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リージア顛末記  作者: 多手ててと


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10/14

10.三女ストラーバ(下)

本日で連載開始1か月を迎えました。皆さまありがとうございます。

御礼というほどのものではありませんが、本日は連載中の作品の一斉更新をします。


私は自ら足を踏み入れることにした。


「そこの商人、北雪商会と言いましたね?」


もちろん最初の挨拶は聞いていたが、敢えて問い返す。これで周りのものも私がこの商人と話をしたい、ということがわかるだろう。


「左様でございます。ストラーバ王女殿下。我が商会を覚えて頂くとは恐悦至極きょうえつしごくにございます」


商人は滑り降りるように椅子から降りてひざまずいた。


「もうそのような儀礼はいいわ。ちゃんと着席して、私の問いに答えてください」


商人は再び椅子に座ると私を見つめて答えた。


「はい殿下、わたくしめにわかることであればなんでも」


この男は他の男とは違う。身分が低いので、相手を立てたり卑屈な所作をすることはあるが、私の事をもしかしたら自分の客に成り得るかもしれない人としか見ていない。


それはそれで私のプライドを刺激するものがあった。私が単なる顧客とは違うところをこの男に見せないといけない。


私はまずは無難な話から話を始めた。


「王都とブラストアとはどのような品がやり取りされているのですか?」


「はい。ブラストアからは鉄やその製品が多数を占めます。戦役が終わったことで、武器を新たに作る必要性が少なくなったからです。その他にはこちらでは取れない貴金属や王都では珍しい布地などになります。そのうち北の海で取れる珍味や木材も送られてくるようになるでしょう」


商人は周りを軽く見渡してから話を続ける。


「逆に王都から北に運ばれるのは食糧が多かったです。ムーラ麦や、イグル麦ですね。ただブラストアの食糧事情の改善が進みましたので、早ければ来年から方向は逆になると思われます。今は書籍や多数の布地、細工もの、工芸品、神具などが占めるようになりました。それらは富裕層向けもありますが、多数は庶民向けのものです。今後もこの傾向が続くと考えております」


北雪商会を名乗る商人は今度は私だけを見た。


「他になにかあればどうぞお尋ねください」


私は少し考えてから以前から聞いてみたかったことを聞くことにした。


「あなたからみてブラストア侯爵はどのような方かしら?」


それについても即答が返って来た。


「大変ご運の良い方だと思います。おかげ様で私どものあきないも手を広げることができました」


彼が言い終わるよりも前にひとりの貴族が立ち上がった。


「自分の主人に対してなんたる不敬! わしの御用聞きがそのようなことを申せば、首を叩き切るところぞ!」


商人は静かにそれに応じた。


「私は商人であって、侯爵の部下ではありません」


堂々とそう言って、私たちを見渡す。


「それに私がこの場で何を言っても、ブラストア侯爵家が私を罰することはないでしょう。侯爵も先ほどのことを耳にされても、へぇ、としかおっしゃらないでしょう。そういう意味では私も運が良い」


そう言うと商人は静かに茶を飲んだ。


「ではその運のいいあなたにさらに聞きたいことがあるの」


商人はカップを置いて、なんでございましょうか、と私に訊ねた。


「今王都に出しているお店は全部あなたが考えているの?」


私の問いに商人は少し驚いたように答えた。


「例えば王女殿下は、殿下のお祖母ばあ様である、太后殿下にお手紙をご自分でお書きになるでしょう」


わたしはええ、と言ってうなずいた。


ここで言うお婆様とは母の母の事だ。お婆様は両親の結婚後もその故郷に残られている。王都にお住まいになればいいのにと思うのだけど、お婆様はとても故郷を大事にされている方だ。


「ですが、ご自分でその手紙を運ぼうとはされない。わたくしめもそれと同じでございます。自分の手の者に指示をして金を出しますが、後はその者に任せます」


今度は別の高位聖職者が商人に訊ねた。


「金を持ち逃げされたりはしないのか?」


商人は曖昧にうなずいた。


「もちろん信用のおけるものに任せます。ですが、これまで使用人に裏切られたことなどとは申し上げることができません」


人の資質やその本性を見極めることができればそれに越したことがない。私も人を使う身として覆うところはある。


「信用ができて、如才じょさいのある者などおるまいよ」


今度は別の貴族の発言だ。


「確かに稀有です。ですがその場合は金の管理は信用のおける者に任せ、その者の下で如才無き者を使うのです。上下は逆でも構いません。最近はそのようにすることで、持ち逃げを防ぐことができております」


