96話 1000の時に8000万に勝った奇跡の戦歴。
96話 1000の時に8000万に勝った奇跡の戦歴。
――戦闘結果として見れば、誤差にも満たない。
ダメージと呼ぶには取るに足らず、傷と呼ぶにもあまりに些細。
それでも、それは、
完全無欠であるはずの巨像に刻まれた、初めての『破綻』だった。
……その瞬間、殴り合いは終わった。
バーチャは、そこで手を止めたのだ。
次の一撃を放つことも、反撃を続けることもせず、
あえて、殴り合いそのものを放棄した。
それは譲歩ではない。
評価でもない。
ただ、理解しがたいものに向けられた、嫌悪に近い拒絶。
「……やはり、怖気が走るな。その狂気的な気色の悪さ……今の私に、その程度の数字で抗ってみせるとは……」
センキーは、歪み切った顔のまま、笑った。
腫れ上がった頬と崩れた輪郭のせいで、
それが本当に笑みなのかどうかすら判然としない。
だが、その表情には、確かな意思だけが残っていた。
それは感情ではなく、折れることのない執念そのものだった。
「たかが20倍の存在値差など、俺には何も感じない。忘れたか、バーチャ。俺は、存在値1000ちょっとの時に、8000万のお前に勝っているんだぜ」
その言葉に、場の空気がわずかに沈んだ。
「忘れることはない。1000の貴様に負けたのではなく、神に覚醒した貴様に負けたのだ」
「大差ない話だぜ。神になりたてのガキが、超神に覚醒した神に勝ったんだ。十分、誇れる成果だろ?」
一瞬の沈黙が落ちる。
「……本当に不愉快な男だ」
吐き捨てるように言い残し、
バーチャは、完全に興味を失った様子で踵を返した。
背を向け、そのまま歩き出す。
先ほどまで続いていた殴り合いを、まるで最初から存在しなかったかのように切り捨てて。
「おい、どこに行くんだ?」
「そこにいるゴミが目障りだから殺してくる」
あまりにも淡々とした宣告。
「……ゴミ? ハルスのことか? おいおい、そんなゴミ、気にしている余裕はねぇだろ。お前の相手はこのゴミだ。って、誰がゴミだ、ごらぁああ!」
必死に注意を引き戻そうとする叫びは、
自覚的な道化を演じることで、現実を食い止めようとする足掻き。
しかし、バーチャは振り返らない。
「ピエロに徹して必死にヘイトを買おうとしているところ悪いが……止めたければ、力ずくでくるんだな」
「……ちっ」
センキーは舌打ちした上で、
「ゴミに浮気してんじゃねぇよ。俺だけ見てろ! 俺以外のラインも電話番号も全部消せ! 家族の番号も消せよ! お父さんも男だろ!! ペットもオスは禁止だ!」
メンヘラなピエロで世界をケムに巻こうと必死。




