41話 第一回選択希望選手……
41話 第一回選択希望選手……
空気がわずかに冷え、倉庫の影が墨のように濃くなった。
床の油膜に黒が集まり、長い人影が立ち上がる。
細身、長身。
背に結った黒髪が月光のない暗がりでも艶を帯び、腰には異様に長い太刀。
切っ先は鞘に収まっているのに、空気だけが静かに裂けていた。
召喚されたのは、いにしえの剣豪――佐々木小次郎。
日本人なら誰もが名前ぐらいは知っている超有名最強級の達人。
鋭い眼差しと剣の煌めきだけが全ての修羅。
鞘鳴りが一拍。
次の拍で、抜き打ちが光に変わった。
踏み込みはほとんど見えない。
床板が鳴るより早く、太刀筋が三つ、空間に重ねられる。
水平。
返しの上段。
さらに返しての下段。
燕が空で軌道を折るように、同一線上で連なる三閃。
――かの有名な必殺剣技『燕返し』。
ロキの喉元に走る白線。
「ぬぉおおおっ!」
おたけびをあげつつ、ギリギリのところで首をひねり、紙一重でかわす。
その反応は人間離れしていた。
見事に致命は回避……だが、完全には逃れきれず、薄皮が裂け、細い血筋が鎖骨の上で赤を描いた。
「ぐ……」
首から流れる血を片手で抑えながら、
ロキは即座に後ろへ跳ぶ。
距離を開け、体勢を整える。
……だが、その必要はなかった。
佐々木小次郎の影は、太刀を一度だけ振り払うと、
墨が水に溶けるように輪郭を失い、すぐに消えた。
刃気だけが残滓となって倉庫に漂う。
切断の余韻が、梁の上で微かに震えている。
ロキは眉間に深いシワを刻んだ。
呼吸は乱れていない。
だが、視線の奥で計算が走る。
「……ずいぶんと……おかしな現象を目の当りにしたな……今のは……なんだ?」
己の血を見つめつつ、
「……明らかに、人ならざる異能。幻影か瞬間移動か……分からないが、おそらく、お前は、噂の囚人ヒッキエスのように、センエースから力を与えられているのだろうな」
倉庫の空気がわずかに沈む。
ロキも、転生文学センエースはかかさずチェックしている。
センエースの動向を正確に把握し、弱点を探るため。
だから、囚人ヒッキエスがセンエースから魔法の力をもらったことも知っている。
(……あたしのは、『与えられた力』ではなく、『なんか勝手に目覚めた力』なんやけどな……)
「さて、どうしたものかな……銃や武術ならいくらでも経験則で対応できるが……『未経験の魔法』を使われてしまうと、流石の俺も、対処の仕方に困ってしまう……」
トコはすでに、使用可能な異能の大半を使ってしまったが、
ロキには、トコの限界など知る由もないゆえ、二の足を踏んでしまう。




