46話 本気のセンエースに勝たなければ、基本、シグレが死にます。
46話 本気のセンエースに勝たなければ、基本、シグレが死にます。
「……おっと……」
そこでセンの眉間にギュっとエグめのシワが寄る。
「サラっと言っているが……それ、だいぶエグいこと言ってねぇか?」
「そう。えげつない話や。……『本気のセンエースに勝つ』という、この世で最も難しいミッションを……あろうことか、ゼンが単騎でクリアせんとあかん。そうやないと世界が終わる」
「……」
「このとんでもないミッションをクリアするために……おどれは、これまで、100万回以上……2垓年以上にも及ぶ時間旅行を繰り返すハメになった」
「その辺詳しく――」
★
拠点にしている宿屋に戻ったゼンとシグレは、割り当てられた部屋に入った。
扉が閉まると同時に、外の喧騒は一枚の板に遮られ、室内には張りつめた静けさが落ちる。
ベッドと小さな机、壁際に据え付けられた簡素な棚。
旅人向けの、どこにでもある宿屋の一室だった。
「……っ」
部屋に足を踏み入れた瞬間、シグレの頬から首にかけて刻まれた呪いのタトゥーが、じわりと脈打つ。
皮膚の奥で鈍い熱が生まれ、針で内側をなぞられるような違和感が、ゆっくりと広がった。
(なんか、この顔のタトゥー……冒険者試験をクリアしていくごとに、どんどん痛みが増しとる気がするな……)
息が乱れないよう、シグレは小さく深呼吸をした。
意識して表情筋に力を入れ、いつも通りの顔を作る。
ゼンに知られれば、心配させるだけだと分かっているから。
だからこそ、何事もないふりを貫くしかなかった。
だが、ゼンはシグレのわずかな変化を見逃さなかった。
視線の揺れ。
呼吸の間。
ほんの一瞬、眉が歪んだ、その揺れ。
断片的な違和感を拾い集め、確信に近いものとして胸に落とす。
「おい……大丈夫か? やっぱり、その呪い……相当痛むのか?」
「いや、全然」
ニっと快活に笑って答える。
軽く肩をすくめる仕草も自然で、取り繕っているようには見えない。
それでも、ゼンの胸の奥に引っかかりが残る。
もう、それなりの時間を一緒に過ごしているので、シグレが嘘つきで、
まったくタフじゃないのに、タフぶりまくる女であることは理解できている。
だから、ゼンは、ギリっと奥歯をかみしめながら、
「……何かできることはないか?」
「そもそも大丈夫やから、なんもせんでええよ」
「……」
ゼンはさらに歯を噛みしめ、視線を伏せた。
考えても、打てる手は浮かばない。
力の足りなさだけが、はっきりと突きつけられる。
どうしようもない現実に、苛立ちが静かに積もっていった。




