55話 ニーが帰ってこない……
55話 ニーが帰ってこない……
どうにか王の座を押し付けようとしてくる閃光に対し、
蝉原は、呆れ笑いを浮かべ、
「……仮に、全ての問題をクリアできた場合、君は、原初深層一層を含めた、『全ての世界(アルファからダブルマイナスエックスまで全て)』の王となり、全ての命の上に立つと思うよ。だって美しすぎるから」
価値基準は理論ではなく感情。
それを隠そうともしない言葉。
どうしても王の役目を押し付けたいセンと、
感情を軸にした理論でそれを受け流す蝉原。
二人の高度な攻防は夜明けまで続きましたとさ。
――めでたし、めでたし。
★
5次試験の会場は、いつもの半円状のホールだった。
白い石床は磨かれ、天井の魔導灯が均一な光を落としている。
空気には、試験特有の緊張が薄く張りついていた。
試験官のミハルドは、壇上の定位置で静かに待っていた。
背筋は伸び、視線は正面。
無駄な動きは一切なく、時間だけを正確に刻む人形のようだった。
センがホールに足を踏み入れると、すでに他の受験者たちは集まっていた。
ハルス。
その隣にセイラ。
そして少し離れた位置に、シグレとゼン。
ハルスとセイラ、そしてミハルドの雰囲気は、前日と変わらない。
張り詰めてはいるが、予定調和の範囲に収まった空気。
だが、シグレとゼンの雰囲気は大いに違っていた。
シグレは、どこか吹っ切れたような表情をしていた。
目の奥に迷いがなく、静かな覚悟だけが宿っている。
死を受け入れた者特有の、奇妙な落ち着きにも似ていた。
一方のゼンは、落ち着きがない。
立っているだけなのに重心が定まらず、視線が泳いでいる。
無限に絡み合った感情に押し潰されかけているような顔だった。
シグレが、ボソっと、
「ニー……まだ帰ってきてへんなぁ……もう帰ってきてくれてええんやけどなぁ……もしかして、今夜も二人きりにしてくれるつもりなんやろか」
「…………いや、知らんけど……ってか、ちょ……近い……」
などと微妙な距離感で喋っている二人の違和感。
――センは、二人の違和感に気づくことなく、
ハルスに声をかけた。
「もしかして、俺を待ってた?」
ハルスは即座に顔をしかめる。
「お前なんか待たねぇよ……試験官が、試験開始は9時からだって言うから、それまで待っているだけだ」
その言い方には、棘が混じっていた。
センの存在そのものが癇に障るという感情を、隠そうともしていない。
ハルスはそのまま視線をミハルドに向けた。
「おい、全員そろったぜ。もう始めてくれてもいいんだが?」




