59話 童貞も守れないヤツには何も守れない。
59話 守れないヤツには何も守れない。
心の中で、『流石に本気を出せば勝てるだろう』と思っているゼン。
そんなゼンの様子を見据えたまま、
センが、バチ切れの顔で口を開いた。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
場違いなほど淡々とした声音。
だが、その一言には、剥き出しの感情が詰め込まれている。
ファントムトークに精通しているゼンは、
センの言葉の意味が即座に理解できた。
冗談でも比喩でもない。
核心を突いた、悪意の直球。
「……ぇ? は?」
思考が一瞬、真っ白になる。
反射的に声が漏れた。
ボっと、一瞬で顔が真っ赤になる。
耳まで熱を帯び、視線が定まらない。
「な、何言ってんだ」
慌てて否定し、どうにか誤魔化そうとする。
だが、その挙動そのものが、答えになってしまう。
センは、ギリっと奥歯をかみしめ、
「そのツラ……どうやら、マジくさいな。……くそが……」
その声は低く、震えていた。
怒りと嫉妬が、抑えきれず滲み出ている。
ワナワナと全身を震わせながら、センは叫ぶ。
「……『童貞も守れないやつには何も守れない』という、この世界の絶対的なルールを叩き込んでやろう!!!」
叫びと同時に、センはダっと飛び出した。
踏み込みは鋭く、床が鳴る。
凄まじいスピードとパワーで、間合いを一瞬で詰める。
そして、そのまま、ゼンをボコボコにする。
容赦はない。
感情のままに、拳と蹴りを叩き込む。
「うげっ! ぐわっ! ずぇええ!」
拳と蹴りが、間断なく叩き込まれる。
センは理性で己が殺意の手綱を引いていた。
本気で踏み込めば、一瞬で終わる。
それを深く理解しているので、致命の角度と深さを盛大に外す。
「俺の怒りと孤独と愛しさと切なさと心強さを思い知れぇええええ!」
そんな理性の制御とは裏腹に、本能は暴走気味だった。
目の前のエロガキを殺せと、魂が執拗に叫んでいる。
その衝動が火力を押し上げ、制御の隙間から漏れ出す。
「おらおらおらおらぁ! 汚物は消毒だぁあああ!! ひゃっはぁあああああぅ!!」
顔、胸、腕、足。
急所は避けているのに、一撃一撃が重すぎる。
逃げ道だけを潰し、立て直す猶予を与えない。
ボッコボコのフルボッコにされて、顔面がぐちゃぐちゃになったゼンは、武舞台の上でよろめきながら立っていた。
視界は揺れ、呼吸は荒く、全身が悲鳴を上げている。
それでも、意識だけははっきりしていた。
(だ、ダメだ、こりゃ。このニーサン、えぐいほど強ぇ……ちょっと、信じられねぇぐらいの強さだ……勝てる気が一ミリもしねぇ。まともにやったら、1000年やっても、100パー勝てねぇ)




