80話 一つも言う事聞かねぇ。
80話 一つも言う事聞かねぇ。
吐き捨てるように言葉を並べ、感情を誤魔化すハルス。
意図的に棘を強めた口調だった。
突き放せば、離れてくれると信じたかった。
それでも声の奥には、隠しきれない焦りと恐怖が滲んでいた。
「てめぇと一緒に死ぬのだけは勘弁なんだよ。あの世まで付きまとわれちゃ、たまったもんじゃねぇ。失せろ、さっさと。殺すぞ」
そう言って、セイラを逃がそうとする。
だが、言葉とは裏腹に、腕はほどけない。
そして、セイラは、ハルスの言葉を完全に無視した。
ギュっと強く、逃げ道を塞ぐように、ハルスにしがみつく。
胸元に伝わる体温と、必死に掴む指の力。
拒絶されるどころか、逆に縋られている現実が、苛立ちを煽った。
「マジで一つも言うこと聞かねぇ……最後ぐらい聞けや、カス。ここにいたら、あの変態どもの攻撃に巻き込まれて死ぬかもしれねぇって、その程度の理解すらできねぇのか? マジで、頭の悪いガキは嫌いだ。死んでほしい」
罵倒を重ねても、セイラの腕は緩まない。
何を言っても、セイラはハルスから離れなかった。
どうしたものかと、逃げ場のない思考が巡る。
その視線の先では、センとゼンドウの闘いが続いている。
高次元すぎて何が何だか分からない衝突が、空間を歪ませ続けていた。
――ゼンドウの攻撃を回避しながら、センは間合いを保ち、空間を踏み替え続けていた。
視界を埋め尽くす圧力を、紙一重でやり過ごしながら、舌打ち混じりに叫ぶ。
「おいおい、てめぇ、マジで凶悪に強ぇじゃねぇか!! ダルいって!! お前みたいなカスはカマセ要員なんだから、適度に雑魚であれよ!!」
吐き捨てるような言葉とは裏腹に、判断は冷静だった。
ゼンドウの戦闘力は、明らかに爆上がりしている。
一時的な数値操作や、見せかけだけの上昇ではない。
動き、反応、攻撃の質、そのすべてに芯が通っていた。
その上で、数値差は15倍以上。
さらに問題なのは、防御。
ゼンドウの前面に展開される『シュブの盾』が、あまりにも高性能すぎた。
センの放つ遠距離攻撃は、接触と同時に自動反射される。
狙いを変えても、角度をずらしても、結果は同じだった。
近距離に踏み込んだ際のカット率も異常だ。
打撃も斬撃も、通った感触がない。
仮に破壊しても、間を置かず再生する。
盾として、ほとんど欠点のないスペックを誇っていた。
「お前のシュブ盾は優秀だな、おい!! こっちのヨグソードは、嘘しかつかねぇゴミ仕様だってのに!」
吐き出すように言いながら、センは距離を取る。




