85話 絶対に負けない。
85話 絶対に負けない。
テラスは血に濡れた地面を踏みしめ、呼吸を整えながら、正面のゼンドウを見据えていた。
ゼンドウは、もはや立っているだけで奇跡に近い状態。
装甲は砕け、肉体は裂け、存在値の揺らぎが視認できるほど不安定になっている。
それでも、彼の眼は死んでいなかった。
彼は絶対に自分の勝利と正義を疑わない。
疑ってしまった瞬間に朽ちてしまうから?
ちがう。
マジのキチ〇イだから。
――ゼンドウの覇気に呼応するかのように、テラスの内側で、確かな熱が膨れ上がっていく。
魔力の循環が加速し、思考が研ぎ澄まされ、戦場のすべてが遅く見え始める。
ボルテージが限界域へと達した合図だった。
――ゼンドウは、口元を歪め、血を吐きながらも腕を掲げた。
「死ねよ、糞女ぁああああ!! 『カース・ナチュキ・フリーダム』ゥウウウ!!!!」
次の瞬間、空間が歪み、無数の影が裂け目から溢れ出した。
召喚されたのは……鼻から上がない女。
禍々しい刀を装備したナチュキたちが、絶叫もなく大量に出現する。
その一体一体がカスタム化された神獣カースソルジャーと融合しており、存在するだけで周囲の空気を腐らせていく。
重苦しいデバフが波のように広がり、ホール全体の色が沈んだ。
だが、テラスは一歩も退かなかった。
迫り来る大群を前に、彼女は静かに手を広げる。
魔力が、圧縮され始める。
空間、熱、音、そして死の概念までもが、ひとつの点へと引き寄せられていく。
「――『弧虚炉・天螺・終焉加速』――」
宣言と同時に、空間そのものが軋み、内側へと強引に折り畳まれた。
視界が歪み、重力の向きすら曖昧になる。
大量に召喚されていたナチュキたちは、抵抗の動作を取る暇すら与えられなかった。
螺旋を描くように魔力へ引き寄せられ、存在値ごと圧縮されていく。
刀が折れ、肉体が潰れ、呪いの気配が悲鳴の代わりに弾け飛ぶ。
それらは一瞬でひとつの魔力塊にまとめ上げられ、次の瞬間、痕跡も残さず霧散していた。
耳鳴りのような余韻だけを残し、衝撃波がゆっくりと収まっていく。
闘技場の中心に残っていたのは、微動だにせず立ち尽くすテラスと、膝から崩れ落ちたゼンドウだけだった。
「ご、ゴミ女ぁ……」
声はかすれていたが、その瞳から光は消えていなかった。
肉体は限界を超えてなお、心だけが異様なほど強くしがみついている。
決して心は折れていない。
いまだ、ゼンドウは、自分を信じていた。
その狂気的な信念と根性だけは、『センエース的』と言えなくもなかった。
「絶対に、僕はてめぇに負けないぃいい! 貴様のような悪は絶対に――」




