、一くんが半目で私を睨む。なんだよ。


「……とりあえず送るから、お泊まりセット取って来たら」

「はーい」


 返事をすると、諦めた様に一くんが笑った。

 第一ラウンド終了のゴングがなった。

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