58話 1と1の闘い。
58話 1と1の闘い。
『戦ってもいい』と挑発しつつ、ミハルドに剣を向けるハルス。
――だが、ミハルドはハルスを一瞥することすらなかった。
視線はまっすぐ固定され、声だけが淡々と響く。
「貴様は合格だと言っている。それ以上、余計な邪魔をするようだと不合格にするぞ」
冷淡な言葉。
感情を挟む余地はない。
試験官としての職務だけを全うしようとしているミハルド。
「……へっ。つまらない野郎だ。だから、フーマーの連中は嫌いなんだ」
ハルスは短く吐き捨てると、剣をおさめた。
『どうせ、相手にしないだろう』と最初から思っていたので、へたに引きずることもない。
ミハルドは、改めてセンたちの方へ向き直る。
「1と書かれていたくじを引いた二人は前に出ろ」
命令は簡潔。
拒否の余地はないし、逆らう気もない。
ミハルドの指示通り、センとゼンは、それぞれ一歩を踏み出す。
ホール中央に設置された武舞台へと向かう足取りは、対照的だった。
センは、感情を内に溜め込んだまま、無造作に歩く。
肩は落ち、足取りは緩いが、内側に渦巻く苛立ちは隠しきれていなかった。
視線は前を向いているのに、意識の大半はゼンへと張り付いている。
ゼンは一歩ごとに覚悟を固めるように、わずかに呼吸を整えながら歩いていた。
胸の奥で不安と決意がせめぎ合い、足先にまで緊張が伝わっている。
逃げ場はないと理解しながらも、心だけが必死に活路を探していた。
そして、二人は、同時に、武舞台へと上がった。
★
武舞台に上がったゼンは、深いため息と共に天を仰ぐ。
喉の奥から、重たい息を漏らしたまま、ボソっと、
「タイマンの一回勝負っていうのは、願ったりかなったりの内容なんだが……」
チラっとセンに視線を向けて、
「……できれば、セイラかハルスとあたりたかったなぁ……」
正直な本音。
これまでの流れから、177番が『なかなかえげつない存在であること』は理解できている。
具体的にどれほどの強さなのかは分からない。
だが、向かい合っただけでも伝わってくる。
ビリビリと腹の底に響く謎の威圧感。
――底が見えない。
理屈を超えた圧力が、肌を刺すようにまとわりついてくる。
(負けられない戦いがここにあるってのに……)
ゼンはまた溜息をつく。
――前提として、ゼンが不合格になると、シグレが無間地獄に落ちてしまう。
その未来だけは、何としても避けなければならない。
胸の奥で、強い焦燥が脈打つ。
(流石に『エグゾギア』を使えば勝てると思うんだが……このニーサンからは、それすら凌駕してきそうな……妙な雰囲気を感じるんだよなぁ……ま、流石に、完全本気を出した俺に勝てるはずがない……とは思うんだけど……んー)




