34話 煮るなり焼くなり好きにしてください。
34話 煮るなり焼くなり好きにしてください。
能力のしょぼさに、がくりと肩が落ちる。
「……まあええわ。次は……【プロット】いこか」
トコはノートを開き、ペンを握る。
「どうしよう……んー、ほな簡単に『知り合いから電話がかかってくる』とかにしようかな……」
書き終えてからスマホを構える。
文字を置いて数秒も経たぬうちに、着信が鳴った。
「お、マジでかかってきた……って、葛葉かい。お前は、かけてくんなや」
トコは渋い声で受話器に出る。
『――やあ、薬宮トコ。俺の声、わかるかい?』
「ろ……ロキ……っ」
『葛葉ユズは預かった。返してほしければ、東京湾岸の旧臨海倉庫群、桟橋二号棟裏手の〈B-12倉庫〉まで一人でこい。外壁に青い鳥のマークが描いてある古い木製の扉だ。センエースに連絡はするな。もし、この要求を断るのであれば、葛葉ユズは殺す』
「好きにせぇ」
トコは、通話をガチャ切りする。
「ロキのアホは、もしかして、あたしと葛葉が仲えぇとでも思うとるんやろか。……めちゃめちゃ嫌いやっちゅうねん。余裕で『死んでまえ』って思っとるわい」
そう言いながらもトコは、黒いジップパーカーを羽織る。
腹のカンガルーポケットに『小さめのメモ帳』と『護身用メリケンサック』を突っ込み、
「てか、センエースは、なんでロキを生かしとるんや。あんなクソテロリスト、最初に殺せや。もしくは、あのヴァルハラとかいう世界に転送せぇよ。あれだけイカれた変態を放置しとる理由はなんやねん。鬱陶しいわぁ……」
ぶつぶつ言いながら、左の内ポケットへ新品のボールペンを数本差しこんだ。
「あの女のことは、死ぬほど嫌いやのになぁ……ちっ……あーもう!」
と舌打ちしてから、
トコは、指定の場所へと向かった。
★
倉庫の空気は油と潮のにおいが混じり、古い木材が湿って軋む。
薄暗い蛍光灯が一灯、斜めに光を落としているだけで、
影が深く、床の油染みが黒く広がっていた。
ユズは折りたたみイスにがっちりと縛られ、手首と足首には工業用の結束具が光る。
口だけは縛られておらず、微かな震え混じりに喋ることは出来たが、声はかすれていた。
そんな彼女の横に立つ男――ロキが、
ナイフの切っ先をもてあそびながら、
「センエースはあの女子生徒……『薬宮トコ』を助けにきたように見えた。本来であれば、準備が整ってから、センエースに人質交渉をもちかけるはずだったが、何の連絡もしていないのにセンエースはきた。超能力でテロを予知したのかもしれんが……それよりも、『薬宮トコを助けるために動いた』と考えた方が自然だろう。自然が正答だと決まっているわけではないが、不自然よりは信用に値する」




