94話 どしゃぶりじゃねぇか。
94話 どしゃぶりじゃねぇか。
センキーは、ゴキゴキ、と首を鳴らした。
関節が噛み合う音が、異様に大きく響く。
血走った眼が、真正面からバーチャを捉える。
「この俺が? この程度で?」
鼻で、はっきりと笑う。
「ヘソで沸いた茶が蒸発して雲になって雨になるってのが、これまでは何のことか分からなかったが……なるほど、こういうことか。……どしゃぶりじゃねぇか。ハンカチ貸してやろうか?」
「……何を言っているのか本当に何も分からないのだが?」
「殺すって言ってんだ。頭の悪い野郎だぜ。俺とトントンぐらい知能指数が終わっていると言わざるをえない」
センキーは、ゆっくりと肩を回す。
筋肉が軋み、融合した魔力が内部で渦を巻く。
「最初にハッキリ言っておくが、俺は、偏差値70以下のヤツには人権がないと思っている。将来的には、低偏差値のゴミを皆殺しにして、偏差値70オーバーだけの完璧なパラダイスを創り出す予定だ」
一歩、踏み出す。
床が沈み、空間が歪む。
「つーわけで、手始めにてめぇから殺す。八つ裂きにして、ハラワタを引きずりだして、もつ鍋パーティーしてやるよ。汚物は消毒だ、ひゃっはー」
どちらが悪役か分からなくなる宣言を吐き捨てながら、
センキーは、あくまでゆったりとした歩調で、バーチャの目前に立った。
互いの距離を限りなく透明なゼロにして、
「……真醒・裏閃流奥義……」
右拳に、殺意を注ぎ込む。
純度百パーセントの『絶対に殺す』という明確な意思。
空気が、拳の周囲で収縮する。
音が消え、光が歪む。
「――閃拳――」
放たれた正拳突きは、
相手の強さではなく、
相手の『チートそのもの』を殺しにいく軌道。
――だが、
「ゴミみたいな拳だな」
バーチャは、微動だにしない。
胸部に拳が触れた瞬間、
衝撃は完全に殺され、物理的な意味を失った。
ダメージゼロを目の当りにして、
センキーは、ダルそうに舌打ちする。
「……とってつけた力じゃねぇ、ってか」
拳を引き、肩を落とし、
「まあ、根底にあるのは、ゼンドウとかバーチャとかテラスとかシュブだもんなぁ。唯一、積み重ねが足りない『ゼン』の部分は、プライマル・センエースとやらがカバーしている、と」
短く、息を吐く。
「つまり、てめぇを殺そうと思ったら、ゴリゴリのガチンコで削り切るしかないってわけだ」
「そんなことは試さなくても分かると思うがな」
バーチャの声には、わずかな苛立ちが混じった。
「貴様は本当に頭が悪い」
その言葉を合図にするかのように、
空間が、音を立てて裂けた。




