86話 無限の太陽。
86話 無限の太陽。
叫びは、そこで途切れた。
ゼンドウが最後の気力を振り絞り、言葉を放とうとした、その瞬間だった。
テラスは、すでに間合いの内側に踏み込んでいた。
動きは一瞬。
溜めも迷いもなく、ただ最短距離を詰める。
そして、グニャリと、テラスの顔面が異様に変形した。
人の顔の輪郭が崩れ、口が大きく裂ける。
顎は上下だけでなく左右にも広がり、顔そのものが巨大な口へと作り替えられていく。
歯列のような肉の縁が連なり、捕食のためだけの形を取った。
まるで、どこぞの、寄生する獣みたいに。
――視界いっぱいに迫る異形の口が、影となってゼンドウを覆う。
逃げる暇も、身構える余裕もなかった。
変形した顔面が、そのまま前へ突き出される。
バクリッ!
鈍い捕食音が響いた瞬間、ゼンドウの身体は頭から足先まで、すべてが口の中へ消えた。
噛み砕かれることもなく、抵抗の動作すら挟まれない。
丸ごと包み込まれ、そのまま一息に飲み込まれていく。
次の瞬間、そこにゼンドウの姿はなかった。
跡形もなく、完全に消失していた。
捕食は終わりではなかった。
飲み込まれた存在が、内部でほどけ、溶け、境界を失っていく。
ゼンドウという個は消え、力と意志だけがテラスの内側へと流れ込む。
完全に一つになった、ゼンドウとテラス。
融合が成立した瞬間、テラスの全身から光が噴き上がった。
白金色の輝きが皮膚の内側からあふれ、輪郭そのものを塗り替えていく。
その光は太陽よりも激しく、それでいて圧倒的に美しかった。
魔力が奔流となって巡り、肉体がそれに応えるように再構築される。
存在値が跳ね上がり、空間がわずかに歪む。
「お、ぉおお……」
喉から漏れた声は、歓喜とも畏怖ともつかない震えを帯びていた。
膨らみ続ける自分自身に、抗いようのない恍惚を覚える。
命が高まっていく。
その感覚を、テラスは細胞の一つ一つで、はっきりと理解していた。
そして、ついに完成する。
「ぷはぁ……」
そこに立つのは、もはや単なる一生命ではない。
最強へと至った存在――アマテラス・センエース。
アマテラス完成と同時に発現する、
プラスプライマルプラチナスペシャル――
――『無限太陽』。
その効果はシンプルで、決して枯渇しない永久エネルギーを内包する!
もはや人の枠を静かに踏み越えた存在として、そこに在った。
まず目を引くのは、その背後に広がる異形の威容。
左右に展開するのは、龍の頭部を思わせる巨大な黒銀の構造体。
生物とも武装とも判別しがたいそれらは、鋭い牙を剥き、口を開いたまま静止している。
その顎の内側には淡く光る紋様が走り、意志を持つかのように呼吸していた。




