60話 殺戮の神を纏いし非道帝。
60話 殺戮の神を纏いし非道帝。
殴られながら、蹴られながら、ゼンは全身全霊で理解してしまった。
力量差。
覆しようのない現実。
生身では、177番には絶対に勝てない。
完全な理解を経て、
ゼンは、腹の底で覚悟を固めた。
「――アスラ・エグゾギア‐システム、起動!!」
宣言と同時に、ゼンの身体を覆う空気が変わる。
魔力が爆発的に噴き上がり、存在そのものが塗り替えられていく。
ゼンの全てが、『殺戮の神』に包まれた。
この世の全てを殺し尽くすためだけに設計された、狂気的な威容。
理性を押し潰すほどの殺意が、周囲に漏れ出す。
――阿修羅ゼンは、
禍々しい剣を召喚した。
黒く歪んだ刃が、空間そのものを侵食する。
「悪いけど。こっちは、こっちで都合があるんだ! 両手、両足、切り飛ばさせてもらう!!」
言い切り、下半身に力を込める。
魔力が淀みなく流れ、全身が軽やかに駆動した。
豪速の瞬間移動。
次元を踏み抜き、距離という概念を置き去りにする。
その流れの中で、
「波動一閃!!」
スッと、一直線に、剣を横に薙いだ。
グリムアーツ波動一閃。
現状のゼンが、唯一、自信をもって放てる汎用性の高い必殺。
愚直に、アホほど振り続けてきた剣技。
信じられない速度で放たれる『飛ぶ斬撃』。
空間を切り裂き、全てを断つ凶悪な一手。
――それを、センは、
「……きぇ!」
意味不明な奇声を上げながら、足を振り抜いた。
斬撃は蹴り飛ばされ、あっけなく霧散する。
「……っ! な……ぁっ」
目を見開くゼン。
理解が追いつかない。
センは、そんなゼンを見下ろし、ニッと笑った。
「こんどはこっちからやらせてもらうよ。かるくね」
余裕たっぷりの声だった。
悪の帝王ムーブそのものの態度。
ゼンは、軽くパニックに陥った。
エグゾギアの出力は、100億を軽く超えている。
この世界の人間の存在値は、高くて30。
最強格でも100前後。
もちろん、フッキやP2のような、イカれた存在値を誇る変態と戦った経験もあるので、自分だけがブッチギリの最強だとは思っていない。
だが、『冒険者試験を受けている一般人』が、
エグゾギアを使った自分の攻撃を蹴り飛ばす。
それは、流石に想定外すぎた。
一般の人間相手にエグゾギアを使うのは反則級。
それが、この世界の常識。
だが、目の前の177番は、その常識を平然と踏み潰している。
「……ど、どういう……」
ワナワナと震えていると、
177番……センが、ニタリと笑った。
「172番((ゼン))は生まれて初めて心の底から震えあがった。真の恐怖と決定的な挫折に。恐ろしさと絶望に涙すら流した。これも初めてのことだった」
「……泣いてはねぇよ……」




