6063話 独善的に悪を殺す一瞬の光が止まらない。
6063話 独善的に悪を殺す一瞬の光が止まらない。
――どこかとどこかの終わらない戦場。
灰色の空の下、砕けた住宅街の向こうで煙が上がっていた。
『前線』と呼ばれながら、そこには病院も学校も、避難しきれない民間人の暮らしがまだ残っていた。
ある部隊の司令車両の中。
地図の上に無造作に置かれた指が、とある建物を示す。
そこは白い旗を掲げた医療施設だった。
「次はここだ。味方の補給路になる。撃て」
乾いた命令が落ち、砲兵隊が角度を調整する。
遠くで、壊れた車椅子を押しながら逃げ惑う母親が子を抱きしめ、震える声で呟いた。
「……助けて……誰でもいい……助けて……」
怒号が渦巻き、砲身がゆっくりと空を向いたその時――
空気を切り裂く音が戦場を貫いた。
誰も気づけない速度の『光の線』が、まず砲兵の腕を弾き飛ばし、次に作動しようとしていた自走砲の操作盤を切断する。
銃は宙を舞い、兵士は膝をつき、照準は溶けたように消え失せた。
だが、それで終わりではなかった。
司令車両の中。
さきほど医療施設を指し示した司令官の首元に、煌めく刃が走った。
光がひと筋、車両の壁を通り抜ける。
気付いた時、司令官の首は音もなく座席に落ちる。
兵士たちが遅れて悲鳴を上げた時には、刃の影すら残っていない。
一瞬で首を刈り取って一瞬で消える神業。
戦場のルールは、数秒単位で無効化されていく。
攻撃の『準備』も、『命令』も、『加害の予兆』すら……
――無慈悲で慈悲深い光によって中断された。
砲撃されるはずだった病院は静かなまま。
母親が子を抱きしめたまま、生きている今をかみしめる。
★
警察、軍隊、諜報機関――。
『攻撃を感知できない』という恐怖は、どの国の司令室でも共通だった。
レーダーは無言のまま、監視衛星の映像にも予兆はなく、赤と緑のインジケーターだけが規則正しく瞬く。
指揮官の怒声は天井に跳ね返って拡散し、オペレーターの指はキーボードの上で空を切る。
どれほど命令を積み重ねても、画面の中の『何か』は一向に検知されず、最後に残るのは『己の無力さ』だけ――その事実を、ひとりずつが静かに、しかし決定的に理解していく。
その頃、世界のSNSは爆ぜていた。
映像、断片、叫び、祈り。時間軸を追い越す速さで、無数の『目撃証言』が流れ込む。
『今、光が出た! たぶん、悪人が切られたんだ!』
『俺、腕が落ちるところ見た……マジで一瞬……』
『悪人、かわいそう。もう何もできないねぇ』
『できなくていいだろ……悪い奴はみんな死ね……』
『法が完全に無視されている……大問題』
『駅前で喧嘩が起きそうだったけど、途中でとまったわ。コントみたいでおもろかった』
『病院、守られた。ありがとう……ありがとう……』




