40話 情緒爆走中。
40話 情緒爆走中。
不満を空に垂れ流すハルス。
そんなハルスのズボンをつかみながら、
セイラが、
「大丈夫?」
と、セイラはまっすぐな目で問いかけていた。
揺るぎのない好意と心配が、その視線に込められている。
ハルスは一瞬だけ彼女の目を見てから、すぐに視線を逸らした。
感情を向けられること自体が煩わしいというように、眉間にわずかな皺が寄る。
「……うるせぇ」
吐き捨てるように言い、彼女の手を軽く弾いた。
拒絶の仕草は乱暴だが、力は込めていない。
いつだってそう。
そうやって、この二人は、いつも並んで歩いている。
★
センは、特に考えもなく、近場にあった宿屋へ足を運んだ。
外観はくすんでおり、壁の漆喰には細かなひびが走っている。
客を選ばない安宿だと、一目で分かる佇まいだった。
センは、カウンターに硬貨を置き、最低限の賃金を支払う。
宿の主人は愛想もなく、鍵を一つ、ノールックで放ってきた。
「おいおい、俺をどなたと心得る。俺様は神の王だぞ。もっと丁寧に対応したらどうだい」
「……はぁ?」
「だから! この御俺様は、全世界を統治する究極組織の頂点だと言っておじゃる! 這いつくばって、靴をなめながら、かしこみかしこみ接客せよと、神王の名のもとに命ずる」
「……二度と話かけるんじゃねぇ。次、舐めたことをぬかしたら、ケツ蹴り上げて放りだすぞ」
そう言い捨てて、奥の部屋と引っ込んでいく主人。
そんな彼に、センは、
「ふん、命拾いしたな。俺の機嫌があと3センチ戸惑っていたら死んでいたところだぞ」
などと捨て台詞を吐きつつ、センは階段を上がった。
その途中で蝉原が、
「さっきのやり取り、何がしたかったんだい?」
「俺は、俺に平伏するヤツには『平伏したら殺すぞ』と命令し、俺に平伏しないヤツには『平伏しないと殺すぞ』と命令する……そんな味わい深い男なんだよ」
「かっこいいね」
「どこがやねん」
階段を上がり、鍵のナンバーが示す部屋に入った瞬間、鼻をつく埃の匂いが広がる。
床にも棚にも、掃除が行き届いているとは言い難い。
長い間、人の手が入っていないのだろう。
「神の王ともあろう御方が、こんな部屋に泊まるなどあってはいけませんよ、セン様」
「俺に平伏するな。殺すぞ」
「……小汚い君には似合いの部屋だね」
「ナメんなよ。跪いて靴をなめろ。そして死ねぇ!」
「……君はやっぱり、最高にかっこいいね」
「最高になんでやねん」
センは蝉原とじゃれつつ窓へ向かった。
軋む音を立てて窓を開けると、夕日が街並みを赤く染めている。
沈みかけの太陽を、しばし無言で眺めた。




