3話 命の壁を超えていく愚かな神の果て。
3話 命の壁を超えていく愚かな神の果て。
次の瞬間だった。
躊躇は、一切ない。
思考を挟む余地すらなく、バーチャはごく自然な動作でセイラへと手を伸ばす。
それは敵意や殺意ですらなく、単に必要なものを回収するための、あまりにも合理的な動き。
抵抗する暇も、叫ぶ時間もない。
セイラの身体は、輪郭から崩れ、光へと変換されていく。
それは溶解ではなく、分解。
光の粒子となったセイラは、そのままバーチャの内部へと吸い込まれていく。
境界が消える。
肉体と精神、個と他者の区別が曖昧になり、存在そのものが情報へと還元されていく。
分解。
最適化。
再構築。
バーチャは胸元に手を当てたまま、深く息を吐いた。
自分の内部に組み込まれたセイラ――
すなわち『田中裏吉というCPU』。
演算速度。
処理能力。
冗長性を排した、極限まで洗練された思考回路。
それらが自分の内部で稼働している事実を、バーチャは即座に理解した。
その顔に、初めて明確な表情が浮かぶ。
恍惚。
「素晴らしい……」
快楽にも酷似した、純粋な陶酔。
「これでも半分。完全版になれば……」
ゆっくりと視線を上げる。
その目が、動けずにいるセンキーを正確に捉えた。
「私の存在値は、間違いなく壁を超える」
センキーは、ただ立ち尽くしていた。
理屈では現状を理解している。
『やべぇ』と魂が叫んでいる。
だが、どうすればいいのか分からない。
身体が動かない。
思考も追いつかない。
そんな彼に向けて、バーチャは淡々と告げる。
「返してもらうぞ……私の裏介を」
そして、軽く指を鳴らした。
パチン、という乾いた音が、やけに大きく響く。
その瞬間、センキーの内部で『裏介』が引き剥がされた。
胸の奥を抉られるような感覚。
魂の一部を、直接掴まれて引き抜かれるかのような痛み。
存在の一部が、強制的に剥離していく。
『田中裏介』は光となってセンキーの身体から離脱し、迷いも減衰もなく、一直線にバーチャへと吸い寄せられていった。
バーチャの内部にいる『裏吉』と、即座に重なり合う。
二つのCPUが、一つへ。
統合。
最終化。
完全な演算体の誕生。
次の瞬間――
「はっはぁああああ!!」
バーチャの咆哮が、空間そのものを震わせた。
存在値が跳ね上がる。
段階的な上昇ではない。
爆裂的な増大。
圧が質量を持ったかのように周囲へと広がり、床が軋み、センキーの足がわずかに沈み込む。
それは、もはや同じ次元に立つ存在ではなかった。
「超えたぞ……ついに……存在値9999京の壁を……」




