1話 そして時は動き出す。
1話 そして時は動き出す。
無数のモニターが宙に浮かぶ異空間は、静寂に包まれていた。
音と呼べるものは存在せず、わずかなノイズすらも空間に吸収されていく。
光源の定まらない空間に、淡いノイズを帯びた映像が幾重にも重なっている。
映像同士が干渉し合い、境界が曖昧に揺らいでは滲む。
それぞれのモニターには、異なる角度、異なる時点の光景が映し出されていた。
指令室を思わせるその空間の中心で、
――極悪という概念の権化『蝉原勇吾』は腕を組んでいる。
背筋を伸ばし、重心を一切崩さずに、視線だけを獰猛に、
微動だにせず、支配者のような姿勢で立ち尽くし、
映像の中に映るセンとトコの姿を眺めている。
そこに映っているのは、戦いの熱がまだ完全には冷めきっていない領域。
破壊の痕跡が、画面越しにもはっきりと見て取れた。
空間そのものが、直前までの激闘を記憶しているかのようだった。
大一アルファでの戦いが終わり、
余韻すら残したまま、
二人が命を分け合った直後の光景だった。
蝉原は、画面の一つに視線を固定したまま、
瞳の奥で情報を整理していく。
唇の端をわずかに持ち上げる。
その表情には、感慨も安堵もない。
あるのは、計算通りに歯車が噛み合ったことへの純粋な満足だけだった。
蝉原はニタリと微笑みながら、
「……よし、回収完了……俺の力を注ぎ込んだロキのグリ―ドで、『第一層の悪属性エネルギー』は全て奪うことができた。『大罪シリーズ』もコンプリート(合計2700京分)。オペレーション・ロキ……完璧に完了……いやぁ、長かったなぁ……大変だった……ま、実際のところ、頑張ったのはセンくんで、俺は観測していただけなんだけどねぇ」
軽口のような調子とは裏腹に、その言葉の一つ一つは、冷酷な事実を淡々と並べていた。
声量も抑揚も、必要最低限。
独り言のようなその声には、達成感と薄い嘲笑が混じっている。
蝉原が求めていたのは、この瞬間だった。
タイムスリップしてセンエース・アバターラDをハックした時から、ずっと狙い続けてきたもの。
――深層へ、深層へと沈殿し続けてきた負の総量。
世界が積み上げてきた罪の残滓。
それらが一つの方向へ収束していくイメージが、脳裏に描かれる。
大罪シリーズを筆頭とした、深層一層に蓄積された膨大なマイナスエネルギー。
それを、すべて手中に収める、この一瞬。
蝉原の脳裏では、すでに次の工程が明確な図式となって描かれていた。




