65話 お前より強い程度の雑魚に負けてんじゃねぇよ。
65話 お前より強い程度の雑魚に負けてんじゃねぇよ。
センは淡々と煽りながら、倒れているゼンの頭を蹴り飛ばした。
もちろん、力加減はしている。
普通に蹴ったら、ゼンの頭が爆散してしまうから。
「……う……ぐ……」
「中坊の分際で調子こいて生意気に卒業なんてするから、そんな目にあうんだよ、くそったれ。てめぇ、俺が、何年童貞やってると思ってんだ。どうやら聞くところによると、この俺は、御年2垓年の、この上なく熟成された童貞のでぇベテランらしいぜ。もはや、逆にワクワクすっぞ」
言葉の軽さとは裏腹に、眼は冷たかった。
笑っているようで、笑っていない。
怒りの熱が、底に沈殿している。
「……うぅ」
「うめくだけか? 立てよ、ヒーロー。責任感だけは一丁前のてめぇが、経緯どうあれ、『一線を越えた』ってことは、『一生添い遂げる覚悟』を決めたってことだよな。生涯かけて、『永遠にシグレ【だけ】のヒーローになる』と決めたんだろ? 『他の誰がどうなろうと、シグレだけは絶対に助ける』という覚悟をかためたわけだ。つまり今この瞬間は、『嫁』が『テメェの頑張り次第で死ぬか生きるか決まる』っていう……お前さんの人生で一番大事な局面だろ」
センの声は、相手の逃げ道を塞ぐように淡々と続いた。
言葉の刃で、ゼンの背骨に杭を打ち込む。
「……ぐぅ」
「なのに、いつまで寝転がってんだ。ナメんなよ、マジで。童貞を守り切れなかった以上、シグレだけは守ってみせろ」
その言葉が落ちると同時に、
ゼンはかすかに身体を震わせた。
痛みで動けない。
けれど、
「はぁ……はぁ……」
全身から血が溢れ、げっそりして、青ざめて、グッタリしている。
それでも、ゼンは歯を食いしばり、心と体にムチを打って、ゆっくりと起き上がった。
膝が笑う。
視界が揺れる。
それでも立ち上がって、
「あんたが……望む……全てを……渡す……俺にできること……全部やる……だから……」
「だから?」
センは首を傾げるだけで、答えを待った。
慈悲でも関心でもなく、ただの確認。
「今回だけ……譲ってくれ……あんたなら……来年でも……余裕で受かる……だろ」
「まあな。けど、1年待つのはタリぃからパス」
「……」
「お前が消えて喜ぶ俺に、お前のオールを任せるな。――惚れた女を守るためだろ? だったら、お前より強い程度の、俺みたいな雑魚の一匹や二匹、サクっと殺せや」
「……ぅ……」
ゼンは理解した。
センと対話しても無駄。
センエースの目は、完全に飛んでいる。
ガン決まっている。
説得も、懇願も、届かない。
最初から受け取る気がない。
なら、できることは一つだけ。
「ぅうううう!!」
歯を食いしばり、
まっすぐ前を見据えて、
「がぁああああああああああああ!!」
全身全霊を込めて、
センエースの顔面に向かって拳を突き立てようとした。
その時、
「っ」
パァアアアアアアアアア……
と、何かが開く音が、確かにした。