商人はここで再び軽く茶を飲んだ。


「あとは逃げたものに相応の裁きをうけさせることです。私は当時のルーガ伯爵に持ち逃げされた金以上の礼を支払って兵を借り、山狩りまで行ってその者に報いを与えました」


私はブラストア侯爵ではなくて、この商人に強い興味を持った。この男ならば、私が行きたいところに連れ出してくれるだろう。まだ見ぬ世界を見せてくれるだろう。


「私、もっとあなたのお話を聞いてみたいと思います。よいかしら?」


これは商人への問いではなくて、他の男たちへの命令だということを皆が理解してくれた。


「もちろんでございます、ストラーバ王女殿下」


それから私はまだ見たことの無い大陸各地の話を聞いたり、新たに店を一軒立てるのに、どれほどの手間暇がかかるのか、などをつぶさに訊ねた。


商人は、ちゃんと私が聞きたかった話をしてくれる。そのうちブラストアや王都でのお金の流れについての話も教えてもらった。とても面白かった。だがひとつ、私の中に疑念が残る。


「あなたの話を聞いていてとても面白いと思ったわ。でも侯爵閣下が反対されることはないのかしら?」


商人は少し考えた。


「そうですね。先ほども申し上げましたが、私は侯爵の部下ではありません。持ちつ持たれつの関係です。ですが、確かに私が侯爵のいいように使われていることは否定できない事実ですね。金貨を払ったのだから言う事を聞けと。お貴族様というのは皆さまそのようにお考えです」


この商人は合間合間に茶を飲むのが癖のようだ。


「ですが、まあ金貨を頂けるのですからそれくらいは我慢しなければなりません。先ほど申し上げた話の中にあったように、私どもが侯爵にお金を支払って軍を借りることもあります。適切な対価が払われるのであれば、お互いに利用する、それでよいと思います。不敬ながら、王女殿下もそのようにお考えなのではないかと拝察はいさつしておりますが、いかがでしょうか?」


私が金貨で彼を動かしたいと思ったのだろう。私は即座に否定した。


「違うわよ。私はあなたと取引をしようとしているのではないわ。単純にあなたが見ている世界を一緒に見てみたいの。そこに介在するのは金貨ではなくてもっと心情的なものよ」


商人は本当にびっくりした顔をしていたので、私はくすっと笑った。この若くして百戦錬磨の商人を心底驚かせることができたとわかったからだ。

今日は連載1か月記念です。皆さまありがとうございます。

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、4月から2作を同時連載しています。今日は一ヶ月記念なので双方を更新しようと思います。数字は昨晩私が確認した時点でのポイントです。


毎日投稿:

みんなで私の背中を推して       274pt

https://book1.adouzi.eu.org/n7493hm/

100話目途でしたが、70話ぐらいになるかも。


土曜日投稿:

リージア顛末記             40pt

https://book1.adouzi.eu.org/n9782hn/

15話目途

こちらは今月中には計画どおり終了する予定です


あとこれは申し訳ないのですが、7月はいろんな予定が重なっていて、リアル繁忙期に入ります。申し訳ありませんが、両作とも想定話数と更新ペース的に、連載が続いているかは怪しいですが、もしそれまで続いていた場合、1カ月間連載を停止します。8月になれば再開させて頂きます。悪しからずご了承くださいませ。


これらの作品を読んで頂いた方、ありがとうございます。


また特にブックマークしていただいた方、ポイントを入れて頂いた方、いいねして頂いた方、誤字報告して頂いた方、ご感想を頂いた方、本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。


ー--------------

後、旧作を紹介しておきます。すべて完結済です。


桜の下の彼女   全12話   54pt

https://book1.adouzi.eu.org/n8398gu/

毎晩、幼馴染の女の子に酷いことをしてしまう夢を見る男の話。


ミスターフルベース 全16話  360pt

https://book1.adouzi.eu.org/n7878gi/

高校球児が甲子園で起こす奇跡のワンプレーのお話


音楽室と体育館  全169話  304pt

https://book1.adouzi.eu.org/n7547gz/

バレーボールをこよなく愛する音楽教師の主人公最強もの


宰相の失脚  全17話  108pt

https://book1.adouzi.eu.org/n9550gj/

ナーロッパの成り上がり系のお話


旧作は以上です。ありがとうございました。重ねてお礼申し上げます。

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