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転生少女は傍観できない  作者: 月月月
一章「巻き込まれた少女」
14/21

少女、友達が増える

0.


 うん、待ち合わせ場所で顔をちらりと見かけたときから、こういうことになる可能性は考えてた。だけど、平穏な毎日のせいで、少し気が緩んでいたのだ。そういう時に限って、ハプニングは起こるって忘れてたんだよね。


 石井いしいすぐる、生徒会所属副議長、スポーツテスト学力試験どちらも学年二位、所属している剣道部では一年生から大抜擢副主将を務め、現在も続行中。家は金融関係の経営、そこの次男坊。要するにボンボン。サポートキャラとしてシナリオを盛り上げ、ヒロインの幼馴染ということで攻略対象者を嫉妬させるなんていう芸当もやり遂げる男である。常に二番が公式設定であり、人呼んで「二番手の男」私と香夏副会長が学力テストで常に一位を争う中こいつはちゃっかり二位に居座り続けた。ブレない奴だ。ちなみに美形。ここだけは、ほかの攻略対象者と比べたって引けをとらない。

 そんな男が、私の、目の前に。目の前に。目の前に……(エコー)


「いやあ、小宮さん、随分学園とは雰囲気がちがうね」

「そうかもね、この子、結構内弁慶なのよ」

「紫ちゃんは小宮さんと仲いいんだ」

「中学からの付き合いだから」


 目の前で私抜きに会話が進んでいく。さりげなく内弁慶設定いれてくれた紫に拍手喝采を送りつつ、そっと後ろに隠れた。今の状況ならこれも不自然じゃない、たぶん。そーっと背中から様子をうかがいながら、とりあえず様子を見ることにする。さっきも言った通り、石井君はサポートキャラである。ゲームではシナリオのキーポイントになるし、生徒会と真奈美ヒロインちゃんを出会わせたのも彼だし、攻略対象者ではないけれど恋愛劇の主軸にいた人物なのだ。加えて、彼は彼女が途切れることのないと噂の、けっこうな色男であることを確認している。結論、関わったってろくなことがない。

 私が嫌だというのを紫も感じ取っているらしく、普段の紫にしては言葉少なめに会話は進んでいく。


「へぇ。その様子だと二人は今からお昼?」

「うん。石井はなんでこんなとこいんの」

「待ち合わせ。でもおなかすいてきたなー」


 石井君、テーブルのジュースを口に持っていきごくり。そのあと腕の高価そうな時計に目をやり、こちらに目を合わせて、にぃ、と口角を上げた。うう、そこの見えない微笑み方がなんだか怖い。そろそろやめたげて、私のライフポイントはもう0よ……。


「時間まだあるんだよね……そうだ、昼食、一緒でもいいかな?」


 私、死亡。


1.




 いいように丸め込まれて結局ごはんを一緒に食べることになってしまった。断るっていうのも変だし、勘ぐられるわけにはいかないのでしょうがないとはいえ、早く時間よすぎてくれ、そして早く待ち合わせの時間になってくれと願わずにはいれない。手元のバーガーにかじりつくと、まだ残っているそれに思わず遠くを見つめてしまう。もう、食べるの疲れた。

 前に座ってる石井君が食べる手をとめて爽やかに笑う。こわい。


「小宮さん、僕のポテトも食べていいよ」


 誰が食うか!誰が!!!


「紫、石井君がポテト食べていいってよ」

「じゃあ遠慮なく」


 こちらをじっと見ている視線なんて私は気づいてない気づいてない。気づいてないったら気づいてない。でもなんでだろう、夏はまだ遠いのにスポットライトに当たった時のような暑さを感じるのは。

残るバーガーを口に詰める。そろーっと前を見ると、こちらを見つめる目と目があった。やばっ、と目をそらすが、すでに遅い。石井君、めっちゃ笑ってた、にこにこしてた、怖い、なにそれ怖い。


