1話 権限をよこせ。
今日は遅くなるかもしれないので、朝に2話投稿します。
本日の1話目です。
1話 裏。
センキーは、
歯を食いしばりながら、
「交渉って……何をするつもりだ……」
と尋ねるが、
「質問も妨害だとみなすぞ」
冷ややかな一言。
感情の起伏すら感じさせない声音が、空気を切り裂いた。
それ以上の言葉は許されないと、
理屈ではなく、本能で理解させる圧。
センキーの喉は、そこで完全に塞がれた。
歯を食いしばり、拳を震わせながらも、次の一音を出せない。
バーチャは、そこで一度、
周囲を満たしていた殺気を、すっと引っ込めた。
空気が軽くなる。
だが、それは安心ではなく、
刃を喉元から外されたあとの、より深い恐怖だった。
そのまま、バーチャはセイラへと向き直る。
視線が合った瞬間、
セイラの肩が小さく跳ねる。
「シンプルな提案だ。……貴様の権限を全てよこせ。そうすれば、そこの男を蘇生してやる。生かし続けるとも約束しよう」
淡々とした口調。
まるで、取引条件を読み上げるだけのように。
「……権限……?」
聞き返した声は、掠れていた。
意味を理解できないというより、
理解する余裕が残っていない。
「何も考えなくていい。答えだけよこせ。私に権限を渡して、その男を生き返らせるか、死ぬか。どっちだ? へたなディールはやめておけ。私は譲歩しない。最悪、貴様が死ぬことになったとしても、そこまで困らない」
選択肢を示すようでいて、
実質的には、一本道。
セイラの視界が揺れる。
倒れ伏したハルスの姿が、視野の端に入り続ける。
「……本当に……ハルを……」
縋るような声。
確証を求める言葉。
「次、余計なことを一言でも喋れば交渉は決裂とみなす」
即座の遮断。
感情を挟む余地は与えられない。
「……」
セイラは、口を閉じる。
唇が震え、歯が鳴るのを、必死に抑える。
「どっちだ? イエスかノーか」
「……ハルを……助けて」
絞り出した言葉。
それは懇願であり、同時に、祈りでもあった。
無力な者は、神に願うことしかできない。
その先でどんな悲劇がまっていようと、
奈落に落ち続ける間であろうと、祈る事しか出来ない。
それが弱さ。
命の罪。
――強さと賢さを切り捨てた代償。
「交渉成立だ、『タナカ・イス・ウラヨシ』よ。もらうぞ。貴様の全部」
確定を告げる宣言。
その瞬間、何かが奪われる予感が、背筋を貫く。
「たな……ぇ? だれのこと……人違い――」
理解が追いつかない。
拒絶するための言葉が、途中で詰まる。
「暴露のアリア・ギアス追加。貴様は、田中家におけるバックナンバー個体であり、同時にバックドアでもある『田中裏吉』の転生体だ。裏吉は本来、肉体は男で、心は女として生まれた存在だった。だが転生の過程で、心も体も女として再構成された。それが貴様だ」
――唐突な展開だと思われた読者様へ。
セイラの正体に関しては3436話「セイラ・アカナティス・インサイドギル」あたりで示唆されていた感じです(*´▽`*)




