6073話 たりねぇよ。
6073話 たりねぇよ。
「教えてやるよ、ロキ。アホみたいに時間をかけて積み上げてきた命が……どれだけ高く飛べるのか」
センの声は穏やかで、しかし容赦がなかった。
その言葉が終わると同時に、空気が爆ぜる。
ロキが先に動く――だが、視界の端に映ったセンの姿が、もうそこにはいなかった。
直後、腹部に激しい衝撃。
「うぬごぉおおおおお!」
重い鉄槌を叩き込まれたような痛みに、ロキの体が弓なりに反る。
「バカなぁああ! 今の俺の肉体に! 今のお前の拳が! どうして!!」
「存在値は奪われたが、オーラと魔力に関しては、完全に奪われたわけじゃねぇ。普通に多少は残っている。……奪い方が雑すぎるんだよ。もっとしっかり根こそぎ奪い取れよ。そうじゃなきゃ、俺の異常性が、いまいち伝わらねぇじゃねぇか。こんなんじゃ縛りが足りねぇよ。フロムゲーのRTA走者に幼児用のヌルゲーをやらせるようなもの。ある意味で、とんでもない難易度。狂気の退屈。それはまるで、心を摘む闘い」
センは追撃を止めない。
足をわずかに回し込み、肩を押し上げるようにして体勢を崩すと、ロキの腕を取り、力の流れを完璧に操った。
「うぉっ」
衝撃が連鎖する。
上腕を取られ、肘が極まる。
その反動で、ロキの身体が宙を舞った。
床に叩きつけられる音が響いた瞬間には、
すでにセンの掌が喉元を制していた。
「ずぁああああああああ!」
「お前で準備運動しようと思っていたんだが……これじゃあ、屈伸にもなりゃしねぇ。ヒザぐらい曲げさせてくれよ、後生だからよぉ」
「っ、くそぉおおおおおおおお!」
抵抗しようとするロキの蹴りが空を切る。
センはその勢いを逆手に取り、体重を利用して転がし、再び壁際に叩きつける。
呼吸の合間すら許されない連続の制圧。
合気の理――相手の力を完全に利用し、無駄なく返す動き。
それは技巧ではなく、本能にまで刻まれた『支配の真髄』だった。
「こんな差があって……たまるかぁあああ!」
ロキの拳がもう一度振り抜かれる。
だがその瞬間、センの身体がわずかに沈み込み、指先で重心を奪う。
次の瞬間、肋骨に拳がめり込み、鈍い音が空気を裂いた。
ロキは膝をついた。
息が荒く、視界が霞む。
「もっと瀟洒にいこうぜ、ロキ。それがお前のアイデンティティだろ? ただ喚くだけじゃ、そこらのチンピラと一緒だぜ。キャラクター性を見失うなよ。そんな有様だと、グッズが売れねぇぞ」
センはその姿を見下ろしながら、淡々と息を吐いた。
そこに怒りも憎しみもない。
圧倒的な実力差と静かな結論だけが虚無と共に漂う。




