37話 センエースは童貞の子沢山。
37話 センエースは童貞の子沢山。
「マジであんたを助ける気はない。あんたのことは、普通に死んでほしいと思っとる。ただ『あたしが助けんかったから死んだ』とか、そういう扱いになるんがキモいだけ。死ぬにしても、あたしの関係ないどこかで、ひっそり死んでくれ。あたしの心にわずかでも引っかかるな、鬱陶しい」
言い終えると同時、
――ロキが両手を広げて見せた。
歓迎のシルエット。
笑顔は柔らかいが、目は冷たい。
「よくきてくれた」
ロキはニコニコと微笑み、軽く頭を下げる。
「さあ、それでは、センエースについて、知っていることを全て話してもらうか。嘘をつかずに、素直に話せば、『君の大事な親友』は傷つかずに済む」
「実はセンエースは未来人で宇宙人で超能力者で異世界人なんや。あと、世界を思い通りに改変できる神っぽい力を持っとる。また、地元では『世界を大いに盛り上げるセンエースの団(SOS団)』立ち上げた」
「……」
「悩みは友達がいないことと、童貞であること、にもかかわらず子沢山すぎて、『名前を覚えきれてない孫』が山ほどおること。実は才能がなくて、根暗で陰キャで、キモオタ。性格は情緒不安定やけど芯が通っとる。孤独主義者で、世紀末リーダー気質で、ほかに――」
そこで、ロキはナイフをきらめかせて、
ユズの頬に傷をつけた。
血が跳ねて、ユズが悲鳴をあげる。
トコの目がキュっとなった。
ロキはしなやかに微笑んで、
「……それ以上……テキトーな戯言をほざくのであれば……今度は彼女の指を切り落とす」
「……」
「センエースについて知っていることを簡潔に述べよ」
「……センエースのことなんか知らん。逆に、なんで知っとると思うんや」
「転生文学センエースの作者なのだろう? なら、知っていてもおかしくないと思うが?」
トコはちらとユズへ目を流し、短く舌打ちする。
「……口の軽い女やのう」
呆れが混じった、乾いた声。
ユズは唇を噛むしかない。
ロキが肩をすくめ、軽い調子で添える。
「彼女を責めないであげてほしいね。一般人にしては粘った方だよ。最初は君の秘密に関して嘘をついて、俺を騙そうとした。ただ、俺の前で嘘は貫けないというだけの話さ」
「あ、そう。まあ、どうでもいいけど」
トコは一歩、前へ出た。
つま先が床の油膜をかすめ、体重が下へ沈む。
背すじはまっすぐ、顎は引き、両こぶしが胸の前で浮く。
準備完了――なかなか堂の入ったファイティングポーズ。
「ん? まさか、正面から俺と戦う気かい?」




