36話 いやぁ、びっくり、びっくり。
36話 いやぁ、びっくり、びっくり。
その場の緊張を真っ向から踏みにじるセンの態度に、ハルスの眉間が即座に歪んだ。
腕を組み、苛立ちを隠そうともせず、低く唸るように言い放つ。
「3次試験をほぼ単騎でクリアしたからって調子にのるな、177番。たまたま、先にターゲットを発見できただけだろうが。運の問題でしかねぇ」
吐き捨てるような声だった。
ハルスは続けて、がしがしと乱暴に頭をかく。
その仕草には、苛立ちと焦りがそのまま表れていた。
「てめぇがイカついラッキーボーイなのは認めてやるが、次はそう簡単にはいかねぇぞ。4次試験は、運だけじゃどうしようもねぇ。つぅか、今回の4次はマジでイカつい難易度だぜ。史上最難関の悪問の可能性すらある。まず、二週間っていうクソ長い期間がえぐすぎる。……世界中のどこかに存在するアイテムを探し出すとか、正気じゃねぇ。分かっているのは龍紋っていう名前だけ。探索系の魔法は、おそらく阻害されている。ヒントはあるんだろうが……そのヒントの場所はノーヒントという鬼畜ぶり――」
あくまで常識的な視点から語られる4次試験の厳しさ。
それを、センは途中で遮るように、あっさりと受け流した。
「ああ、龍紋ならもう見つけた」
そう言いながら、センはアイテムボックスに手を伸ばした。
次の瞬間、手のひらの上に現れたのは、ウワサの龍紋だった。
何の気負いもなく、それをハルスの前に差し出す。
「…………はぁ?」
ハルスの表情が完全に固まった。
言葉を失い、思考が追いついていない顔だった。
その背後で、状況を見守っていた試験官ミハルドが、
ハルス以上に目を見開き、声を裏返らせる。
「な、なんだとぉおお?!」
慌てて駆け寄り、センの手元をのぞき込む。
ミハルドは魔法の杖を取り出し、慎重に龍紋へと向けた。
淡い光が走り、鑑定が行われる。
「……ほ……本物……ま、まさか……4次試験が始まって、まだ数十分程度しか……ぃ、いったい、どうやってみつけた?!」
龍紋を凝視したまま、ミハルドは声を震わせた。
鑑定結果を疑う余地はない。
理解が追いつかない様子で、口をぱくぱくするばかり。
「休憩がてらフラっと立ち寄った酒場の店主がくれた。たまたまステーキが食いたくなったんだが、どうやら、ステーキを注文するのが暗号だったらしくて。いやぁ、びっくり、びっくり」
あまりにも軽い口調。
『えげつない事を口にしている』という自覚が一ミリも感じられない、軽薄を煮詰めたような態度。




