157364話 センエースのいない世界なんていらない。
157364話 センエースのいない世界なんていらない。
命を賭して、パーフェクト闇川を殺し切ったセンエース。
さっきまで、確かにそこにいて、無茶苦茶な立ち回りで世界を守っていた男は、もうどこにもいない。
光の粒になって、神気の霧になって、空のどこかへ消えてしまった。
それを見て、トコは、
「……は、はは……ははは……すごいな、あんた……でも……嘘つきやな。最低やで……普通に死んでるやん。死なへんいうたのに……」
喉の奥が痛い。
言葉を吐き出すたびに、胸の中に刺さっている何かが深くえぐれる。
トコは、ボロボロと涙を流して、その場にへたりこんだ。
抜けた膝が崩れ、情けない音を立てて地面に尻もちをつく。
冷たい地面に手をつきながら、指先に伝わるざらざらした砂と、血でぬめった感触に気づいて、さらに呼吸が乱れる。
涙と鼻水と呼吸の音がぐちゃぐちゃに混ざって、どうしようもなく嗚咽が込み上げてきた。
胸が苦しくて、空気が足りなくて、視界がぐにゃりと歪んでいく。
確かに勝った。
世界は救われた。
さすが、センエースは格が違った。
最強最悪の『パーフェクトな大罪』は、この世界から消えた。
けど、この勝利に価値はない――と、トコは断言する。
喉の奥で、誰に向けるでもない怒りがぐつぐつと煮えたぎっている。
「あんたがおらん世界なんか……いらん」
絞り出すように吐き捨てたその言葉は、誰に聞かせるでもない本音だった。
世界とか、正義とか、悪とか、罪とか、罰とか、そんなもんより先に、トコの中でセンエースが咲いた。
閃光を失った果てに残された勝利なんか、ただの『残骸』でしかない。
中身のない空っぽの箱。
トコの目は、センエース以上に、狂気であふれている。
黒目がちの瞳の奥で、何かがぷつりと切れた。
涙で濡れたまぶたの下で光がぎらつき、頬を伝う涙の温度さえ、もうどうでもよくなる。
トコは、わずかも悩むことなく……またタイムリープする。
消して……リライトする。
胸の奥に焼き付いたセンの最期の姿も、血の匂いも、勝利の余韻も、全部まとめて握りつぶすみたいに、時間を巻き戻していく。
センエースの努力を、覚醒を、勝利を、狂気を……なかったことにしていく。
この地獄の周回も、彼が命を燃やした事実さえも、世界から綺麗に削り取って、
――無慈悲に、もう一度、やり直す。
センエースもたいがいイカれているが、
この瞬間だけに限っていえば、
トコは、セン以上に激しくイカれていた。




