35話 ごきげんよう、ウスノロのみなさん。
35話 ごきげんよう、ウスノロのみなさん。
「君の場合、そもそもが全世界最高位の善人だから、なにをしようと偽悪感がぬぐえない」
「俺のどこが善人だって証拠だよ。そろそろ俺の怒りも有頂天に達するぞ、ぼけ、ごらぁ」
「そもそもの話、ヒーローにふさわしくない言動は慎んでほしいね。俺のセンくんは、あんなことは言わない。センくんは、常に美しく、気高く、高潔じゃなくてはいけない」
「その、厄介ファンムーブ、やめれる? ウザくてしゃーねぇ」
そう言いながら、センは視線を外し、指先に力を込めた。
空間の密度がわずかに歪み、魔力の流れが一点へと収束していく。
「クローン生成ランク500」
低く告げると同時に、回収していたスーバンの情報が展開され、肉体構造が即座に再構築された。
空気を裂くようにして、もう一人のスーバンが床に立ち上がる。
意識は最低限に制御され、命令待機の状態で静止していた。
「人格や記憶のコピーも……うん、これでオッケー。あとは、店主の記憶も消しておこうか……」
センはそうつぶやきつつ、眠り続ける店主の頭部へと手を伸ばした。
指先から流れ込んだ微細な魔力が、記憶の表層をなぞる。
最新の記憶である『この限定空間であったこと』だけを綺麗に削除。
「よし……これで問題なし」
「安易なクローンの作成に、相手の脳にかかる負担を考えない自己中心的な記憶操作……倫理観を無視した、命に対する冒涜のオンパレード。およそ人とは思えない非道な諸行の数々。俺のヒーローはそんなことしない。解釈不一致。反省してほしいね」
などと言いつつ、蝉原は不可視化を再起動させた。
センはため息交じりに、
「……『やめろと言ったら加速する』という、その本格派いじめっ子みたいなムーブ、マジでやめれる?」
軽口を叩きながら、センは限定空間を解除する。
店内で起きた諸々の後始末は、クローンスーバンに任せ、そのまま転移魔法を発動させた。
視界が反転し、空間が折り畳まれる感覚が走る。
次の瞬間、センの姿は、ミハルドが待つ半円形のホールへと移っていた。
★
――半円形のホールには、ミハルドだけではなく、ハルス、セイラ、ゼン、そしてシグレもいた。
それぞれが試験会場の一角に立ち、空気はどこか張りつめている。
そこへ、センが転移で姿を現した。
何事もなかったかのような足取りで歩み出ると、軽く手を振り、
「ごきげんよう、ウスノロの皆さん。相変わらずのマヌケ面でなにより」
などと、ご機嫌なフロウの挨拶をかましていく。




