98話 全部くれてやる。
98話 全部くれてやる。
金属同士がぶつかる音すらしない。
ハルスの剣は、バーチャの指先に吸い付いたように止まった。
相手にならない。
当然。
バーチャの存在値は9999京で、
ハルスの存在値は『100前後』なのだから。
「うぉおおおおおおおおお!!」
ハルスは、喉が潰れるほど叫びながら、連撃をぶちかます。
一太刀ごとに、全身が悲鳴をあげる。
剣に込めた力も、踏み込みも、すべてが限界。
だが、バーチャは、ハルスの攻撃をテキトーに受けつつ、
「仮に禁獣化したとしても『10京』程度が精々のゴミ。……『内側』にいくつか『可能性』を秘めている様子だが、その全てを解放したとしても、100京あるかどうか。……限りなく甘い贔屓目で見積もっても『1000京には届かない』だろう……全ての資質を過不足なく考慮した上で、貴様は話にならないゴミだと断定する」
その声には、怒りも感情もない。
事実を列挙しているだけの口調。
そう言ってから、
斬りかかってくるハルスの足に、そっと小指をあてる。
向かってくる足に、ちょんと合わせただけ。
力を込めた様子すらない。
それだけで、
ハルスの足は、地雷でも踏んだみたいに豪快に吹っ飛ぶ。
「ずぁあああああああああ!!」
衝撃が遅れて痛覚を殴りつける。
視界が揺れ、地面が跳ね上がった。
「ハル!!!!!」
足が爆散したハルス以上の悲鳴をあげるセイラ。
反射的に、ハルスに駆け寄ろうとする。
その挙動を背中に感じたハルスは、
「来るなぁあああ!!」
と、鬼ギレの顔で叫びながら、
「ああああああああああ!!」
声を張り上げることで、意識を繋ぎ止める。
沸騰するアドレナリンが、爆散した足の痛みを忘れさせてくれる。
血走りすぎて真っ赤になった目が、
バーチャだけを見据える。
視界の端で、セイラが止まったのを感じ取る。
その間、もちろん、
センキーも、バーチャを止めようと必死にあらゆる手を尽くしている。
詠唱、術式、干渉。
だが、そのすべてが、届かない。
ハルスは、センキーに、
「てめぇ、もっと頑張れやぁあああ! くそがぁあああ!!」
と、自分を助けようとしているセンキーに、
悪態と激励を同時に叩きつけつつ、
「これで最後でイイイイイイ!! 全部くれてやるぅうううう!!」
叫びながら、身体の奥を無理矢理こじ開ける。
ハルスのバキバキに充血した目が、
さらに鬼畜な赤色に染まっていく。
絶死のアリア・ギアスで自分の限界を食い破った上で、
「龍聖剣ランク10ぅううううううううう!!」
魔力が暴走し、肉体が悲鳴を上げる。
それでも命を止めない。
限界の向こう側。
暴走を燃料に狂気を発散する。
お願い、死なないでハルス!
あんたが今ここで倒れたら、セイラやシグレとの約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、バーチャに勝てるんだから!
――次回「ハルス死す」




