79話 ランク210000。
79話 ランク210000。
――『ぶっとんだ次元の闘い』の様子を、
ハルスは眉間に深いしわを刻み、ただ見つめることしか出来なかった。
理解を拒む光景が、思考の手前でせき止められている。
庇うようにセイラを抱きしめ、ホールの隅で、センとゼンドウの闘いを睨み続けている。
「これは……どういう夢だ?」
現実として受け止めるには、あまりにも常識が通用しない。
だから夢だと仮定することで、かろうじて自我を保っていた。
何が何だか分からない。
センとゼンドウの動きは目で追えず、輪郭すら掴めない。
だが、時折――
「正義弾ランク21万!!」
ゼンドウの叫びが、衝撃とともに耳に叩き込まれる。
数値の意味を理解する前に、空間が歪む。
放たれた魔法の威力が、常識を無視したサイズで膨れ上がり、視界を塗り潰す。
コスモゾーンの法則を、肌で感じるほどの明確なコンパクト化。
えげつないほど強大な力が、目の前で、無理やり圧縮されていく。
圧縮され、閉じ込められ、それでもなお溢れ出そうとする気配。
世界の終わりを毎秒体感しているような、異次元を超えた狂気の暴走だった。
「ハル……これ……なに?」
腕の中で、セイラの声が震える。
セイラは、ハルスに慣れて以降、彼のことを『ハル』と、あえてあだ名で呼ぶようになった。
鬱陶しいと何度もやめろと言ったが、聞く耳を持たず、結局は放置している。
今では、その呼び方が出ること自体に違和感はなかった。
腕の中の温もりが、恐怖とともに小刻みに揺れる。
「これは……夢?」
問いに答える前に、ハルスは奥歯を強く噛みしめた。
否定も肯定も出来ない。
「俺にしがみついておけ。絶対に手を離すな」
低く言い切り、セイラをさらに強く抱き寄せる。
そして、この場から逃げようと、踏み出そうとした。
しかし――
「……んっ?!」
体が、動かない。
ビキっと音が鳴った気がするほど、急激に自由を奪われた。
まるで金縛りに遭ったかのように、筋肉が命令を拒否する。
それは外からの拘束ではなく、
『自分の中にいる何か』が、この場から離れることを許さないように縛り付けている感覚だった。
「なんで……動かない……まさか、この俺がビビっている? ……腰が抜けたとでもいう気か?」
そうではない……が、正しい理解ができる状況にない。
ハルスは必死に身体に力を込めるが、指一本すら動かない。
「くそが……」
逃げられないと悟り、唾を飲み込む。
「おい、てめぇ一人で逃げろ、セイラ」
「一緒に――」
「それが無理だから逃げろって言ってんだ。マジでバカだな、嫌いだわぁ……ずっと。マジで心底から腹が立つ。呪いさえなければ、確実に、惨殺している」