「今のほうが、僕は好きだな」

「いきなり何、唐突に」

「いや、小宮さんの話。僕、ちょっと小宮さんのこと誤解してたからさ」

「遊であんまり遊ばないで上げて。この子、かなり初心なの」

「遊ぶなんて、僕は思ったことを言ってるだけだよ」

「石井さぁ、そういうのやめたほうがいいよ。遊にはそういうの逆効果だって」


 そして私抜きで進んでいく会話……さびしいとかはないけど、話題が自分ってむず痒い。実をいうと、もうポテトを残して二人は食べ終わっている。つまり、私が食べ終われば必然的に解散なわけだ。もうこうなったら全身全霊で食べるしかない。そのため、会話に参加する余裕は、ない。今の私内弁慶設定だし。


「今まで、とっつきにくい感じがあったけどさ、なんか今は小動物みたいだよね。よく考えたら学園でも精一杯虚勢を張ってたのかなって」

「否定はしない」

「でも紫ちゃんの前だと大分砕けた態度だったみたいだけど」

「友人歴5年目舐めんな」


 二人はなんだか盛り上がっている、盛り上がっているがもう私は耳に入れないことに決めた。気にしてたら口が動くのをやめてぼーっとしてしまう。黙々と食べ続けていると、ようやく一口大の大きさになった。そのバーガーを口に放り込み、


「よしっ食べ終わった!」


 完食だ!!!


「お疲れ様、小宮さん」

「声出てるよ遊」

「えっ……あ、はははー」


 達成感から思わず出てしまった声。最後の最後で気を抜いてしまったなんて、なんたる不覚。バカ、私の大馬鹿。苦笑しているこいつに関わったら碌なことにならないってわかってんだろあんまりお馬鹿な粗相おかしたら絶対変に絡まれるって。紙コップをつかんで、紫の液体を飲み干す。しゅわっとした感覚にびっくりして思わずむせた。


「グッ、」

「うわぁ、大丈夫?」

「遊、恥ずかしいのはわかるけど怯えすぎ」

「お、びえてなんかっない、しっ」

「……らしいよ」

「それは良かった。僕、小宮さんとお友達になりたいな」

「っは?!」


 衝撃発言んんん!高校生にもなって!お友達になりたいな、とか!!これだからお坊ちゃんは!!!もうやだ、万に一つとしてお友達になったとしても、絶対付き合いきれない。確信する。


「ね、ダメかな」


 でもそんな顔で見られたら、そんな顔で首を傾げられてお願いなんかされたら私は、私は……


「あのさ、友達ってわざわざ宣言してなるようなものではないと思う。一応、石井君のことはクラスメイトだと思ってたし」


 お友達?そんな素直に了承するわけないでしょう、一年間もの間傍観者(あるいは野次馬)として恋愛劇を見守ってきて、エンディングまで執念深く見届けた私が。それに、いちいちその美形なお顔でお願いを聞いていたら一くんの幼馴染は務まりません。言っとくけどな、幼いころから頻繁にお邪魔してる一くん家はご両親、東北に住んでるおじいちゃんおばあちゃんまで美形なハイパー美形一家なんだから。

 ふん、と鼻息荒く返事を返すと、ぱぁっと石井君の顔が輝いた。え、なんでその反応。


「そっか、僕らクラスメイトだもんね。うん、改めてよろしく、遊ちゃん」


 苗字呼びから名前呼びに?!え、何が起こった?!


「遊、あんたほんといいキャラしてる」

「そろそろ時間だ。僕は行くけど、また明日学園で」

「はいよー」


 ええええええ。

 颯爽と去っていく背中を見て、呆然とつぶやく。


「え、何が起こった……」

「自覚ないの?思いっきり石井のこと友達認定してたじゃない」

「したつもりないんだけど」

「やっぱり?遊、高校入ってから内弁慶になったから私の矯正がようやく結果に出てきたと思ったんだけど」

「そ、そっか。それはごめん」


 それから先のことはなんだかよく覚えていない。いつの間にか家についていて、手には自分好みの靴と髪留めが入った袋をぶら下げていた。そこで私はようやく、嵐のような休日が去って行ったのだと分かった。


「ていうか、紫サポートでもなんでもなく私のことを内弁慶だと思ってたのか……」


 思い出せば人前にわざと私を出させたり、中学のきわどいことを普通にしゃべってたけど、いきなり内弁慶になった私へのリハビリだったわけだ。ははーん。ふむふむ。へぇ、この一年間と少し、誤解されていた、と。案外、今日のダメージは思った以上に深くなりそうです。

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